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172.応援演説

 僕は、壇上に上がってマイクの前に立つ。


 殆どの場合が、応援弁士と共に登場して応援弁士から演説を始めるといった流れが定着しつつある中で、立候補者だけの登壇は珍しいようで、少しばかりだが、ザワザワした。


 だけど、まだまだ星川先輩には及ばない。


 僕が決選投票に残れたのは、ある種の同情票が入ったからだ。決選投票となれば話は別になる。


 事前の情勢調査では、中等部時代の生徒会の実績を評価して一定の支持層はあるみたいだ。


 しかし、大半が僕に対する大きな不安を持っているだろう。


 それは、どんな不安だろうか。


「それでは、演説を始めてください」

「皆さんは、高等部1年の僕が生徒会長になる上で不安になる点があるのでは無いでしょうか?」


 生徒に僕の演説を聞いてもらうために、自分の公約を発するのではなく不安に思っている所をつくことにした。


「たしかに、僕には高等部での経験値はありません。それに、生徒会に入ったのも一学期の終業式です。皆さんが、そう思うのも仕方がないでしょう」


 生徒が思っている事に同意する。


 そうする事で、僕の演説を聞いてもらう戦法だ。


「ですが、僕が生徒会長になるメリットも存在します」


 ここで、メリットを提示する。


「僕が生徒会長になれば、来年の選挙戦でも勝てたらという条件ではありますが2年生徒会長を務められます。つまりは、長期スパンで学校に良い政策に取り組むことが出来ます」


 まぁ、このメリットが響くのは、1年生>2年生>3年生であるのは、明白だ。だからこそ、3年生にも響く内容を伝えないといけない。


 では、3年生にとって学校行事以外に楽しみにしている行事はなにか。


 藤宮高校との交流会だ。


 そう、3年生にとっても1・2年生にとっても莫大なメリットだという事になるだろう。


「僕が、生徒会長になる1番のメリットは、藤宮高校生徒会との繋がりがあるという事です。今冬には、両校共催でクリスマスパーティーを行う予定なのは、ご承知の通りだと思います」


 藤宮高校と繋がりがあるという事を述べた事で、生徒の中には疑心暗鬼な空気が漂っている。


 普通に考えて有り得ない。


 1学期の終業式に生徒会に入った人間が、藤宮高校の生徒会との交流関係をどうやって持つんだよ。とか、嘘八百を言っているだけだろうといった空気だ。


 そんな空気だからこそ、藤宮高校生徒会副会長の有隅桃花というカードは、僕が藤宮高校生徒会との交流関係を持っている事を証明する事になる。


「では、僕の応援弁士の藤宮高校生徒会副会長の有隅桃花さんです」


 僕は、有隅さんをよんだ。


 有隅さんは、舞台袖からゆっくりと歩いてマイクの前まで移動して来た。僕は、ゆっくりと隣に移動して立った。


「どうもぉ〜〜只今、紹介にあずかりました、藤宮高校生徒会副会長の有隅桃花です。証拠として、バッチ付けてるでしょ!えっ?小さくて見えない。なら、しゃ〜ないか!」


 隣で演説を聞いていて、いきなりぶち込んで来たと思ったが、意外にも客席の生徒は有隅さんの話に耳を傾けているように見える。


「本当は、うちの生徒会長を連れて来たかったんだけどね。一身上の都合で、私になりました。それで、本題だねぇ〜〜」


 凄いと思った。


 有隅さんの演説技術と言うか、人に自分の言うことを聞かせる技術が凄いと思った。


 僕は話す内容で、聞いてもらおうとした。


 しかし、有隅さんは、一瞬で聴衆の視線や耳を自分に傾けさせた。


 そこからは、彼女の独壇場だった。


 声の抑揚や視線の使い方と言う、演説の基礎だがその基礎を奥深くまで突き詰めたような演説に、講堂内は惹き付けられている。


 チラッと見れば、星川先輩も口を開いてポカンとして聞き入っている。


 こういう人が副会長だという事は、生徒会長はもっと凄い人なのだろうと思った。


「――という事で、君たちの大切な一票は白村詩季によろしく。以上で応援演説終了します」


 チーン♪チーン♪


 そして、時間通りに演説を終えた。


 この人、表面的にはテンションの高い女の子に見えるけど、非常に優秀な人だとわかる。


「それでは、投票に移ります。各クラスの選挙管理委員は、投票用紙を受け取りに来てください」


 僕は、舞台袖に戻って置いてあった投票用紙に記入してその場にいた選挙管理委員に手渡した。


 そして、全校生徒が投票を終えるまで、束の間の休憩だ。

 星川陣営からは、落ち込んだ空気を感じる。まだ、結果は出ていないのだから、諦めるのは早いと思うが。


「ねぇねぇ、何だか、私の推しアイドルに似てるんだけど?!」

「気になるなら、確認したらどうですか?」


 奈々さんは有隅さんが、自分の推しているアイドルに似ていると思っているようだ。


「で、でも違うよね。私の推しは、男の子だし……」

「なら、大人しくしておく事ですね」


 奈々さんはこれでいいとして、春乃さんに奈々さんも有隅さんを注視しているように見えるのは、何故だろうか。


「春乃さん。有隅さんが気になるのですか?」

「うん。眼が同じなの」

「眼?」


 春乃さんの指摘で、有隅さんの眼を見てみて理解した。


 有隅さんの眼には、僕と同じくハート柄のハイライトが浮かび上がっていた。


 そう言えば、奈々さんが推しているメンズアイドルの子にもハート柄のハイライトがあった気がする。


 今回、初対面だった春乃さんも反応しているという事は、そういう筋の人間なのだろうか。


「有隅さん」

「なんだい、白村くん?」

「あなたは、こっち側の人間ですか?」

「こっち側が、何を指すのかは、分からないけど……かもしれないし、そうじゃないかもしれないね!」


 これは、聞いても教えて貰えない解答だと思ったので、大人しく待つことにする。


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