147.自分から
「詩季くん?先に、帰ったんじゃないの?」
先に、パーティー会場を後にしていたので、もう帰っていると思っていた。
「今から帰るの?」
「いや、陽葵さんと話したいと思いまして……ここに来た時に、隣に停まっている車を見ていましたので……まぁ、ある種の賭けですよ。今、来て、会えたら誘おうと思っていましたね。だから、黒服さんは、連れて来ていません」
私とお話したい?
私も詩季くんとお話出来るならしたい。お母さんの顔を見ると、許可を求められていると理解したようだ。
「詩季くん。お話の場所は、さっきのホテルの部屋?」
「はい。1泊分取っているみたいですので、おばさんの許可が下りればと……」
「わかった。何なら、今日は2人で泊まっていいよ」
「ありがとうございます」
お母さんは、私が詩季くんとホテルにお泊まりする事を許可してくれた。
着替えに関しては、パジャマだけ用意してもらって、今日着ている服を明日も着ることになった。
「春乃さんは、陽翔くんとお話しないんですか?部屋なら、もう一部屋取っているみたいですよ?」
「詩季くん。狙ったね?」
「さぁ〜て、何のことやら」
詩季くんは、春乃ちゃんと今までより仲良くなっている。
「陽翔くん、今度、また、一緒に出掛けない?」
「うん。メッセージで予定決めよう」
陽翔くんと春乃ちゃんは、また、別日にデートをしてお話する事にしたようだ。
「春乃さん、生ぬるいですね」
「うっさいよ、詩季くん!これでも、後処理諸々あるんだからね!」
「それを言われると、弱いですねぇ〜〜」
そう言うと、詩季くんは、春乃ちゃんに頭を下げて、「お願いします」と告げていた。
「あの、おじさんとおばさん」
「どうしたの?詩季くん」
詩季くんは、お母さんとお父さんの方にお願いがあるようだ。
「羽衣を家まで送って貰えませんか?」
「お家の方の送迎は、どうするの?」
「こっちで、断っときます。今日は、堅苦しい1日でしたから、帰り位は、陽菜ちゃんと遊んで羽を伸ばして欲しいんですよ」
「わかった」
そう言うと、羽衣ちゃんは、陽菜ちゃんを手招きで呼ぶと、陽菜は、嬉しそうに近寄って行った。
「春乃、よろしくお願いします」
「分かりました」
「では、陽葵さん。行きましょう」
「詩季にぃちゃん、また、遊んでねぇ〜〜」
私と詩季くんと春乃ちゃんは、陽菜に手を振って、ホテルのエレベーターに乗り込み、さっき話した部屋へと向かう。
〇〇〇
まさか、お泊まりの許可を貰えるとは思っていなかった。
パーティーへの出席が終わった後に、黒服さんに、「パーティー前に話した、学友とお話がしたい」と言ったら、パーティー会場に居るか探しに行ってくれた。
パーティー会場には、居なかったと言うので、ここに来た時に、僕が乗ってきた車が停めたスペースの隣に、西原さんの車があったのを思い出して、春乃さんを連れて行ってみた。
好運な事に、陽葵さん達に会えた。
そして、この後お話出来ないかを頼んだら、おばさんから「泊まっていきな」と了承を貰えた。
本当に、僕の事を信頼してくれているのだと感じる。この信頼には、以前のお泊まりでしっかりとした事が、信頼関係を強くしたと思う。
春乃さんも含めて3人で、部屋まで移動した。
「詩季くん、この後の事は、私に任せて。陽葵ちゃんとゆっくりしてね」
「はい。お仕事、お疲れ様でした」
春乃さんが、ここまで着いてきた理由は、黒服さんへの対処とパーティー出席者と遭遇しないようにするためだ。
仕事を終えた春乃さんは、部屋を出て行った。
「陽葵さんは、お腹いっぱいご飯食べました?」
「うん」
「じゃ、僕の分だけルームサービス頼ませてください」
パーティーの間、入れ替り立ち替り挨拶を受けていて、殆ど何も食べられていない。
折角、パーティーで用意された美味しいご飯を殆ど食べられなかったのは、地味にショックだ。
「詩季くん。しっかり食べないとダメ。だめなら、うどん以外にもサラダ頼むこと」
「……はい」
ルームサービスを頼むことが出来るタブレットを覗き込んで来た、陽葵さんに、サラダも食べるように言われた。
注文を送信した。
完成して持ってきてくれるまで、30分程掛かると言う事なので、僕と羽を伸ばすとしよう。
「陽葵さん、お願いがあるんですけど」
「なに?」
「膝枕してください!」
「はわぁ?!」
急なお願いで、ビックリしたのだろう。陽葵さんは、変な声を出して、頬を真っ赤にしていた。
「ダメですか?」
「うぅん、いいよ!」
頬を真っ赤にしながら、ベットに座った陽葵さんの膝に頭を乗せて膝枕をしてもらう。膝枕をしてもらう前に、スーツのジャケットを脱いで、椅子に掛けた。
「どうしたの?詩季くんから、お願いしてくるの珍しいね」
確かに、初めてだ。
これまでは、陽葵さんがキッカケを作ってくれて、それに乗る形だった。
「う〜んと、ゆっくりしたいなぁ〜〜と思ったので、何時もの陽葵さんの真似しました」
「ふふ、何それ!」
陽葵さんは笑いながら、頭を撫でてくれる。
陽葵さんから僕に積極的に、距離を詰めてくれた。それが、今では心地いい2人の空間になっている。
なら、僕も真似をして陽葵さんにとって僕との時間が心地いいものになって欲しい。
僕なりに、陽葵さんに好意がありますと伝われば良いのだが。




