217.怒られた
「インフルエンザA型。咳に関しては、気管支炎を併発していますね」
病室で担当の先生から病名を告げられた。
先程までは、点滴を打たれていた。
あの液体が外から入ってくる感覚は、あまり味わいたくは無い感覚だ。それに、チクッと針で刺される感覚も嫌だった。
「それで、ここまで悪化したのには、恐らくですが、白村詩季さんが、かなりの疲労を抱えていた事が原因でしょう。免疫力が低下していました」
先生の話を母さんや祖父母が真剣に聞いていた。しかし、僕が疲労を抱えていた事を知ると呆れた表情に変わっていた。
先生は、今後の治療方針を話すと病室から出ていった。
点滴のお陰で、喉が痛い事と熱ぽさが残る以外は、体調は良くなっている。
「詩季、無理せんで良かったのに……」
静ばぁが、頭を撫でてくれている。
僕以外の皆は、感染予防でマスクをしている。
「無理している感覚は無かったんですよね。頑張っているだけだったんですよね」
「そこが、怖いところよね。普段なら誰かが止めることが出来た。だけど、黒宮本邸での1週間は、詩季を止める人が傍に居なかった」
春乃さんが僕のお目付け役だったが、関わってきた日数的には、僕の異変に気がつけたとしても対処の仕方が分からなかったと言う所か。
「とりかく、詩季!」
「は、はい……?!」
突如となく矛先が僕に向かったので、驚いてしまう。
僕は、病人ですぞ。
「あんた、これからは、8割頑張ったら休みなさい。10割頑張る必要は無いから」
「今後は、体調管理をしっかりすれば大丈夫だと思います――」
「いいね?」
「は、はい」
母さんは有無を言わさずに、言うことを聞けと言う雰囲気が漂っていた。この状態の母さんには何を言っても無理だ。
「とりあえず、1日入院する事になったし、着替えとか取りに帰る。羽衣、帰るよ。移ったら大変だから、今日は帰るよ」
「う、うん」
羽衣は、まだまだ、僕の近くに居たい様子だ。
「羽衣、元気になって帰るから」
「元気にならなかったらぶっ飛ばすから」
「わかりました」
羽衣から可愛い脅しを受けたので、病院ではゆっくりして早く回復する事が大事になりそうだ。
羽衣達が帰った後に、春乃さんが様子を伺いに来た。
「伝言、伝えたくれましたか?」
「うん。陽葵ちゃん達、驚いてたよ」
「情けないですよね。恋人になって初の彼女の誕生日。僕の誕生日は、盛大にお祝いしてくれたのに、彼女の誕生日には、体調崩してねぇ〜〜」
「仕方ないでしょ。インフルエンザなんて、かかろうと思ってかかれる病気じゃないでしょ。運が悪かっただけだと思うよ。運程度で破局するならその程度の関係だっただけじゃない?」
「あはは、確かにそうですね」
現実主義的な見解は、僕がよくしていた。
「春乃さん。僕が移ってません?」
「何ででしょうね。主従の関係になってからこう言う言動取りますね」
春乃さんは、いつも通りだ。
「ごめんね?」
「なんで、詩季くんが謝んの?」
「陽翔くんの誕生日。一緒に居たかったでしょ。それを、病人の世話のために黒宮の関係性を出してしまって」
春乃さんが、病気を紹介してきた時点で黒宮家……清孝さんか誠子さんには、僕の体調不良の予兆が見抜かれていた事だ。
「いいよ。お友達の体調不良に何もしない方が後味悪いしね」
「そう言って貰えると助かりますね。それにしても、黒宮家に借りが1つ出来てしまいましたね」
今回の入院に関しての費用は、黒宮本家が全て持つ事になった。
母さん達は、自分達で支払うと言っていたが春乃を経由して病院を紹介した手前、払うとの一点張りだったのだ。
「それは、違うなぁ〜〜黒宮からの借り返しだよ」
「借り返し?」
「真司郎様の事覚えてる?」
真司郎くんは、よく覚えている。
黒宮本邸にお世話になった初日にお話して仲良くなったのだ。
内容が恋愛相談だったのは、驚きだったが。
「詩季くんと話した後の真司郎様は、物凄く前向きに学校とか幼馴染との関係に前向きになりだしたからその借りがひとつ」
「もう1つありそうですね」
「詩季くんへの投資の意味合いが強いみたいよ。スワングループと未来創造の一件の報告を受けた清孝様がね」
借りは返せど、次の借りは作っておくか。
僕自身が、有能で使える人材だと見られているなら有難い事ではあるが、複雑だ。
「これ、頼まれてたスマホ。2種類ね」
緊急で、病院に行ったのでスマホを持って来ていなかった。
春乃さんに頼んで家からプライベート用と黒宮支給の2つを持って来て貰った。
プライベート用のスマホには、陽葵からメッセージが届いていた。
『 (陽葵) 私は、全然怒っていないから!ゆっくり、休んで体調戻してね!体調回復したら、その時にいっぱい甘えるから』
陽葵は、僕が誕生日会に行けなかった事に罪悪感を覚えているのを理解して最初に、「怒っていない」と言ってくれた。
本当に、彼女には助けられてばかりだ。
コン♪コン♪コン♪
「はい?」
「久しぶりねぇ〜〜また、詩季くんの担当になるとはねぇ〜〜」
「あはは」
病室入ってきたのは、前回の入院の際に僕の事を担当してくれた看護師さんだった。




