210.招待状
ピー♪
試合終了を知らせる笛が鳴った。
試合は、桜宮高校の勝利で終わった。
試合が終了して応援席への一礼をしたサッカー部員がベンチの片付けを始めたのと同時に、応援席の片付けを始めた。
陽葵は、ハーフタイム終了直前に応援席に戻って行った。
おばさんは、車を取りに立ち上がったので僕も着いていく事にする。
「あれ?陽葵達と合流しないの?」
「人混みになってしまいますと、どうしても流れを遮ってしまいますので、先に場外に出ておこうと思います」
「そっか」
おばさんは、僕の歩くスピードに合わせて歩いてくれて、エレベーターに乗って下に降りて、駐車場まで移動した。
「車、停められたんですね?」
「ギリギリだったよ。コインパーキングも視野に入れてたからラッキーだね」
「日頃の行いがいいんですね」
「そりゃ〜〜バカの双子の世話してますから!」
おばさんは、子どもの事を話す時は嬉しそうだ。
「詩季くん、帰りは乗ってく?」
「いや、奈々さん達も乗せるとなったら定員オーバーでしょう。春乃さんにお願して迎えの車を用意してもらいます」
「そっか」
既に、春乃さんには春樹さんに連絡を入れてもらっている。
「それと、詩季くん」
「はい?」
「少し、やつれてない?何処か顔色が悪いよね?」
「気の所為ではありませんか?何処も体調不良は、感じていませんよ」
「詩季様、本当でしょうか?」
春乃さんが、話に入ってきた。
しかも、様呼びなので黒宮モードでの質問だ。
「しずか様より、今朝から顔色が優れていないと違和感を覚えられたと報告を受けました。羽衣様の手前、詩季様本人に言っても隠す傾向にあるから、よく見てほしいと」
そんなに、僕の顔色は悪く見えていたのだろうか。そんなに、体調が悪いというような感覚はないのだが。
「大丈夫だと思いますよ」
僕の一言で、おばさんと春乃さんは追求はせずに居てくれた。
「あ、詩季居たぁ〜〜」
皆が、場外に出て僕達を探してくれたようだ。
「脚の事があるので先に出ていました」
「そっか♪」
陽葵は、ご機嫌な様子で僕の隣に陣取った。
「陽翔くんは、春乃さんの隣に行かないんですか?」
「え、は、春乃が、いいなら」
「い、いいよ!」
本当に、この2人を見ていると面白いと思う。
「春乃ちゃん?詩季を殺意に満ちた目で……何で、見てるの?」
おっと、春乃さんの地雷を踏んだようだ。まぁ、何度も踏んでいるのでわざと踏んだとも言えるがな。
「いやぁ〜〜陽翔くんや陽葵ちゃんの前じゃなきゃ〜〜部下を遊んで楽しむ主人に手刀お見舞いしてたんけどなぁ〜〜?」
「さぁ〜〜僕と陽葵には、散々、くっ付けと煽ったのに自分は複雑な迷路に迷っているしどろもどろさせられている身にもなれとは7割以上思っていますけど?」
僕と春乃さんの言葉合戦に、周りは少しばかり引いているように見える。
「こらこら、喧嘩しないの!」
おばさんが、止めに入った。
「「喧嘩と言う訳では無いのですけど(無いです)」」
「あ、あれぇ〜〜じゃただの煽り合い?」
「「そうです(ね)」」
「息ぴったりね」
おばさんも、引いているように見えた。
「詩季、応援に来てくれてありがとな」
「いいえ。お礼は、学校のジュース1年間奢りでいいですよ?」
「高ぇわ!……というか、冗談言えるんだな!詩季も」
「割と本気ですよ?」
「本気だったら怖いぞ……」
「冗談に決まっているでしょ?」
「詩季の真顔は、本気だと感じちまうんだよ」
瑛太くんのツッコミに、周りには笑いが起こっている。
「ところで、詩季」
「どうしたのですか?」
「帰りは、車に乗っていく?」
陽葵から帰りはおばさんの車で帰るかを尋ねられた。
「乗っていけよ。俺と奈々は、2人で歩いて帰るからさ」
瑛太くんと奈々さんも後押ししてくれているが、あいにく、春樹さんを呼んでしまったのだ。それに、今日頑張った人を歩かせるのも違うと思う。
「いえ、実家の方が迎えに来ますので、そちらに乗って帰ります。ですので、今日頑張ったけどシュート決められなかった瑛太くんは、おばさんの車で帰ってください」
「…………気を遣われているのか貶されいるのか解らねぇな?」
「4対6じゃないですか?」
「割合はどっちだ?」
「想像におまかせしますよ」
結局は、奈々さんに追撃を喰らった瑛太くんが降参して、おばさんの車に乗って帰る事になった。
皆が帰るのは、僕と春乃さんが帰った後にするそうだ。
「詩季、明日からまた迎えに行ってもいい?」
「いいですよ」
「うん、やった!」
陽葵は、嬉しそうな表情だ。
「あぁ、皆には既に渡してたけど……」
おばさんは、カバンの中から封筒を2通取り出して、僕と春乃さんに手渡して来た。
「これは何ですか?」
「陽葵と陽翔の誕生日会の招待状。終業式の翌日に予定しているから」
陽葵の誕生日がもうすぐなのは、知っていた。
自分の誕生日にいいプレゼントを貰ったのでお返しをどうするかを悩んでいた。今度、羽衣に相談してみようと思う。
好きな人へのプレゼントを選ぶのは、結構大変なんだなぁ~~と思う。
「詩季くん、車が来たよ」
「はい。では、皆さん。また明日です」




