213.カフェ
「ただいまぁ~~」
「おかえり」
静ばぁが出迎えてくれた。
「母さんは仕事?」
「うん、仕事に行ったよ。今日からは、向こうのお家で生活みたい」
確かに、今日、学校に行く時は寂しそうな雰囲気を隠せていなかった。
「……詩季」
「なに?」
「寂しいって思っているでしょう」
リビングに移動して、静ばぁが紅茶を用意しながらそう言ってくれた」。
「……うん。最近、思い出しました」
「だったらさぁ、しずかと一緒に生活する環境に戻るべきなんじゃないかな?本来の家族の形に戻るんだよ」
「……え」
静ばぁからの提案に、僕は手に取ったお菓子をお皿に落とした。
「別に、詩季と羽衣が嫌いになったんじゃないよ。私と健三は、70超えてる。いつ、寿命が尽きてもおかしくない」
静ばぁは、元の家族の形に戻るように促している。
「もちろん、しずかとの関係修復を急がせる事ではないよ。詩季のペースでね。だけど、私に依存しすぎてはダメだよ」
「母さんとの関係改善は努力する。だけど、静ばぁとの関係も今まで通り」
「……いい男に育ったねぇ~~」
静ばぁは、僕の頭を撫でてくれた。
「たっだいまぁ〜〜」
自室で勉強をして待っていると、羽衣が帰宅してきた。
僕は既に外出用の直ぐに着替えてから勉強していたので、何時でも家から出られる。
階段をタタタと登っていく音がする。
僕は、勉強道具を片付けてから上着を羽織ってリビングに移動する。
「これから、兄妹でお出かけね。遅くならないようにするんだよ」
「はい」
今朝のうちに、羽衣と何処に出かけるから申告済みだ。
「詩季にぃ、お待たせぇい!」
「羽衣、もっと大人しく階段の昇り降り出来なんですか!」
「詩季にぃとのデートが控えていたら出来ない!」
きっぱりと言い張る羽衣に、何も言い返す事は出来なかった。
羽衣と家を出て向かうは、駅近のショッピングモールだ。
本当は繁華街とかに出て買い物をしたいが、そこに行くだけどスタミナと時間は無い。
「これなんてよくない?」
ショッピングモール近くにある雑貨屋さんが目に止まった僕と羽衣は、お店に入った。
「確かに、いいかもしれません。羽衣もよく使う?」
「使うよ。陽葵ちゃんだって、詩季にぃとのデートの時は使うと思うよ」
僕と羽衣が目の前に見ているのは、手鏡だ。
「例えば?」
「例えばねぇ〜〜詩季にぃさんに会う前に、少し髪型を直したり、お化粧がおかしくないか確認したりするのに使ったりするんだよ!」
「女の子は、大変なんだね」
「そうだよ!好きな人に可愛いと思ってもらおうと頑張ってるんだから!」
そう言えば、陽葵と遊んだりする時に綺麗とか言ってなかったな。
今度からそういう事をしっかりしないと、大切な人との関係性の発展所か維持できなくなるかもしれない。
僕は、羽衣の頭を撫でる。
「うわぁ、どしたのさぁ」
「ん〜〜大事な事、気づかせてくれたお礼」
「まぁ、何だって、詩季にぃに撫でられるのは好きだぜぇ〜〜極楽浄土じゃぁ〜〜」
僕と羽衣は、この手鏡を第1候補にショッピングモールにもプレゼントを探しに行ったが、手鏡以上に気に入る物が見つからなかったので、お店に戻り手鏡を購入する事にした。
「ありがとうございます!」
女性店員からのお礼の言葉と共に、プレゼント包装してもらった手鏡を受け取る。
「羽衣、ありがと。いいの買えたと思う」
「どういたしまして!」
「時間も余った事ですし、カフェでケーキでも食べていきましょうか!」
「うん!」
近場のカフェでケーキを注文して支払いを済ませて、羽衣がトレイで運んでくれている。
すると、見知った人物が2人きりでデートしていた。
「「「あっ」」」
羽衣以外の3人の声がハモった。
「おぉ〜〜春乃さん。良かったでは無いですか。主人として嬉しい事はありませ――手刀の構えはやめなさい?」
カフェでお茶をしていたのは、陽翔くんと春乃さんだった。
放課後に、陽翔くんが春乃さんに話しかけているのを目撃していましたが、デートに誘ったとは。
自分を棚に上げてから関心するものがある。
「では、お邪魔虫は退散――」
「一緒にお茶しようぜ!」
陽翔くんから誘われたので、春乃さんが陽翔くんの隣に移動して、空いた席に羽衣と隣同士に座った。
この席順になった理由は、陽翔くんから、「春乃とのデートでの緊張がヤバい。助けてくれ」と言わんばかりの雰囲気を感じたので、荒療治を仕掛けた。
「2人は、デートですか?」
「いっ、一緒に遊んでるだけだよ。なっ?」
「う、うん。陽翔くんに誘われたから」
「それをデートと言うのでは?」
「「うぐっ」」
僕からのブーメランが2人に刺さった。
「何はともあれ、2人の仲が壊れていないことが安心です」
「詩季にぃさんの言うことを通訳しますと、春乃ちゃんと詩季にぃさんの関係性が影響して2人の恋路に亀裂が入っていなくて良かったと言っています」
羽衣が、僕の発言をすかさず通訳した。
羽衣の言葉を聞いた陽翔くんと春乃さんは、2人とも顔を真っ赤にしている。
僕は、それを眺めながらケーキを食べていった。




