156.電話
母さんは、持ってきたケーキを皆で食べ終えたタイミングで、家に帰って行った。
帰国してきてから面会日に、何回も帰っていく母さんの後ろ姿を見送っているが、毎回、寂しそうにしている。
母さんの抱いている気持ちは、よく理解出来ない。母さんが、抱いている気持ちは、親になればわかるのだろう。
お風呂などを済ませて自室に移動すると、おばさんから貰っていたメモに書いてある電話番号に電話する。
時刻は、8時を過ぎた辺り。
もしかしたら、家事などの用事で出られないかもしれないが、その場合は、折り返し連絡があるだろう。
『はぁ〜い。詩季くん。電話ありがとう』
おばさんは、数コールの後に電話に出た。僕は、イヤホンをして電話をする。
「はい」
「あぁ、安心して。私は、車から電話しているからぁ〜〜もちろん、運転してないよ?政伸が、上手いこと取り持ってくれているだろう」
何だか、上機嫌そうだ。
「所で、用件はなんでしょうか?」
「あはは、やっぱり、気になるよね」
そりゃ、気になる。
友人の親御さんから、連絡してくれと言われのだ。日頃から良くしてくれている方ではあるが、身構えてしまうのは、仕方がない。
「詩季くん。父方の実家とは上手く行っている?」
おばさんからは、僕の父方の実家に関して上手く行っているかを確認して来た。
まだ、復縁してから半月程なのだが表面的には上手く行っていると思う。
「そうですね。僕の誕生日のお祝いを母親や祖父母と連名でくれましたね」
「そっかぁ~~上手く行っているんだね」
「色々と大変ですけどね」
おばさんは、何処まで勘付いているのだろうか。
もしかしたら、この電話で隠している事を話すことを求められているのかもしれない。
と言うか、陽葵さんに黒宮家本家と関りを持っている事は隠した。
理由は、怖かったからだ。
黒宮本家と関りをも持ったことで、これまでの対応が変わってしまう事が怖かったのだ。だから、ホテルの一室では、黒宮家とは親戚で押し通した。
だから、陽葵さんが隠したとは言え一緒に居る時の対応が、今までと変わらなかった時は嬉しかった。まぁ、黒宮本家と関わりだして半月しか経っていない、新参者なのだけど。
おばさんには、打ち明けてもいいのかもしれない。
「おばさん。もしかして、僕の実家の事を聞きたいんですか?」
ずるいと思う。
向こうから聞いてきたという建前が欲しい。だから、回りくどい聞き方をした。
おばさんも僕のそう言う意図は、理解しているだろう。
「気になるよね。そりゃ、気になりますとも。将来、娘が嫁ぐかもしれないお家の事ですから」
おばさんは、絶妙な答えを返してきた。
話すのもよし。話さなくてもよし。
選択を僕に投げてきた。
「んまぁ、詩季くんが、これから何をしようとするのかは、私にはわからんけどね。これだけは、言いたいと思ってね」
次に、おばさんから発せられる言葉が、今回の電話で僕に伝えたい事なのだろう。
「もし、詩季くんのやりたい事に、陽葵が邪魔だったら容赦なく切り捨てなさい」
「それは、どうしてですか?」
予想外の答えが帰ってきた。
陽葵さんを切り捨てる。
生徒会長選挙において、陽葵さんを切り捨てた僕を肯定していると言っているとも見える。
「陽葵の努力が未熟で、詩季くんの足でまといになるなら切り捨てて構わない。それは、陽葵の責任だから」
今のおばさんの言葉には、「進み続けろ。陽葵を待って立ち止まる必要は無い」と言っているようだ。
「……おばさん」
「何かな?」
「陽葵さんの事を部分的には切り捨てますけど、僕は、既に、陽葵さんに堕とされました。なので、最終的には、陽葵さんと一緒に居れるように、努力す……します」
するつもりと言いかけたが、それでは覚悟が弱いと思ったので、しますと断言した。
部分的に切り捨てる。
生徒会長選挙では、切り捨てた。これからも、切り捨てないと行けない場面は出てくるだろう。
まぁ、何とも都合の良い解釈だが、陽葵さんを切り捨てて傷付けるなら、それを返して行きたいとも思う。
「ふふっ、いい男だねぇ〜〜目的のために、切り捨てるけど、最終的には、陽葵は自分と一緒。いいね!」
この電話の中で、1番とも言える位におばさんは、楽しそうだ。
「どうしたんですか?どこか、楽しそうですけども」
「うん。陽葵が好いた男の子が、詩季くんで良かったなぁ〜〜って。実はね、あの子元々は男嫌いな所あったんよ」
陽葵さんが、男嫌い?
「まぁ、表面的には出さないけどね。基本的に、男の子と話す時は、一線引くからねあの子」
「なら、何で僕は気に入られたんですかね?」
「詩季くんの人柄だろうね。陽菜を助けてくれた人が、陽葵が引いている一線を緩くしたのは、間違いない」
予想外だった。
「何だか、予想外って反応示すねぇ〜〜」
「僕と接する時の陽葵さんのイメージから……あぁ、言われてみれば、最初の頃は、大人しめでしたね」
陽葵さんが、羽衣のように、ハチャメチャをするようになったのは、高等部に上がる際に必要なテストを受けた時に、スカートを捲って中の体操ズボンを見せてきた時からな気がする。
随分と、その時の印象が残っているのだろう。陽葵さんと言えば、ハチャメチャだ。
「何か、きっかけでもあったの?陽葵が、男嫌いじゃないと思った理由」
「そうですね。入院期間中に、1度テストを受けに――」
僕は、きっかけとなった出来事を話したら。
「あんの子は、発想が斜め上過ぎでしょう……そりゃ、詩季くんが勘違いするのも無理ないよ!」
おばさんは、笑いを堪えながら話している。まぁ、最後の方に、「少し、お灸を据えないとね」と、言っていたのは、知らなかった事にしよう。
道理で、陽翔くんに報告しようとしたら、慌てて止めるはずだ。
(すみません、陽葵さん。ご本人に告げ口してしまいました)
心の中で、謝っておけば良いだろう。
「まぁ、陽葵が男嫌いになった理由としては、小学生の頃に同い歳の男の子にスカート捲りやられたからなの……」
そこから、15分程、雑談をして電話は、終了した。




