171.不意打ち
「大変長らくおまたせしました。只今より、決選投票前の演説を行いたいと思います。予め、順番は決定しており、先に星川愛理さん。次に、白村詩季さんとなります」
いよいよ、最終決戦前の演説勝負になった。
一次投票では星川先輩が、リードしていた。だから、このままいけば、僕の負けは確実の物となる。
だからこそ、最後はあの手段を用いる事になる。
「では、星川愛理さんの演説です」
星川先輩は、応援弁士の方と共に舞台に上がって行った。
「では、演説を開始してください」
「私は、星川愛理候補の応援弁士の――」
星川先輩の応援弁士の方が演説を始めた瞬間、舞台袖と講堂の外を繋ぐ扉が空いた。
「いやぁ〜〜広いねぇ〜〜体育館と講堂間違えかけたよ」
「演説始まっているので、少し声量落としてくださいね」
「おっとと、すまないね」
「白村くん、その方は?!」
「えっ……断られたんじゃ……」
「……そもそも、誰なの?」
入ってきた人物を見て、各々、反応してきた。案の定、奈々さんは初対面なので、誰かわかっていない。制服を見て藤宮高校の生徒だとは、認識しているだろう。
「あれぇ〜〜女の子を侍らせてるねぇ〜~意外に、女好き?」
「そんな訳ないでしょう。選挙協力していただいているのです」
「ねぇ、この方はだれ?」
痺れを切らした奈々さんが、紹介を求めてきた。
「こちらは、藤宮高等学校の生徒会副会長を務めている、有隅桃花さん」
「…………マジ?」
「彼女のポロシャツの襟見てみなよ」
「……本当だ」
藤宮の生徒会メンバーは制服の襟付近に、バッチを付ける事になっている。
「それで、断られたんじゃ無かったの?」
そう言えば、立候補した初日には、そんな事を言っていたか。
「本当は、了承頂いていましたよ。ただ、最初から表明すると、敵陣営も警戒するでしょう」
「なら、私たちにも教えてよぉ~~」
「騙すならまずは、味方からともいいますからね。奈々さん」
戦術を読んで付いて来ていた春乃さんと松本先輩は、「隠し玉を用意しているとは思っていたけど、予想以上の人物を連れて来た」といった感じの感想を述べてきた。
「……この選挙戦、陽葵ちゃんには本当に頼らなかったんだね」
春乃さん的には、隠し玉として陽葵さんを用意していると思っていたようだ。
「頼らないですよ。短期間ですが、陽葵さんは生徒会役員としては力不足でした。広報の仕事も大枠だけ調べて記事だけ書いて、細かい調査や色んな人との調整という大きな仕事は、春乃さんがしていたでしょう」
見ていてわかった。
陽葵さんの仕事内容は、表面的な調査をして生徒会新聞の記事を書いていた。その後に、春乃さんが、陽葵さんの分の記事も裏取りから何までしていた。
「広報の能力だけなら奈々さんの方が上だと思います。それに、情を掛けていたら、大事な所では勝てません。公私は分けるべきですから」
「しきやん、公私分けるって……高校の生徒会だよ?」
「生徒会でもです」
僕にとっては、この学校の生徒会長という実績が確実に欲しい。だから、票数を集める戦いで相手の票数を削りにいく戦法を取ったのだ。実際の政治家の選挙活動のような戦い方を教育機関でしたのだ。
「――是非とも、皆さんの一票を私に投じてください!」
星川先輩が演説の締めセリフを言った。
星川先輩と応援弁士の方が一礼をすると、講堂内から大きな拍手の音が鳴り響いた。
「おぉ〜〜彼女、支持率高いねぇ〜〜」
有隅さんは、僕の隣で面白そうに見ていた。
星川先輩は、舞台袖に退場してきた。
「星川愛理候補の演説でした」
星川先輩が、やりきった感じの表情をしていた。
「お疲れ様です。大変良い演説だったと思います」
「ありがと。次は、君の番だね……えっ」
「どうもぉ〜〜お久しぶりです!」
星川先輩は、有隅さんの顔を見て固まった。まるで、恐れていたカードが登場したと言わんばかりに、固まっている。
一度は無いと判断していたが来ていた。不意打ちを喰らったとでも思っていそうだ。
まぁ、それも自分から不意打ちを受けに行ったとでも言える。
敵対候補の言うことを素直に信じたのだから、仕方がないと思う。
【嘘】も戦術の内なのだ。
「続きまして、白村詩季候補の演説です」
僕の名前が呼ばれた。
「さぁ、奇跡の大逆転勝利といきましょう」




