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149.帰り道

「明日、私が詩季様のお出迎えに行きますので、あなた達は、本邸でお仕事お願い致します」

「「かしこまりました」」


 私は、黒服さんに明日の仕事を伝えた。


 黒服さんは、車に乗って黒宮本邸に帰って行った。この後に、今日の企業見学にパーティーの事を清孝様に報告するのだろう。


 詩季くんは、今は、陽葵ちゃんと仲良く過ごしているのだろう。

 自分の気持ちに素直になって甘えるのか、今まで通りに、陽葵ちゃんに流されるのか。


 まぁ、それは、詩季くんが選ぶことだ。


「まぁ、私は、帰りますかな」


 私も今日の仕事を終えたので、家に帰る事にする。黒宮本邸に寄ってからだと日にちが変わってしまうので、ホテルから直帰だ。

 どうせ、明日には、詩季くんと共にオンラインではあるが、清孝様に報告をしないといけない。


 ホテルの入口を出て門に向かうと、門にもたれかかっていた男の子が私を発見すると、こちらを向いた。


「陽翔くん、どうしたの?」


 陽翔くんだった。


 私の顔を見て反応したという事は、私の事を待っていたのだ。


「いや、詩季が陽葵とここに泊まるなら、春乃は、1人で帰る事になるだろ?だから、家まで送ろうと思って……」

「うふふ、陽翔くん。私が、あの高級車で帰る事は考えなかったの?」

「……あ!」


 陽翔くんは、所々に天然要素を持っている。


 本当に、面白い人だ。


「うん、でも、待っていてくれて嬉しいよ。帰ろっか。今日は疲れたよ」

「おう」


 ホテルを離れて、まずは、駅を目指す。


「今日みたいなパーティーは、よくあるのか?」

「私も詩季くんも今日が初めて。だから、お互いに結構疲れた」

「そうなんだな。所作とかしっかりしてたから慣れているのかと思った」

「これでも、短期間で詰め込んだんだよ。元々は、詩季くんの婚約者の予定だった。それが、今年の5月に、私の我儘で従者に変更してもらった。そこから、従者としての所作を叩き込んで貰ったからね」


 約3ヶ月で、従者としての心得を松本先輩に叩き込まれた。まぁ、松本先輩の名前を出す訳にはいかないんだけどね。


「でもね、私以上に詩季くんは、頑張った。私は、3ヶ月も作法とかを覚える時間があった。けど、詩季くんは、半月も経たないうちに、社交界に放り込まれたからね……ごめん!2人の時なのに、詩季くんの話して……」


 以前、同じことで失敗して陽翔くんを傷つけた。


 陽翔くん。


 怒っているだろうか。


「仕方ないよ。今日の詩季と春乃が凄かったのは、俺も陽葵も見ていたからな。2人とも、自分の役割を一生懸命こなしていたように見えた。凄かったよ」

「ありがと」


 陽翔くんの顔を見ると、何か聞いたそうにしていた。


 これでも、松本先輩からは、従者として主人の行動とかは、顔色を見て先読みする事と教えられたので、今の陽翔くんが、何か聞きたがっているのはわかる。


 これは、私がキッカケを作ってあげた方がいいだろう。


「陽翔くん、何か聞きたい事ある?」

「うん。少し、重い内容だと思うけど……」

「いいよ」


 陽翔くんは、意を決してた表情になった。


 かっこいいなぁと思う。


「詩季の婚約者って予定だったけど、その……」

「詩季くんの事をどう思っているかを聞きたいの?」

「うん」

「そうだね。最初は、婚約者の予定だから好きになろうとした。それに、好きになる理由を彼が無自覚に作ってくれた」

「最初に話しかけたのは、詩季だもんな」


 そう。


 親の仕事の都合で、こっちに引越して来て婚約者になるかもしれない人と仲良くなれと言うミッションを与えられた身からしたら、かなり緊張していた。


 詩季くんは、当時は、お父さんの方の実家に関しては、何も知らなかったので本当に偶然だったが、話しかけて来てくれて、友人の輪に入れてくれた。


 私が、詩季くんの事を好きになる理由は、実家の都合を無視しても揃っている。


「みんなさぁ、詩季くんと陽葵ちゃんが居ないと、2人とも早くくっ付けみたいな空気だったでしょ?」

「うん」

「その空気とさ、詩季くんと陽葵ちゃんの仲を見たら、私の出る幕は、無いなぁ〜〜って。むしろ、こっちの家の都合で、折角出来たお友達との関係を悪くしたく無かった。だから、お父さんに頭を下げたの。詩季くんとは、婚約者になれませんって」


 色々と隠して話す。


 詩季くんは、黒宮家と関わりがある事は隠していた。だから、従者の私もそれに添わないといけない。


「それで、お父さんが話を付けてくれて、詩季くんが、お父さん方の実家と復縁した際には、婚約者では無く従者となる事になったの。まぁ、そこは、家の政略的な所があるんだけど」


 陽翔くんは、私の言う事を真摯に聞いてくれた。話して良かったと思う。


「まぁ、私の我儘でこうなったから――」

「それは、もういい。謝らなくていい。今の話で、春乃も頑張っていた事がよくわかったから」

「ありがと」


 こんな、私を甘やかすなとも思う。


 自分の我儘に、自分の好きな人を巻き込んだ私を。


 丁度、ホテルの最寄り駅に着いたので、この話はおしまいになった。


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