214.数の原理
「何処に遊びに行っていたのですか?」
陽翔くんと春乃さんのデート先を聞き出したいと思った。
自分のデートに役立てると思ったから。
「えっと、最初はゲームセンターに行って……それから雑貨屋さんで小物とか見た」
ふむふむ。
ゲームセンターへのデートは、祖父母に反対されそうだな。でも、人が少ない時間を狙えばいいか。
「詩季くん。何、考えているの?」
春乃さんから聞いた答えを考えていたら、逆に、春乃さんから質問された。
「いやぁ~~陽葵とのデートに参考に出来るかなぁ~~と。如何せん、僕の脚の状態で我慢もさせているでしょうし……」
「それは無いと思うぞ、詩季」
「……??」
陽翔くんが言ったことに対して、僕は理由がわからずに頭を傾けた。
「陽葵は、活発だから外で遊ぶのも好きだ」
「でしょ。だから、僕に付き合わせていたら……」
「陽葵は、詩季と一緒に居る時間を楽しんでいるからな。自分の我儘を通して詩季が体調不良になったら責任感じるだろう……だから、無理に陽葵のペースに合わせる必要はない。むしろ、今の詩季が好きになってんだから自然体でいいだろう」
自然体から。
僕自身の自然体がどれなのかは、よく解らないが。流れに身を任せればいいだろう。
「そうですか」
僕としてもこれ以上は、考えることは辞めようか。
「まぁ、2人の恋路は遠目に見て応援して、時折、突っ突く程度にしますよ」
「たまには、ちょっかいかけるのかよ……」
「ただ、安心してください。告白してそれを受け入れざる得ない状況にはしませんから」
「「……え??」」
陽翔くんと春乃さんの2人は、驚いた表情をした。
「それはどういう事?」
「例えば、文化祭の後夜祭にある告白祭りがあるでしょう?」
「う、うん。毎年、盛り上がっているって聞くよな」
「来年の文化祭では、後夜祭自体を廃止して告白祭りをも廃止する方針です」
僕の意見には陽翔くんも驚いていたが、同じ生徒会の春乃さんはそれ以上に驚いていた。
「おいおい、大丈夫か?文化祭においての一大イベントの廃止は大丈夫か?」
「文化祭においての一大イベントは、クラス展示や舞台・模擬店だと思いますけど?」
「詩季くん。たしかに、文化祭の主旨的にそれが正解なのかもだけど、文化祭で培われた絆を――」
「ん〜〜だったら、告白祭りで大多数の前で告白せずとも1体1ですれば良いだけの話だと思うけど?」
春乃さんは、まだまだ納得は出来ていないようだ。
「でも、そういう告白されたからこその思い出になるじゃん」
「たしかに、そう言うの告白で付き合いだしたら思い出になると思います」
「だったら――」
「全部のカップルがそうだと言い切れますか?」
告白祭りには、全校生徒の6割以上の生徒が平均して集まる。その生徒達が、カップルの成立・不成立をワクワクしながら楽しんでいる。
文化祭マジックでいい感じになってから後夜際の告白祭りでの告白からのカップル成立はたしかにいい思い出だろう。
これが、正の場面だとする。
ただ、その一方にある負の側面は無視しても良いのだろうか。
政治の世界だって特別の規定がない限りは、数が多い方が優先される。
法案に関しては細かい規定があるようだが、選挙においては、より多くの票を集めた人が勝ちだ。
基本的に、この数の原理を尊重していてもいい場面がほとんどだが、数の原理を度外視しないといけない場面もあるだろう。
それは、男女交際の場面だと思う。
その男女交際の始まりである告白の場面で数の原理を働かせても良いのだろうか。
政治の世界だって、基本的には数の多い方を優先される中で少数の意見という見方もあるぐらいだ。
「沢山の生徒からカップル成立不成立を見届けられます。この空気は得てなくても断れない空気と一緒ではないでしょうか?人に寄りますけどね。特に、常にクラス内やグループ内で空気を読んで潤滑油的役割を果たしている生徒にとって」
僕の疑問点の提示には、陽翔くんと春乃さんも考える所があるようだ。
「確かにねぇ〜〜常に空気を読んでその場の空気を優先している人は、空気を読んで好きでもないのに受けちゃうかもね……中等部時代の詩季にぃさんがまさにそうだったもんね」
羽衣の言葉に、僕自身も突き刺さる物がある。それに、事情を知っている2人は黙り込むしかない。
「経験者は語るか……」
「そうですね。僕に関しては内々に済みましたけど、実際に、生徒会や先生方が仲裁する事案も発生しています。先生方も後夜祭は続けても良いが告白祭りの継続には難色を示している方も居ます」
「友人関係の破壊は、異性関係だもんな」
おばさんが言っていた事を陽翔くんが言った。陽翔くん自身もおばさんのこと言葉が強く印象に残っているのだろう。
「基本的には数の原理に基づいて物事を決めるべきだとは思っています。だけど、こういう事は数の原理で考えてはダメでしょう」
だって、男女交際において最終的にはHが入ってくる。避妊だって完璧じゃない。望まない妊娠だって起こり得るのだ。
少しばかり重い空気になったが、ここは明るく戻すとするか。
「折角のデートを重い話をしてすみません。お二人の恋路に関しては、そういう空気にしないようにしますのでご安心を!」




