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204.経験の差

「お待たせいたしました」


 僕は重々しい空気が漂う会議室に入って、母さんが指定した椅子に腰かけた。後ろの方に、春乃さんと黒服さんが立っている。


 母さんより先に、ここに来ていたが以前と同様に顔パスで入れたので、ここのセキュリティシステムのガバガバ具合が面白くて、社内の散歩をしていたら時間を忘れてしまった。


「お、おい……2人が着ているその上着の紋章は……」


 父親は、僕と羽衣より上着が気になるようだ。


 僕は、左手を後ろに回して黒服さん(春樹さん)にサインを送った。


「黒宮家の代表者も出席すると言ったでしょう?」

「黒宮家の代表者……だと?」

「詩季、挨拶しな」

「かしこまりました」


 僕は、先に座ったままの挨拶であることの詫びを入れてから挨拶をする。まさか、大河ドラマとかで聞くセリフを僕が発する事になるとは思わなかった。


「黒宮家の現当主である黒宮清孝の名代で来ました、白村詩季と申します。よろしくお願いいたします」


 ガァン♪


 会議室内に金属製の机に堅い物が当たった音が響き渡る。


「貴方、自分たちの立ち位置を理解していないようですね。1つ1つの行動が今後の交渉に響く事をお忘れなく」


 僕が黒宮の代表としてきた事……黒宮家と関りを持ったことを知った父親が、母さんに向かって飛び掛かろうとしてきたので、春樹さんが制圧した。


「す、すみません……」


 父親は、椅子に戻った。


「な、なんで、詩季と羽衣が黒宮家と関りを持っているんだよ」

「僕と羽衣は、黒宮家と復縁しましたから。僕自身、この脚の状態だと将来を見据えると、これほど強い人脈はありませんから」


 予想通り、自分の子どもが黒宮家と関係を持っている事実は、父親のプライドをへし折ったようだ。


「まぁ、話はそれましたが、我々、黒宮家としては、貴社との取引は契約期間満了をもって止めます。そして、設立資金援助の際の契約に基づき、返済期限も契約期間満了後1年以内に返済必要分を返済してください」


 母さんが、交渉を開始した。


 黒宮家にとっては自分達のお金が回っているだけに見える。


 設立資金援助をして未来創造にお金を渡したが、取引もしてお金を落としている。そのお金を返済に当てるとしたら、見方によっては相当な援助だ。


 ただ、その援助にあぐらをかいた未来創造の幹部連中の失敗が、この現実を招いているのだろう。


「取引停止の理由を聞いてもいいか?」

「まずは、貴社からスワングループに納品された商品の不良がいくら要請しても直らなかった事ですね」


 母さんが述べた理由を聞いて、いかに清孝さんが温情を掛けていた事がわかる。


 品質が悪い物を納品され続けて10年以上を我慢していたのだ。しかも、手直しを自社で行っていたというのだ。


「修正する。修正するように努力するから、何とか、取引を続けてくれ……いや、続けてください」


 石川くんの父親は、親しい時の口調になりかけるが、慌てて訂正している。


「10年以上改善されなかった品質をどのように改善されるおつもりですか?」

「そ、それは、これから社内で検討しますので……」

「検討するという事は、取引停止を告げられる理由の検討すらしていなかったという事ですね。……よく、それで交渉に挑もうと思いましたね」


 母さんは、交渉相手の能力の低さに呆れているように思える。


 この様子を見るからに、これまでこの会社の交渉に関して、ほとんど、母さんが行っていた事が見受けられる。


 交渉力に関して、雲泥の差だ。


「はっきり、申し上げます。黒宮家そしてスワングループは、10年も改善されなかった品質が、今更、改善されるとは思っておりません。そして、これは1つ目の理由にほかなりません」

「ま、まだ、あるのか……?」


 未来創造側の幹部は、更なる理由に戦々恐々と言った様子だ。


 主導権は完全に母さんが掴み、主導権を渡さない布陣を敷いている。


「2つ目は、黒宮家の方針で子どもを大切にしない企業とは取引をしないという事です」


 スワングループ側もこの理由には、心当たりがあるようだ。


「し、詩季くんの事か?」

「そうだね。実の子どもが、こんな状態・状況になったのに、呑気にイギリスで仕事をしていた幹部夫婦の行動ですね」

「ちょ、ちょっと待てよ。黒宮家が、詩季くんの父方の祖父母なら……」

「何ですか?」

「完全に白村家の問題じゃないか。それに、なぜ未来創造が巻き込まれないといけない!」


 石川くんの父親は、隙を見つけたと言わんばかりに、反論をした。


 しかし、母さんはその程度では怯まなかった。これは、これまでの交渉の舞台に立っていた経験の差だろう。


「確かに、白村家の問題という側面があります。私は、自主退職しましたが……若干1名が幹部に留任していますよね?」


 白村家内で問題が起きたのならそれ相応の責任の取り方というのがあるのではないか。


 黒宮家からそう告げられているように思える。


 これだけでも1つの答えになるだろう。しかし、清孝さんならこの場面をピークにするだろうか。


 白村家内の問題だけで、一社を潰すように動くだろうか。


 石川くんの父親の言う事も一理ある。


「大枠の話し合いは終了したみたいですので、僕は社内の見学をさせて頂きます」


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