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208.客席

 車は高速に入った。


 僕と羽衣は、久しぶりに住み慣れた環境に帰ることのできる安心感で少しばかり安堵している。


 羽衣は疲れ切っているようで、座席に深く腰掛けていた。


「疲れましたか?」

「うん」


 基本的に信頼した人の前では明るいが、元々が人見知りするタイプの女の子なので、1週間の最初の頃は気疲れしていたのだろう。


 僕は僕で、色々と動いていたので疲れもあるしストレスもある。


「今日は、すぐに寝ましょうか」

「うん」

「なら、移動中は寝たらどうですか?」

「うん」


 羽衣は余程眠かったのか、すぐに寝てしまった。


 僕は、暇だったのでSNSを眺めだした。


 そう言えば、この1週間はほとんど見ていなかった気がする。


 すると、奈々さんの呟きが流れてきた。


『 瑛太の応援! お友達の皆ときている! 2人は用事で来れないからここで雰囲気を共有!』


 そういえば、今日はサッカー部の冬の公式戦の日だった。


 皆で応援に行こうと話があったが、僕と春乃さんは家の用事で参加できるかが不透明うだったので、参加しないことになっていた。


 添付されている写真には、陽翔くん・陽葵・奈々さんの3人の写真が添付されていた。


「かわいいなぁ~~」

「かっこいいなぁ~~」


 僕が陽葵をかわいいと思ったのと同じ時に、春乃さんが「かわいい」と発した。


「春乃さんも奈々さんの呟き見ていますか?」

「うん」


 試合開始までは、まだ時間がありますね。


「詩季様、会場はどこですか?」

「〇×会場です」

「なら、40分位で着きます。春乃と共に行きますか?」

「そうですね。行きます。母さん、羽衣の事頼みます」

「うん」


 僕は、サッカー場に瑛太くんの応援に行く事を決めた。


 もちろん、瑛太くんの応援が主な目的だ。ただ、副目的の陽葵に会いたい事が60%近い目的があったりもする。


 付き合いだしてから僕の部屋でキスをしていたが、黒宮本邸にいる間はキス出来ていないし、2人キリになれていない。それに、陽葵と話したい気持ちがこの1週間で、日に日に強くなっているのだ。


「え、私も?いいの、お父さん?」


 春乃さんは、従者としての仕事を途中で放棄する形になる事に戸惑いを見せている。


「いいよ。一度の高校生活なんだから、友人との関係も大事にしなよ」

「うん」

「……それに、そこには春乃の想い人居るんでしょう、詩季様?」

「はい。居ますよ。さっきもSNSの想い人の画像を見て見惚れ――アダァ!」


 羞恥心に耐え切れなくなった春乃さんが手刀をお見舞いしてきた。


「ふへぇ~~」

「ごめん、おこしちゃったね」


 僕の声が大きかったせいで、羽衣が起きてしまったので、頭を撫でてあやしてあげる。






 試合会場に到着したので、僕と春乃さんは降ろしてもらった。


 対戦表が書いてある掲示板を見たら、どっち側に桜宮高校の応援団が布陣している場所を記載されていたので、移動していく。


 途中に、西原さんの家の車があったのでおばさんかおじさんが、皆を送ったのだろう。

 

 入口付近の係の人に受け付けをしてから、階段を上がっていくとサッカー場が広がっていた。


 グランドでは、各学校で作戦会議?をしているようで、もうすぐ試合開始なのだろう。


 一部に、桜宮のシンボルカラーのピンクが目立つ空間があった。あそこが、応援席なのだろう。


 ただ、人混みに進んで入ろうとは思えなかったので、何処か離れた場所で観戦しようと思い、場所を探す。


 陽葵達は、あそこの応援席で応援しているのだろう。


「春乃さんは、あそこに混ざりますか?」

「い、いやぁ〜〜人混みが苦手なのと……一応は、まだ従者としての業務中だから……」

「本音は?」

「……心の準備が出来ておりません」

「それを陽翔くんの前でも見せればイチコロだと思うんですけどね」

「簡単に言わないでよぉ〜〜」


 丁度よさげな場所を発見した。


 すると、見慣れた人物が居たので近くに行く。


 向こうも、杖の音で反応して僕の方を見ると、少し驚いた表情をしていた。


「おはようございます。おばさん」

「びっくりした!詩季くん、来れたんだ。それに、春乃ちゃんも」

「は、はい!」


 僕は、おばさんの隣の席に座った。春乃さんも僕の隣に座ることにしたようだ。


「あれ?向こうに行かないの?」

「人混みが苦手なのと、応援でわちゃわちゃするでしょう?それだと、試合が見れませんし応援の邪魔になりますからね」

「そこまで言われると、何も言い返せないね。陽葵と陽翔呼ぼうか?」


 おばさんの提案に、春乃さんがピリッと緊張しだした。


「大丈夫です。今は、あそこでの応援を楽しませてあげたいかなぁと思います。僕の脚の事で我慢もさせているでしょうし」


 元々、羽衣と似ている性格をしているので活発な女の子だ。ただ、僕と一緒の時は、遠慮させていると思う。


「そんな事はないよ。陽葵は、詩季くんと一緒に居ることが、本当に楽しく思ってるみたいだし」

「そうだといいのですが」

「だって、この前、詩季くんから甘えて貰った事が嬉しかったみたいで、問い詰めたら嬉しそうに話してたから」


 知らない間に、この前の事がおばさんに筒抜けになっている。という事は、祖父母が知っている可能性も高い。


 家に帰ったら、喋らずともニヤニヤした雰囲気が漂っていそうだ。


「「「「「シャー!!!!」」」」」


 気が付くと円陣が組まれていた。


 試合開始の一歩手前なのだろう。


 ピー♪


 数分後には、試合が開始した。


 電光掲示板には、FWに瑛太くんの名前があった。


 瑛太くんは、ボールを貰うと相手陣営に向かってドリブルをしていた。


「そう言えば、今日は向こうから来たの?」

「そうですね」

「じゃ、終わったら向こうに帰るの?」

「いや、向こうから家に帰る途中で試合開始に間に合いそうなので来ました」

「おぉ、静子さんも喜ぶんじゃない?」

「 そうだといいですけど」


 おばさんは、向こうと言って濁してくれている。


 黒宮家と言う単語を濁してくれている事は、本当に有難い。


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