148.前提
ルームサービスが到着するまで、陽葵さんに、膝枕をしてもらった。
ご飯を食べ終えて、ホテルの方が持って行ってくれるまでは、テレビを見て過ごした。
陽葵さんと静ばぁに、監視されているお陰か、最近は、食べる量が少しずつ増えている。(監視状態なら食べられる。監視が無ければ、普通に少な目にする)
「詩季くん、よく食べれたね!」
「子ども扱いしないで貰えます?」
「それは、監視しないと全然食べない詩季くんのせいだと思います。私と静子さんで食べさせているのに、全く、大きくならないし」
そう言いながら、陽葵さんは、僕のお腹回りを触ってきた。
普通なら、異性として見られていないと思うだろうが、以前のお泊まりで好意を伝えられている。
僕の事を信頼してボディタッチをしてくれていると分かる。
僕は、こうしたらどんな反応をするのか気になったので、陽葵さんを抱きしめてみた。言わゆる、ハグだ。
「うえぇ、詩季くん。どうしたの?!」
「ハグですけど、嫌でしたか?」
意地悪な質問だと思う。
陽葵さんの性格的に、嫌なら男の大事な所を蹴り上げてでも拒否するだろう。それが、抵抗せずに受け入れているのだから、嫌ではないと言うことだ。
「うぅん。嬉しいよ、好きな人に、抱きしめられると言うのは、こんなに、幸せなんだなぁと思って。後、急で、ビックリした」
陽葵さんは、僕に沢山好意を伝えてくれる。何度も何度も嬉しい気持ちにさせてくれる。
だからこそ、これからの事に関する禊は、しっかりしたい。自己満足だと言うこともわかっている。
陽葵さんを解放してから、 陽葵さんの目を見る。
「陽葵さん。お話があるんだけど……」
「なに?」
「僕は、二学期に行われる生徒会長選挙に出馬する事を決めました」
生徒会長選挙に出馬する事について切り出す。
以前、奈々さんに推薦人の件で相談した際に、陽葵さんにしっかりと話すと約束した。
「うん。推薦人?私、なるよ!」
陽葵さんは、推薦人をお願いされると思ったようだ。それも、仕方がない。
学校でのサポートをお願いした。陽葵さんからは、僕の近くに居て欲しいとお願いされたと捉えるだろう。
だから、誤解の無いように言葉を選ばないといけない。
「推薦人に関しては、春乃さんと奈々さんに要請を出して、内諾を得ています。ですので、陽葵さんには、僕の選挙戦においては、友人として応援して外から応援して欲しいのです」
「そ、そうなんだ……」
陽葵さんの表情は、暗くなっていた。
推薦人を春乃さんと奈々さんにする理由も話す。
春乃さんを入れる事で、高等部入学組の票集めに、奈々さんの人脈を活かしたい事を説明した。
陽葵さんは、頷きながら、僕の話を聞いてくれた。
「…………」
陽葵さんは、黙ったまま反応を示さない。
「詩季くん」
陽葵さんは、僕の名前を呼んでくれた。だけど、その声は、何時もの明るい声よりも悲しみが込められているように思う。
あぁ、やってしまった。
情報を漏らしたくない。最初は、そう考えていて、推薦人に内諾を得てから陽葵さんに話せばいいと思っていた。
春乃さんと奈々さんが、しっかり説明する事と言っていたのは、生徒会長選挙に出る事だけでは無かった。
「すみませんでした」
「何が?」
「陽葵さんに、最初に話すべきでした」
「別に、ただの嫉妬だもん」
確かに、今は友人関係だ。
別の女性を推薦人に選んだことで、僕が陽葵さんに謝る理由が無い。ただ、陽葵さんが嫉妬しているだけなのだ。
「ただね……我儘言っていい?」
「はい」
「最初に、私に話して欲しかった。詩季くんにとっての特別な人になりたいから、詩季くんの悩みとかは最初に話して欲しいって思いを持ってる。だから、生徒会長選挙の件で、私より先に、色んな人に話していたのがショックだったの」
陽葵さんは、抱えていた感情を教えてくれた。
重いとは思わない。
ただでさえ、陽葵さんの知らない所で、僕の周辺の環境が大きく変わっている。黒宮家と復縁した事で、春乃さんが一部のサポート役になったり、生徒会長選挙では、僕の陣営には、入れないと言う事を事後報告にした。
百歩譲って……いや、両方とも、先に陽葵さんに相談する事も出来た。
まぁ、友人関係という今のあやふやな関係では、どちらかが、悪いとも言えない。だけど、複雑な感情を抱いてしまっている。
これが、恋なのだろう。
「陽葵さん。僕も都合の良い事言っても良いですか?」
「……なに?」
「僕は、陽葵さんの事、好きです。友人では無く、女の子としてです」
「うぇ!?ほ、本当なの?」
「はい。まぁ、気が付いたキッカケは、羽衣なんですけどね。羽衣の話を聞いていて、陽葵さんの事、好きなんだと自覚しました」
陽葵さんに、自分の想いを告げた。
陽葵さんは、驚いた表情の後に、嬉しそうな表情になっていた。
「それで、ここからが、僕にとっての都合の良い事になるんですけど……?」
「なに?」
陽葵さんは、頭をかしげていた。
「僕は、陽葵さんの事好きです。お付き合いしたいです」
「うん、なら!」
「すみません。時が来たら気持ちを伝えます
だから、今は……恋人前提の友人で居させてくれませんか?」
なんとも、自己都合だろうか。そして、何様だろうとも言えるだろうか。
女の子をキープという手段を使っている、クズだ。
だけど、やり遂げたい事もある。
まぁ、そのやり遂げて告白するにしても、何処に線引きをするのかはっきりしていないのだけど。
言わば、僕自身の気持ちを固めるのに猶予が欲しい側面もある。
「わかった!詩季くんのやりたい事を終えて、気持ちの整理が付くのを待ってるね」
そう言うと、陽葵さんは、僕の頬にキスをしてきた。
「恋人前提の友人なんだから、頬っぺは、いいでしょ?」
本当に、いい人だ。自分勝手な僕の我儘を受け入れてくれた。
だからこそ、後戻りは出来ないから、一生懸命突き進もうか。




