195.春乃父
「じゃあねぇ〜〜」
校門前で奈々さんと別れる。
数分待つと、図書室で勉強していたであろう羽衣が合流して、車に向かう。
「2人とも、お疲れい!」
「ありがとうございます。羽衣様」
「あんがと、羽衣」
春乃さんは、学校の外に出たら、従者モードになっている。
「今日は、コンビニに迎えに来てくれるそうです」
送り迎えの車の運転手は、いつもの黒服さんが務めてくれている。
その他にも、色んな黒服さん達が私服姿で、僕と羽衣を見守ってくれているそうだ。
コンビニの前に到着すると、春乃さんが……メッセージを入れた。
すると、すぐに車がコンビニ前に到着した。
車は、3種類をローテーションして使われている。しかも、行き帰りで別々のを使っている。
「詩季様、羽衣様乗ってください」
「「はい」」
本当なら、女性陣を先に乗せないといけないが、いまは、黒宮モードだ。
せめても、羽衣を先に乗せてから僕が乗り込む。最後に、春乃さんが乗り込んで扉を閉めて出発する。
「詩季様、羽衣様、お疲れ様です。今から、本邸に帰りますが、何か必要な物ありますか?もしくは、買い物されますか?」
春乃さんが、お疲れ様に入っていないのは、仕方がない。一応、春乃さんは、今も仕事中という扱いなのだ。
「僕は、ありません。羽衣は、何かありますか?」
「さっき、コンビニでタイツも買ったし、特にないです」
「かしこまりました!では、本邸に向かって出発いたします」
車が、黒宮本邸に向かって進み出した。
「詩季にぃさん。やっぱり、陽葵ちゃんと2人の時間無いのストレス?」
「寂しいですよね。ストレスでは無いですね。クラスでは会えてますから」
「そう。なら、良かった」
「1番、ストレス感じているとしたら春乃じゃないですか?」
「んえぇ、私?!」
突然、話を振られた春乃さんは、プライベートで、僕らと話すような反応をした。
「あはは、春乃。今は、プライベートモードでもいいよ。学校終わりだし、積もる話もあるだろ?もちろん、俺の時だけな?」
「……はい」
春乃さんは、どこか恥ずかしそうだ。
「そ、それで、詩季くん。私が、1番ストレスが溜まるってどういうこと?」
「ん?僕と羽衣のお世話のせい……僕達の家の都合に振り回されて、愛しの陽翔くんとの時間が奪われている――」
「詩季くん、それ以上言うと、奈々ちゃん直伝の手刀お見舞いするよ?」
何てものを伝授しているんだ、奈々さんは!
流石に、手刀をお見舞いされるのは嫌なので、平謝りしておく。
「言っとくけど、別に、詩季くんと羽衣ちゃんのお世話が嫌という訳じゃないよ。それに、詩季くんが仕える相手で、本当に良かったし」
「無理してないなら良いですけど?」
「してない、してない!まぁ、陽翔くんとの2人の時間が減ってるのは、詩季くん同様で寂しいけどね」
「とっとと、くっ付けば良くない?」
「それ、陽葵ちゃんと付き合うまで、うじうじしてた詩季にぃが言えることではなくない?」
グサッ!
羽衣からのカウンターパンチに、僕のライフは、半分以上削られた気がする。
「そうだよね、羽衣ちゃん!」
「そうだよ!」
2対1という数的不利な状況になってしまった。しかも、女の子同士が結託した場合は、どう足掻いてもひっくり返す事は、困難を極めるのだ。
「そんな事より、デートの約束とかしているんですか?」
「何だろう、それとなしに進むけど後退したりしてる」
「あれ?春乃ちゃん。簡単に――」
「羽衣。それが、春乃さんの良いところなのです」
春乃さんは、信頼した人相手には、かなり気を許すので簡単に流される傾向がある。
陽葵さんに、流されて男の僕が居る前でスカートを捲ってしまう程には。
「良いところ?」
「信頼した人の前では、流されやすくなる。だって、陽葵に流されて僕が居る前でスカートを――イダァ!」
「詩季くん、少し、黙ろうか?」
春乃さんが、奈々さん直伝だと言う手刀をお見舞いしてきた。
「あははぁ、春乃。こっちでもお友達出来たんだなぁ〜〜」
「ちょっと、お父さん!」
「「お父さん??」」
「あっ……」
運転席にいる人に対して、春乃さんは、「お父さん」と言った。
「あれ?春乃さんのお父さんは、清孝さんとお知り合いの縁で会社に務めていると……」
「そ、その……」
少々、話ずらそうな感じだ。
「詩季くん。私が会社勤めなのは、間違いない。社長だがな!だけど、私と父と清孝様が、大の仲良しでな。今は、副社長の妻が実質的な社長業務をやっていてな!俺は、黒服として、詩季様と羽衣様の身を守る黒服をしておる」
住吉春樹さん。
信号待ちの際に、名刺を渡された。
「ところで、詩季様」
「はい?」
「春乃が恋する男の子は、どんな子だね?詩季様にも想い人が居る事が前提だったとしても、春乃の必死さは凄かったからなぁ~~」
「ちょっと、お父さん!詩季くんも答えなくていいからね?」
「春乃さんの想い人は、僕の彼女が双子の兄妹でして、その兄です」
「ちょっと、詩季くん!」
春乃さんは、自分の恋を話される事が、恥ずかしいようだ。
まぁ、さっきの手刀の報復として、春樹さんに、少々、教える事にする。
「そして、2人は、両片想い状態です」




