197.大丈夫
「陽葵、タイツにしたんですね」
今朝、陽葵を見たら手を繋ぎたくなったので、現在、手を繋いでいる。
勢い余って、手を繋いでしまったせいか、話題に困ってしまったので、陽葵に現れた変化を伝える事にした。
「うん、寒くなってきたから」
「そう言えば、最初にスカート捲ってきた時も、タイツ履いてましたね――アダッ!」
「もう、皆の前でそういう事言わないの」
「……すみません」
「よろしい」
あと少しの学校の道のりを歩く。
「ねぇ〜〜しきやん。はるのんと妹ちゃんと一緒の車乗ってたけど……昨日、関係性を聞いたからある程度……納得出来るけど……」
多分、昨日の説明では、全てを納得は出来ていないかもしれない。
「……あの高級車は何?!どんだけ、大きなお家なの?!」
前言撤回しましょう。
奈々さんは、納得していなかった訳では無い。ただ、車に驚いただけだろう。
奈々さんは、口が軽そうに見えがちだが、口は堅い。信頼に値する人だ。
「春乃、周りに人は?」
「居ません。詩季様」
「んえぇ、呼び捨て?」
「よ、呼び捨て……ん?詩季様?」
あえて、春乃さんを呼び捨てで呼んだ。
奈々さんだけでなく、陽翔くんも驚いていたのは予想外だった。
そういえば、春乃さんの事を呼び捨てで呼ぶ意味は、陽翔くんに話してなかったけ?それとも、陽翔くんが、忘れているだけだろうか。
「僕と羽衣の父方の実家は、黒宮家ですよ」
「「マジか!!おっと、シーだよな(だよね)」」
流石、仲良しカップルの奈々さんと瑛太くんだ。
2人同時に驚いて、静かにしないといけない反応も息ぴったりだった。
「え、陽翔と陽葵は、知ってたん?」
「うん、詩季から聞いていたよ」
そう言えば、奈々さんは、陽翔くんだけはニックネームで呼ぶのを止めていた。恐らく、春乃さんとごっちゃになるからだろう。
「黒宮家と関わりがあるとは言えど、関わりを持ち出したのは、夏休みの後半からですよ」
「まぁ、色々と大変だろうけど、何かあれば俺たちを頼れよ詩季」
「そそ、これは、頼りないけどな」
やはり、奈々さんと瑛太くんは頼り甲斐がある。まぁ、早速、痴話喧嘩を始めようとしているのは見逃すとする。
「詩季、寝てないの?」
「奈々さんから、聞きました?」
「うん」
「睡眠時間が短くなっているのは、事実ですけど、大丈夫です」
陽葵は心配そうな目で、僕を見てくる。
「安心してください。大丈夫ですから」
陽葵を安心させるために、「大丈夫」を繰り返す。この前に、僕が、過呼吸になった事も知っているので、尚更、心配なのだろう。
あの過呼吸は、トラウマ的要素があるので、トリガーさえ理解していれば防げる。
「はい、このお話はおしまいです。羽衣、奈々さんと瑛太くんには、自己紹介まだですよね?」
奈々さんと瑛太くんは、羽衣とは顔見知り程度だと思う。
「はじめまして、兄がお世話になっております。詩季にぃさんの妹の羽衣と申します」
「よろしく!」
「よろしな!」
瑛太くんと奈々さんの興味は、羽衣に移った。
「えぇ~~めっちゃ、可愛いやん!ねぇ、中学1年?」
「い、いや、3年生です」
「え、制服のリボンの色青色……」
そっか、奈々さんは、羽衣の制服事情を知らないのか。それにしても、人見知りの激しい羽衣にとって奈々さんの距離の詰め方は、戸惑ってしまうだろう。
「奈々さん。羽衣は、人見知り気味なんです。少しずつ距離を縮めてくれると助かります」
「おっと、ごめんね。羽衣ちゃん。可愛い女の子には目が無くってねぇ~~それで、青カラーなのに3年なのはなぜ?」
「その制服は、陽葵の中等部時代の制服を借りているんですよ。2学期からの転入ですし、半年の為に高い制服一式を揃える位ならと、陽葵にお願いしました」
羽衣は、ブレザーの内ポケット付近にある名前をあく書く所を奈々さんに見せた。
「確かに、ひまりんの名前書いてる」
羽衣は、戸惑いながらも奈々さんと握手をしていた。
「んでもぉ~~こんなに可愛いと、男子共がほっとかないんじゃない?」
「羽衣には、彼氏居ますよ。イギリスに」
「イギリス!?」
「羽衣は、今年の8月中旬まではイギリスの学校に通っていたんですよ」
「帰国子女?」
「定義によるんじゃないですか?」
色々と話していると、直ぐに学校に到着した。
校門前で中等部に行かないといけない羽衣とは別れた。
僕も陽葵と繋いでいた手を離して校舎に入った。
「詩季、いつまで父方の実家にいるの?」
教室の自分の席に座ったら陽葵に聞かれた。
「一応は、今週中の予定ですが延長の可能性も十分にあります」
父親の動向を掴めない事には、黒宮本邸での生活は続きそうになる。僕たちの家族紛争に陽葵たちを巻き込みたくない。
「また、一緒に登下校できるようになったら伝えますね」
「うん。無理したらだめだよ」
「大丈夫ですから安心してください」




