193.親近感
幼馴染2人は、日本に居た頃の最後の方は、真司郎くんを避けていた。
だから、帰国後も同じ対応をされると思っていたそうだ。
しかし、女の子の方は、真司郎くんに好意的に接してくれているそうだ。男の子は、警戒心を隠さずにむき出しだそうだ。
当然ながら、真司郎くんが、行った事はクラス中の皆が知っている。
クラスメイトからも転校前と同じように、避けられたり、陰口を叩かれたりするものだと思っていた。
しかし、帰国後は、そんな事は起こらなかったようだ。ただ、クラスメイトからは、真司郎くんに対する警戒心はあるそうだ。
「真司郎くんも他人が向けて来る、警戒心とかわかるんですね」
「はい。多分、黒宮家の環境で生活していたせいでしょう」
真司郎くんは、黒宮家内で生活していたから他人からの視線に敏感になっているという認識だが、多分、これは、黒宮の血を引いている人間の特性なのかもしれない。
「それで、まだ、幼馴染の女の子の事好きなんですか?」
「……はい。まだ、好きという感情は、消えません。だけど、あんなに酷いことしたのに……近くには、趣味が合う男の子も居るのに、何で、僕に好意的なのか解らなくて……」
真司郎くんが、混乱している本質は、自分が想定していた事の反対の事が起こっているのだろう。
「少なくとも、女の子は、まだまだ、君とは仲良くしたいんじゃないですか?」
「そうだと思います」
「真司郎くんは、どう思っているんですか?中途半端は、良くないと思いますけど」
「仲良くしたいです。だけど、嘘告白の件の罪悪感が消えないんです」
事情は違えど、幼馴染の元カノを忘れられない真司郎くん。幼馴染の元カノをバッサリ切った僕。
正反対な者同士が、相談して相談されている形だ。
「両極端になりますが、どちらかを選ぶしかないんじゃないですか?」
「選ぶ?」
「1つは、完全に突き放して、新たな恋の道に進む」
真司郎くんは、中途半端だと思った。
なら、両極端な選択肢を与えて、選ばせて、それに突き進めさせる方が良いと思った。
「もう1つは、許して貰えるまで謝り続ける事。黒宮の事も含めて全て話して新たな関係を構築する事」
真司郎くんは、中間点に収めたいと思っているのだろう。
だけど、真司郎くんの話を聞いた上で、3人の関係は、中間点では無理だろうと思った。
少々、意地悪ではあるが、両極端な選択を与えた。
僕は、陽葵と交際を始める際に、隠し事を沢山した。その罪悪感に耐えられず、交際した翌日に、全て話してみんなと微妙な空気になってしまった。
おじさんとおばさんのフォローが無ければ、陽葵との関係は、微妙な物になっていたかもしれない。
むしろ、拗れた関係は、発展するか完全消滅するかのどちらかだ。中間点に落ち着く事は無い。中間点に落ち着かせようとしよう物なら、遅かれ早かれ、関係は消滅してしまう。
「どう、判断すれば……」
「例えば、幼馴染の女の子が、男の子と関係を持つと考えましょう。それを、想像したらどうですか?」
嫌味な質問をしたと思う。
真司郎くんの表情は、苦汁を飲んでいるような表情になっていた。
「嫌です」
「なら、真司郎くんが、進むべき道は、1つしかないと思いませんか?」
「はい」
バタン!
すると、部屋の扉が勢いよく開かれた。
開いた主は、ギャルのような容姿をした女の子だった。
「真司郎様!お薬を忘れています!……ってすみません。ご無礼を!」
ギャルの女の子は、僕と羽衣に気が付くと平謝りしていた。
「雪ちゃん?」
春乃さんは、顔見知りという事だ。
もしかすると……
「もしかして、真司郎くんの従者の方ですか?」
「はっはい!あの――」
「先に、真司郎くんにお薬を。大事なんでしょう?」
雪さんという女の子は、真司郎くんにお薬と飲み物を手渡して飲ませた。
それを確認すると、僕と羽衣に、自己紹介を始めた。
「はじめまして、詩季様、羽衣様。真司郎様の従者を務めています、神宮雪と申します」
「ご丁寧にありがとうございます。私は、白村詩季。隣は、妹の羽衣です。座ったままの挨拶ご了承ください」
「いえいえ!」
見た目がギャルなので、距離感がバグっていると思っていたが、芯は礼儀正しい。
従者に選ばれるだけはある。
「真司郎くん、雪さんは、同じ学校なのですか?」
「はい。雪は、転校という形で、同じ学校に通って同じクラスです」
「なら、雪さんの事もしっかりと話さないといけませんね」
「はい」
雪さんは、真司郎くんの表情を見ていた。
「雪さんにも、この後、色々とお話をした方がいいでしょうね」
「はい」
「じゃ、解散!」
真司郎くんは、雪さんと共に、部屋から出て行った。
「詩季にぃさんが、恋愛相談とはねぇ〜〜」
「何だか、彼とは親近感を感じたんですよね」
「真司郎さんの恋は、上手く行くと思う?」
「さっき、聞いた感じの手応えだと、上手くいくんじゃないですか?」
「おぉ〜〜その心は?」
「自分で考えなさい!」
「あだぁ!」
ウザ絡みを始めそうな羽衣を軽くあしらって、就寝準備を始める。




