151.主従夫婦
「陽菜は、寝たか?」
「うん。今日は、1日中テンション高かったからね。もう、ぐっすり」
「あはは」
詩季くんの妹さんをお家まで送り届けて、陽菜を寝かしつけた。
陽葵は、パーティーのあったホテルで、詩季くんとお泊まり。陽翔は、詩季くんの従者の春乃さんを送るために、ホテルに残った。
年頃の娘を同い歳の男の子とのお泊まりは、普通なら認めない。相手が、詩季くんだから認めている。
詩季くんなら、恋人関係でない状態で、身体的な関係を持たないという信頼がある。まぁ、陽菜を命懸けで助けてくれた恩もある。
何たって、男嫌いな所があった、陽葵があそこまで、恋の暴走機関車になるんだから、相当にいい人だと思った。
恐らくだが、大事な妹を助けてくれた男性という事で、ハードルが下がった中で、接していくうちに、惚れたのだろう。
だから、2人が恋人になる事を応援しているし、恋人になったらする事はするだろう。
対処しながらしたとしても、100%じゃないから、そこは、親として責任を取る覚悟を持っている。
それにしても、陽翔は、春乃さんの事が好きなのねぇ〜〜
本人は、隠しているつもりだろうけど、親の私は、騙せないなぁ〜〜
多分、この前、落ち込んでいたのも春乃さんが原因かな。春乃さんは、詩季くんとの実家と関わりがあるみたいだし……嫉妬かな?
「詩季くんは、大丈夫だろうか?」
「娘の心配は、しないの?」
「どちらかと言うと、詩季くんが、振り回されているでは無いか。2人は」
「まぁ、そうですね」
私も驚いた。
男嫌い気味だったあの子が、グイグイと詩季くんにアピールしていたから。
「そう言えば、詩季くんは、何処かの御曹司だったりしたのか?」
「詩季くんの父方の祖父母とこの前会ってお話したみたい。それで、今日のパーティーに招待されたみたい」
「そうなのか。それにしては、今年16の若者に、一回りも二回りも上の大人がペコペコと頭下げてたな。まるで、詩季くんに目を付けられたら人生が終わるかのように」
確かに、今日の詩季くんは、色んな人の挨拶を受け続けていて、ほとんど夕食を食べていなかった。
「パーティーの前に、双子達と話してたでしょう?」
「おう」
「その時にね、黒宮家と関わりあるって聞いたの」
その時、政伸は、目を見開いた。
「詩季くんは、なんて?」
「自分の関わりは、黒宮本家では無く、白村の方だと。ほら、今の黒宮家の当主の奥さんの実家」
「あはは、つまりは、黒宮の親戚関係か……そりゃ、皆、ペコペコするわな」
「詩季くん曰く、父方の祖父母とお会いしたのは、今月だって。父親の方が縁を切っていたみたいで、母親伝いでお会いしたんだって」
「なるほど、だから、これまで、そう言った素振りがなかったのか」
黒宮家と親戚だけでも、辻褄が合ってしまう。
だけど、私には、拭えない可能性がある。
「ねぇ、政伸。今日のパーティーに招待してくれた方の会社は、どう言った企業なのかな?」
「すまないが、社外の人間には話してはいけないんだ。機密情報でな。でも、どうしてその事が気になったんだ?」
私は、払拭したい不安というか可能性があった。
「いやぁ、ねぇ、詩季くんの実家なんだけどね……」
「白村家なのだろう?現当主の奥さんの実家で、黒宮と白村は、親戚関係……」
「例えばさぁ、詩季くんのお父さんが、現黒宮当主と奥様の子供だとしたら?」
そう。
詩季くんが、黒宮家と直接的な関わりがある可能性が、拭いきれなかった。
「はぁ?だったら、なんで、詩季くんの苗字は白村なんだ?黒宮家の子どもなら黒宮だろ?あそこは、娘だとしても婿入りさせる位の家だぞ?」
「考えられる可能性としては、2つ。1つ目は、黒宮家の人間だとバレると不味いから偽名として、母方の旧姓を使っている」
黒宮家の人間だと、発覚した際に、黒宮に近づこうとしたりする事を防ぐために、学校側も公認する事がある。
「だけどよ、詩季くんが、父方の祖父母と会ったのは、最近だよな。その可能性はないだろう?」
政伸の言う通りだ。
詩季くんは、最近、父方の祖父母とお会いした。だから、彼の戸籍上、白村姓だろう。
「それで、桜の言う2つ目の可能性は?」
「黒宮家の当主である清孝さんと奥様と誠子さんが、表面上は、夫婦を続けていて、実際は、離婚している。離婚して白村姓に戻った誠子さんが、詩季くんのお父さんの親権を持って、その時に、白村姓になった場合はどうかな?」
「ありえるな。その可能性なら納得がいく。だけどさ、桜は、何を危惧している?」
何を危惧している?何をだろう。
「大方、黒宮本家の人間との恋路で、陽葵の心が折れないか心配なのだろうけどな」
政伸は、私が考えている事をピンポイントで当てて来る。
「折れるならその程度の恋路だったという事だ。陽葵は、詩季くんと付き合う資格が無かったという事だ」
「資格が無かったって……」
「これは、桜を侮辱するつもりは無いし、世の中の専業主婦をバカにする意志はない事は解ってほしい……」
「うん」
「今のまま、陽葵が詩季くんと結婚まで進んだら、確実に、陽葵は詩季くんに頭が上がらなくなる。仮に、桜の仮定通り、詩季くんが黒宮家の子どもなら……祖父母と会った時点で、縁が出来た。詩季くんの性格的に、黒宮としての自覚を持って努力をするだろう」
私の仮定通りなら、詩季くんなら黒宮に相応しい人間になるための努力をする。そうだと思う。彼は、努力家だ。
「詩季くんは、努力家であり、情に厚い子だ」
「だよね!」
「それと同時に、取捨選択を出来る人物だ」
「……えっ」
「今のままの陽葵で、詩季くんと交際したとして……詩季くんに、頭が上がらない主従夫婦になる。彼の専業亜主婦になった所で、旦那に頭が上がらなくなる。そして、彼が進んでいくにつれて、必要が無ければ、捨てられる可能性だって0じゃない」
「あなたは、何を言いたいの?」
「詩季くんが変わったなら、陽葵も変わらないといけない」




