196.甘える
「お母さん、タイツってどこに置いてあったけ?」
「タンスの奥の方に入れてない?」
「あった!」
11月も下旬になった事で気温も下がって来たので、生足ではかなりキツくなってきたのだ。
タンスの引き出しの奥にあったタイツを履いてその上から体操ズボンをスカートの中に履いた。
「陽葵、自分の持ち物の管理位しっかりしなさい!」
「ごめん~~」
「さぁ、朝ごはん食べなさい」
詩季は、今、父方の祖父母のお家……黒宮家本邸にお邪魔している。
だから、詩季との登下校が無くなっている。
学校では話せているから、関りが無くなったわけでは無い。
だけど、2人の時間が無くなっているのは、寂しい。
詩季の家の事情があるので、仕方が無い部分もある。
交際開始して2週間で、2人の時間が減るのはイチャイチャしたい全盛期の私にとっては、寂しい。
「さぁ、学校に行くぞ」
「うん」
陽翔と共に、家を出る。
今日は、奈々ちゃんと瑛太くんと一緒に学校に行く事になっている。
昨日の夜に、奈々ちゃんから誘われたのだ。
「おはよう〜〜」
奈々ちゃんと瑛太くんとは、学校の最寄り駅で待ち合わせしていた。
「おはよう、奈々ちゃん」
私達は合流して、学校に向かう。
「奈々ちゃん、今日は、生徒会無いの?」
「今日も昼と放課後にあるよ」
「大変だね」
「1番大変なのは、しきやんよ」
「詩季が?」
新生徒会に入れていない私にとっては、現生徒会に入っている奈々ちゃんからの情報は、重要だ。
「結構、無理してそう。最近は、睡眠時間も短くなってるみたい」
詩季は、基本的に健康優良児並の睡眠時間を取っているみたいだが。
「どれぐらい寝ているか聞いた?」
「長い時で7時間。短い時で、5時間だって」
確か、詩季くんは普段から8時間は寝ていたはず。
寝ていない。
「多分、寝てない。詩季は、普段なら8時間は寝てるみたいだったから」
「だよね。今は、はるのんが、しきやんのお世話係?になっているみたいで、睡眠の管理はするとは言ってたけど……」
この前の期末テストだってケアレスミスが目立っていたみたいだし。
らしくはない。
「んまぁ〜〜そんな話してたら暗くなるし……ひまりん、タイツ履いたんだね!」
奈々ちゃんが、私に話しかけてきたのと同時に、瑛太くんは、陽翔の方に歩み寄っていた。多分、女の子同士の会話に、変に混ざると後々怖いから逃げたのだろう。
「寒くなってきたからね。奈々ちゃんは、履かないの?」
「いやぁ〜〜私は、タイツ履くとムズムズする感覚が苦手でねぇ〜〜体操服のジャージの長ズボン履きたいんだけどねぇ〜〜」
タイツを履く派と履かない派が居る。私と奈々ちゃんは、正反対なようだ。
ちなみに、奈々ちゃんは、校則の変更で、体操服のジャージの長ズボンをスカートの中に履いてもいいようにするように要望したら、詩季と守谷先生に揃って却下されたようだ。
「とりかく、ここからは、女子にとっては耐え時だしね。男子は、ズボンでええよなぁ〜〜隠れて、防寒出禁だからぁ〜〜」
「あのなぁ、男子だって苦労するんだぞ?」
奈々ちゃんと瑛太くんのバカップルが、始まりそうになっている。
まぁ、女の子も希望すればズボンになれるので、スカートで我慢は、今の時代は言えないと思うが。
「何か、車泊まってない?」
学校近くの公園前に、車が停車した。
普通の車なら無視していただろうが、かなりの高級車のように見える車。
「高そうな車」
「だなぁ」
男の子2人は、車に見入っていた。
すると、車の扉が開いて、私達にとって見慣れた人物が降りてきた。
「春乃ちゃん!」
「はるのん?!」
春乃ちゃんが、車から降りてきた。
私達に気が付くとペコりと一礼だけしてら車内に視線を戻した。
陽翔は、春乃ちゃんのペコりに、完全に見とれていた。
私達は、春乃ちゃんの行動を不思議がって見ていた。
「はぁ〜〜車移動長いねぇ〜〜」
春乃ちゃんの次には、羽衣ちゃんが降りてきた。
「羽衣、うるさいですよ」
羽衣ちゃんと春乃ちゃんに、支えられながら詩季が降りてきた。
3人は、車の方に一礼すると、車は走り去って行った。
「詩季くん、羽衣ちゃん。陽葵ちゃん達が居るよ」
春乃ちゃんが、私達の方を指さしたのだ、詩季と羽衣ちゃんは、こちらを認識して歩み寄ってきた。
「おはようございます」
「お、おはよう。春乃と一緒に来たんだな」
「そうですね、父方の祖父母の家にお邪魔している間は、どうしてもこの関係は出てきてしまいますからね」
詩季の指すこの関係は、主従関係だ。
この関係と濁しているのは、あまり、大袈裟な事にしたくないのと、恐らく、何処で聞かれるかわからないので気を使っているのだろう。
すると、詩季は、私の近くに歩み寄って来た。
「どうしたの――んえぇ?」
詩季は、私の右手を彼の左手で繋いできた。
右手で杖を握っている詩季にとって、左手は、倒れた時の支えなので、付き合ってから手を繋ぐのは遠慮してきた。
そんな、詩季から手を繋いでくれた事に、私は、驚いた。
「驚いてますけど、ダメですか?」
反則だよ。
そんな、視線で訴えられると断れる訳が無い。
というか、私から甘える事はあっても、詩季から甘えられるのは、珍しい気がする。
「ダメじゃないよ!転けないように、ゆっくり歩くね」
「では、行きましょうか」
学校に向けて進もうとした時、私達に、生暖かな視線を送られているのに気が付いた。
「ねぇ、春乃ちゃん。2人は、いつもこんな感じなの?」
「いやぁ〜〜基本的に、2人は、人前でイチャイチャしないんよね」
「なるほど、それだけストレスを抱えてたという事ですか」
何だか、羽衣ちゃんが1人で納得している内容が少々気になってしまう。




