157.新学期
「お母さん、行ってきまぁ〜す」
「行ってきます」
「行ってらっしゃい!」
今日は、2学期初日だ。
お母さんに、出発の挨拶をして家を出る。
お母さんは、昨日、夜に急に気晴らしにドライブに出かけて行った。そして、ドライブから帰ってきてすぐに、私は、「詩季くんの前でも、分別は付けなさい!」と軽く怒られてしまった。
何時の事だととぼけたが、詩季くんにスカートの中の体操ズボンを見せた事を怒られた。
むぅ~~詩季くん。
何時、お母さんにバラしたのか……。
「陽葵、昨晩は災難だったな」
「陽翔が、話したの!」
「俺が知る訳無い。昨日、母さんが陽葵に注意しているのを聞いて知った。母さんは、詩季から聞いたんじゃないか?」
「やっぱり、そうだよねぇ~~」
「昨日、母さん、夜中にドライブ行ってたよな。その時にでも聞いたんじゃないか?電話とかで」
「多分、その線だと思う」
私たちは、詩季くんのお家に向かっている。
私にとって、学校に行く日のルーティンとなっている、詩季くんをお迎えに行って髪をセットして一緒に登校する。そのルーティンが、今日から再開になる。まぁ、髪は、ばっさりと切っているので、セットは出来なくなったのだが。
ピンポーン!
詩季くんのお家のインターフォンを鳴らした。
「はぁい、はぁ~い……いだぁ!!」
インターフォンからは、羽衣ちゃんの声が聞こえたと思ったが、手刀でもお見舞いされたのだろう声を上げていた。
「羽衣、そんな格好で出迎えに行くんじゃありません!いつぞやの陽葵さんですか?」
次には、詩季くんが羽衣ちゃんを注意する声が聞こえた。この瞬間、私の額には怒りマークが浮かび上がっただろう。
いつぞやの私 + 格好 + 昨晩お母さんに怒られた事
羽衣ちゃんが、今、どんな格好をしているかは、想像出来た。しかしだ。私にとっては、少し怒らないといけないことが出来てしまった。
「陽葵ちゃん、陽翔くん、おはよう。今日もありがとうね」
しずこさんが、出迎えてくれたので、詩季くんの家に入ってリビングに移動すると、高等部の制服に着替え終えた詩季くんと私の中等部時代の制服を着ていた羽衣ちゃんが待っていた。
「あっ、陽葵ちゃんおはよ!」
「羽衣ちゃん、おはよ。さっきは、何で怒られてたの?」
「いやぁ~~スカート履かずに、下、体操ズボンで出迎えに行こうとしたら、丁度、背後に鬼が居ましてぇ~~」
なるほど。
羽衣ちゃんが、上が制服のシャツ下が体操ズボンという格好で出迎えようとして、詩季くんに怒られたようだ。
「羽衣ちゃん、似合っているね!」
「ありがと!」
「まぁ、それとして……詩季くん!」
私に呼ばれた、詩季くんは頭を傾けながら、私の顔を見てきた。
ダメだ。
惚れた弱みだろう。
詩季くんに、追及したい事があったが、どうでもよくなってしまう。だけど、少々、抗議しておきたい。
「羽衣ちゃんに、注意する時に、いつぞやの私みたい……とか、言ってたけど、どう言う意味なのかな?」
「そのままの意味ですよ?」
「どういうことぉ!」
「だって、急に自分でスカート捲ったりしてきましたし――」
「あわわぁ、詩季くん。ストップ!」
お母さんに、バレてしまったのは仕方が無い。だけど、陽翔にバレるのも不味い気がする。
陽翔の顔を見ると、私に対して、ドン引きに近い視線を送ってきている。その視線は、「好きな男にアピールするのに、手段間違えてないか?」という意味を含んでいそうだ。
「詩季……君は、紳士だよ」
「まぁ、体操ズボン履いていたから出来たんでしょうね。今思うと、陽葵さんが、僕に心を開いてくれていた証拠ですね。陽葵さんが、小学校の頃に男の子が苦手になるキッカケあったみたいですし」
「詩季くん。その話……誰から聞いたの?」
「おばさんですけど?」
「いつ?」
「いつでしょうか?」
詩季くんは、はぐらかしているが、恐らくは、昨日だ。
多分、これ以上、聞いても答えてくれないだろう。
「では、陽葵さん。髪のセットをお願いできますか?」
「えっ……」
「髪を切りましたけど、ヘアセットは、陽葵さんにお願いしたいです」
聞きたい事は山ほどあったが、詩季くんにヘアセットをお願いされたので嬉しく思い、櫛を取り出して詩季くんの髪をセットしてあげた。
「詩季、誕生日おめでとう!」
「しきやん、ハッピーバースデー!」
「詩季くん、お誕生日おめでとう!」
教室に到着すると、瑛太くん・奈々ちゃん・春乃ちゃんが、詩季くんのお誕生日のお祝いの言葉を言いに来て、プレゼントを渡していた。
「3人ともありがとうございます」
詩季くんは、3人と和やかに話していた。
2学期は、行事が山ほどある。
最初には、詩季くんが出馬を表明している生徒会長選挙に始まって、10月に体育祭がある。




