144.関係
挨拶を終えた、僕は、案内人を先頭にして移動を再開する。陽葵さんと陽翔くんは、状況を掴めずに、僕達3人の後ろから付いてきている。
陽菜ちゃんは、髪をさっぱりと切った事で僕として認識出来ていないからなのか、緊張しているせいなの、僕にじゃれてこようとしなかった。
控室への移動の最中も、色んな企業の人とすれ違うタイミングで、挨拶を受けるので、僕と羽衣はそれに受け答えする。
あぁ、ストレスが溜まる。
移動の途中で、窓ガラスに映る僕の顔を見たら目には、ハートのハイライトが出ている。しかし、今のハイライトは比較的薄めなので、陽葵さんたちに見えていない事を願う。
控室前に移動したタイミングで、部屋の確保に動いてくれていた黒服さんが、部屋の鍵を持ってきた。多分、ホテルの一室を借りたのだろう。
「詩季様、ご要望通り部屋を用意しました。今から移動されますか」
「春乃、この後の予定は?」
黒宮モードなので、春乃さんの事を呼び捨てだ。陽翔くんは、表情には出していないが、目が不安を覚えているようだ。
「早めに到着したので、パーティーの開始まで1時間程あります」
僕は、それを聞いて春乃さんに1回頷いた。
「では、羽衣は、陽菜さんと控室で待っていてください。陽葵さんと陽翔さんは、お話がしたいので付いて来てくれませんか?政伸さんと桜さんは、お任せ致します」
おばさんとおじさんはに関しては、おじさんは控室で待っている事を選択しておばさんは、付いて来る様だ。
「では、羽衣。いってきますね」
「お兄様、いってらっしゃいませ」
僕は、春乃さん・陽葵さん・陽翔くん・おばさんと黒服さんに案内して貰って黒服さんが取ってくれた部屋の前まで移動した。黒服さんは、時間になったら呼びに来るようにお願いして立ち去って貰った。
部屋に入ると、陽葵さんが何か言いたげだったが、人差し指を僕の唇にあてて喋らないように伝えて、春乃さんに盗聴器の有無を調べさせた。
盗聴の警戒は、外だけでない。身内にされる可能性も捨てがたい。今回に関しては、身内にも聞かれたくない話だ。
特に、黒宮モードで猫を何重にも被っている状態の僕と春乃さんにとって、素を出すには盗聴されていない事が大前提だ。
「詩季くん、盗聴器は無かったよ」
春乃さんは、盗聴器が無かった事を確認して、僕の呼び方を様からくんに、変えた。同じく猫を被っている者同士なので説得力がある。
僕は、窓際にある4人掛けのテーブルの窓側に座った。春乃さんは、僕の隣に座り僕の向かい側に陽葵さん、春乃さんの向かい側に陽翔くんが座った。おばさんは、ベットに腰かけていた。
「はぁ~~息苦しいですねぇ~~。と言うか春乃さん。こんな高そうな部屋取って来るかな?」
「スイートルームだからね。景色も凄いね」
「ほへぇ~~凄いねぇ~~おっと、帽子取らないと」
パナマ帽子を外して机の上に置く。
「うぅ~~ん。猫を被るのは、本当にしんどいですねぇ~~」
「詩季くんは、何重にも被っているもんね」
「春乃さん、うるさいですよ」
「はぁ~い」
話を切り出しずらくて、少々、雑談に逃げてしまったが、陽葵さんの不安そうな表情を見て話さないといけないと思った。
「春乃さん、目、大丈夫かな?」
「大丈夫」
僕は、春乃さんに目にハートのハイライトが出ていないかの確認をしてから、陽葵さんと陽翔くんに対峙した。
「まず、話しておかないといけないのは、僕と春乃さんの関係だよね」
さてと、話すとするか。
「元々は、婚約者の予定だった。だけど、春乃さんの頑張りによって、今は、僕が主人で春乃さんが従者という関係」
「「…………へ!?」」
陽葵さんと陽翔くんは、状況を掴め無いようで、頭上に?マークが見えるのでは無いかと思うぐらいに、混乱しているようだった。
「えっ、元々婚約者で、今は従者?!」
陽葵さんは、混乱のせいだろう。言葉になっていなかった。
「詩季くん、少し、言葉足りない」
「だね。陽葵さんに陽翔くん。夏休み中にですね、父方の祖父母の会う事になりました。父親が縁を切っていたので、これまで会うことは、ありませんでした。そして、この夏に会って祖父母と子ども間は、復縁する事になりました。ここまでの流れは大丈夫ですか?」
「うん」
「おう」
長い文章にすると伝わらないと思ったので、短めに区切って説明をする事にした。
「僕の父方の実家は、歴史ある一族です。そして、かなり大きな企業を経営しています。沢山の大人が、僕にペコペコする位には。そして、春乃さんのお家は、長年、父方の祖父母と繋がりがありました」
陽葵さんと陽翔くんにとっては、空想世界の出来事のように映っているだろう。おばさんも冷静に聞いているように見えて、少々、頬を引き攣っている。
「僕と羽衣が父方の実家と復縁したと同時に、僕には、従者が付く事になりました。それが、春乃さんです」
「うん。それで、春乃ちゃんが、元々、詩季くんの婚約者だった理由を聞いていい?」
そりゃ、そうなるか。
「所謂、政略結婚を狙っていたんでしょう。ですが、春乃さんの反対もあり、従者に落ち着きました」
「もしかしてだけど、プールの前の春乃ちゃんの行動全て……」
「そうですね。僕の従者となる可能性が高くなったので、僕の中等部時代とかの情報を集めようとしたのですが、経験不足が露呈した形ですね」
「ごめんね。家の都合があったとは言え」
春乃さんは、陽翔くんに頭を下げた。陽翔くんは、「もう済んだ事だと」許していた。おばさんは、口元の引き攣りが、激しくなっている。




