179.快進撃
「さぁ、1年1組快進撃だぁ〜〜」
体育祭が始まった。
僕は、開会式から生徒会の用事で運営本部に居る。運営本部にて、中等部生徒会にどういう風に運営しているかを話している。
羽衣は、後ろの方で前中等部生徒会の会長と副会長と雑談しながら観覧している。
「白村先輩、お久しぶりです。そして、高等部生徒会長に就任おめでとうございます」
「どうも」
「にしても、白村羽衣ちゃん可愛いですよねぇ〜〜」
こいつ、僕と羽衣が同じ苗字なのに気が付かないのか?まぁ、珍しい苗字でないのは事実だが。
「何ですか、狙うおつもりで?」
「付き合えたらいいなぁ〜〜とは思いますよ」
「羽衣に、手を出すと?」
「えっ下の名前で……」
「君、意外に隙だらけですね。僕と同じ苗字だと言うこと気づいています?」
「えっ?!」
「先輩、羽衣先輩は、白村先輩の妹さんです」
驚いた表情をしていた。
「羽衣、ケニーくんと昨日話したみたいですけど、どうでした?」
「春休みに、日本に来るそうです。その時に、挨拶したいと言ってます」
「そうですか」
「えっ、ケニーとは?」
どうやら、ケニーくんの事が気になるようだ。
「羽衣のボーイフレンドですよ」
「彼氏いたの?」
「居ますよ。公表する必要性を感じなかっただけです」
僕に聞くのが怖かったのか、羽衣に尋ねて、対人モードの羽衣が、淡々と答えていた。
「君、羽衣に変なちょっかいをかけたら合法的範囲で最大級の仕返しをしますので、心に刻んでくださいね」
「はっはい……」
中等部生徒会時代の後輩として叱責する所はしっかりしないといけない。今のは、完全に私情的側面が強い。
「それに、今後とも人の上に立ちたいと言うのであれば、他人への好意位相手に勘ぐられないようにしなさい。でないと、自分の手で、自分の足元すくわれる事になりますよ」
「は、はい……」
男の子は、先程と同じ前副会長の隣に腰掛けた。羽衣は、前会長とは前副会長を挟んで反対側に座っている。
その羽衣からのラブコールと捉えられる視線を向けられている。
それを無視して、僕は体育祭を見物する。
「1年1組の快進撃が止まりません!!」
体育祭の運営本部で1年1組の出ている競技を見ている。僕の予想に反して、順調に戦いを進めている。実況の生徒も予想外の結果に驚いているようだ。
陽葵さんの指揮は凄いもので、予め決めていた戦略を基にして応用していたりもしていた。陽翔くんのサポートもあるだろうが、言葉に表せないが凄いと思う。
「春乃さん、どうしたんですか?」
「いやぁ~~うん。陽翔くんのサポートの才能は、尊敬に値するなぁ~~て思う」
「そうですね。西原姉妹は、陽翔くんは指揮で陽葵さんはサポート役が適任だと思いましたけど……」
「逆だったみたいだね」
僕と春乃さんは、身近な人の評価を間違えていた事を猛反省した。
この競技では、1位を取る事は出来なかったが、元々の想定の着地点より良い地点に着地したので向かい側のクラスの席で頑張っているのだろう。
「白村くん、お疲れ様。生徒会としての運営は、ここまで。後は、閉会式!」
星川先輩が守谷先生と共に話しかけてくれた。
僕は、立ち上がって近くに座っている関係者の方に一礼してその場を後にする。羽衣にも、軽く手を振っておいた。
現在は、リレーが終わって生徒会主導の競技になる。担当は、奈々さんなので、壇上に上がって進行していた。
移動中に、競技が始まった。
最初は、順調に作戦通り進めていたが、途中からクラスの出場している生徒に戸惑いが見られた。
恐らく、予想外の予想外が起こっているのだろう。陽葵さんも予想外の展開までは、しっかり想定していたようだが、予想外の予想外にまでは、考えが及んでいなかったようだ。
そして、その展開になってしまっている要因は、3年1組だ。松本先輩の動きだろう。
彼女は、リーダーでは無い。
何もリーダーでなくても、リーダーを介して指示を出すことは出来る。
登録されているリーダーがカモフラージュの可能性だってあるのだ。
クラスの本当のリーダーは、誰かを当てるのもある種の戦いの味噌だ。
「どうしよう」
クラス席の後方にやってきた。
僕は、春乃さんからインカムを貰って装着した。
「そこは、右ではなく左に動いてください」
僕の声にインカムをつけていた陽葵さんが反応して僕の方を向いたのを皮切りにクラスメイトが僕が帰ってきたのを視認した。
僕は、クラス席の1番前まで移動してから指揮を執りだした。
「生徒会業務から戻りました。ここからは、僕が指揮をとります。よろしくお願いします」
そこから、クラスは何とか持ち直した。僅差ではあるが生徒会競技で、松本先輩率いるであろう3年1組に勝つことが出来た。
「詩季くん。ありがとう」
「いぇ、陽葵さんこそよく頑張りましたよ。予想外の快進撃でしたよ。2人きりなら頭を撫でてあげたいところです」
「良かったぁ〜〜」
陽葵さんは緊張の糸が解けたのか、安心した表情になっている。
「陽葵さん、まだ落ち着くのは早いですよ。僕のサポートをお願いします」
「うん!」
そこから、僕は陽葵さんのサポートを受けながら、体育祭の予選の指揮をとった。
結果としては、1年の中で1位になり午後の決勝に進むことが出来た。




