203.夫婦喧嘩
「セキュリティシステムは、どうなっているのかな?」
会議室の扉が開き、入ってきた人物にお父さん達は、目を見開いた。
私達3人も今の状況を処理できないでいる。
「……しずか!」
聡さんが、第一声をあげた。
「しずか様。どうぞ、こちらにお座りください」
「もぉ〜〜そんなに、かしこまらなくていいのにぃ〜〜私と君の仲じゃん?」
私のお母さんは、急いで新しい椅子を用意した。
「葉月、もう2脚用意して」
「う、うん」
お母さんは、しずかさんの要望通りに、椅子をもう2脚用意した。
「しずか、帰ってきてくれたんだなぁ!」
大海くんのお父さんは、安堵の様子を見せている。
「え?私は、スワングループ側で来たんだよ?説明、聞いたよね?スワングループの親会社の代表として、この場に私は居るんだけど?」
しずかさんの発言に、大海くんのお父さんは、さっきまでの安堵の表情が一転して、体調が悪そうな表情に変わった。
「で、でも、しずかが交渉役なら可能性高くなったんじゃない?」
大海くんのお母さんが、大海くんのお父さんを宥めていた。
「ふふっ!」
しずかさんは、2人の様子を見ると鼻で笑った。
「ど、どうしたの……しずか……」
しずかさんの様子に、大海くんのお母さんは、怯みを見せている。
「会社の事があるんだから、甘くなる訳ないでしょう。君達の、甘々な考えは変わらないね」
「し、しずか、どうしたんだよ。優しい、しずかは何処に行ったんだよ」
私の見た事のあるしずかさんでは、無いのは確かだ。
怖い。
あの怖さを私に向けられたら、色々と制御が効かなくなりそうだ。
聡さんも、こんなしずかさんを見た事がない。元通りになってくれと思わんばかりの様子だった。
「……と、所で、しずかが代表で来ている会社の名前は何なんだよ」
「見ても、ショック受けないでよ」
しずかさんは、そう言うと名刺を取り出してスワングループの職員さんに渡して私達含めた全員に手渡してきた。
『 株式会社 黒宮グループ 経理課 課長 白村しずか』
「まぁ、経理ってのは肩書きで、黒宮グループの幹部としてこの場に居る」
「お、おい……しずか。黒宮グループって……」
「そそ、あんたの実家の会社」
初耳だ。
聡さんの実家が、あの名家の黒宮家。
という事は、詩季も黒宮家の子どもってことだよね。
「未来創造はスワングループを介して、黒宮家からの資金援助を受けていた。そして、設立後は黒宮グループと実質的に取引していた事になるね」
しずかさんの言葉に、皆、状況を理解出来ていない。
「この話を持って来たのは、しずかだよな」
「そうだね」
「何で、黒宮と組んだんだよ。俺の気持ちを考えて――」
「じゃぁ、聡のプライドの為なら私が色んな男の人に抱かれても良かったって事?」
「な、何を言って……」
「あははッ!そこが甘いんだよ」
しずかさんは、笑った。
そこには、聡さんに対して失望を感じている様に思える。
「あんたらの会社設立の企画書だとほとんどが、門前払い。設立資金を援助してやってもいいけど当時の40代のおっさんと寝る事が条件になったりしたんだよ。それでも、返済期間は、一般的よりも早かったりしたんだよね。そっかぁ、聡は自分のプライドが保たれるなら、私が、別の男に抱かれても良かったんだぁ~~」
皆は、しずかさんから知らされた事実に、驚愕の表情だ。
大人社会の闇部分を見せらているように思える。大海くんと莉緒ちゃんの性事情がかわいく思える。
「そ、そんな事は……」
「じゃぁ、当時、今のような話をしてさぁ~~納得した?実際の現場を知らないあなたなら私の努力不足だって言って、黒宮からの提案を突っぱねていたでしょう?」
「ぐっ……」
「私だって女のプライドがある。認めた人以外に抱かれるなんてもっての他。当時のあんたならまだ認められたんだけどね……今は、何でお前と結婚した事を後悔しているよ。まぁ、あんたと結婚したから詩季と羽衣に出会えたんだけどね」
聡さんとしずかさんの夫婦喧嘩が、目の前で行われている。
お父さんたちは、自分たちの尻拭いをしてきたのがしずかさんだと言う事に、ショックと動揺を隠せていないようだ。
「な、なぁ、その話はここまでにして……取引と設立資金の返済に関しての話し合いをしないか?」
大海くんのお父さんが宥めるようによう言った。
「そうだね。多分、そろそろここに来るだろうし~~」
「まだ、誰か来るのか?」
しずかさんからは、まだこの会議に出席者が居るかのような言い方だ。確かに、しずかさんはお母さんに、椅子を追加で2脚貰っていた。
私の中で、色々と繋がっている事がある。
「居るよ。今回の会議には、黒宮家の代表者も出席するから」
コン♪コン♪コン♪
学校で聞き慣れた床を叩く音が響いている。
土曜で会社内に人が居ない事で、その音が廊下中に響き渡っている。
「遅いよ。どこ、散歩していたの。詩季に羽衣」
「すみません。ここのセキュリティがガバガバすぎてどこまで入れるのかを試したくなりまして」
「解ったから、そこの椅子に座りな」
詩季が、「また明日」と言った理由はこれだったか。




