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133.協力

「詩季様・羽衣様、お送り致します。お車用意しておりますので、お乗りください」


 詩季くんと羽衣ちゃんの清孝様との面会は終わった。


 こちらに来てもらう時には、同行しなかったが、詩季くんの従者となったので帰りは、同行する。


「春乃も付いて来るの?」


 詩季くんは、約束通り黒宮の前では、私の事を呼び捨てで呼んでくれる。


「春乃ちゃん、この後2人でお話いい?」

「いいですよ。羽衣様も私の事は、春乃と呼び捨てでお呼びください。もしくは、詩季様と同じく使い分けではいかがでしょうか?」

「じゃ、そうする」


 車に乗り込んで、詩季くん達をお家にお送りする。


 詩季くんの住むお家に着くと、詩季くんとしずか様が降りた。


「詩季にぃ、私、春乃とお話したいから」

「わかりました。春乃さん、よろしくお願いします」

「そう言う事ですので、お先にお帰り下さい」


 車を先に、黒宮邸に帰して、私は羽衣ちゃんに案内されて近くの公園に移動した。


 公園に置いてあるベンチに座った。


「羽衣ちゃん、どうかしたの?」


 私は、羽衣ちゃんに用件を尋ねる。黒宮の人間が居ないので、形式的な付き合いは必要ないと言う意味を込めて、様呼びではなくちゃん付けで呼ぶ。


 羽衣ちゃんも安心したようで、表情を和らげていた。


「春乃さんは、詩季にぃさんのことをどう見ているんですか?」


 何と可愛い質問だろうか。


 私が詩季くんの事をどう思っているかを聞いてきた。


「詩季くんは、私がクラスで馴染めていなかった時に、手助けをしてくれた。感謝してる」

「好きなの?」

「好きだったけど諦めたが正しいかな。今は、詩季くんの事は大切な友人として見てる。詩季様は、敬愛して仕えるつもり」


 詩季くんに、恋してない訳がない。


 元々、詩季くんが黒宮に戻る事になれば、仕える事になっていた。だから、恋をしてはいけない。だけど、恋してしまった。


「陽葵ちゃんと一緒に居る時の詩季くんの表情を見たら諦めが付くよね。詩季くんは好きという感情を理解できないから無自覚なんだけど、陽葵ちゃん大好き、それ以外の女の子はその他って解るんだよね」

「そうなんだ」

「でもね、いい出会いもあったよ」


 いい出会い。陽翔くんとの出会いだ。


「そうなんだぁ~~」


 羽衣ちゃんは、興味津々に、私の顔を覗き込んできている。


「陽葵ちゃんの双子のお兄さんで、西原陽翔くん。だけどさぁ、私、実家の勤めの事があるしで、色々傷つけたんだよね」

「……そうなんだ。陽翔さんの事諦めるの?」

「諦めたくないけどね、私は、黒宮の従者として働いている。だから、陽翔くんにも隠し事をしないといけない。私にとって都合のいい解釈だけど、従者としての仕事での隠し事に陽翔くんが耐えられないなら私は、彼を諦めないといけないかな。従者という仕事は、私にとって憧れだから」

「それってさぁ、詩季にぃが黒宮に戻った事で、陽葵ちゃんも同じだよね」


 そうだ。


 詩季くんとの話し合いで、私たち3人が、黒宮に関連する人物だという事は、必要な状況は来ない限り隠しておくことになった。むしろ、黒宮本家がそういう方針な部分もある。黒宮の人間が、学校に通う際には、登録名と言う形で、別の苗字を使う位だ。


「そうなるね。羽衣ちゃん的には、詩季くんはどう進むと思っているの?」

「う〜ん。陽葵ちゃんは、詩季にぃさんに好意を伝えて返事を保留されているみたい。だから、今後どんどんアタックを仕掛けるつもりなんだろうけど……」


 へぇ〜〜。陽葵ちゃん、詩季くんに好意を伝えたのか。私の知らぬところで、2人の恋は進んでいたんだな。


 そして、今の羽衣ちゃんを見ると、私が感じている事と同じ事を感じているのだろう。


 2人の恋路が発展した中での、今回の詩季くんの黒宮との復縁に、清孝様の思惑。


「だから、最後の詩季にぃさんの笑顔は、陽葵ちゃんの恋心にとっては、マイナスかも」

「それは、どうして?」

「今の詩季にぃさんは、お父さんに対して最も効果的なやり返しの手段を手に入れてしまった。多分、そっちに夢中になると思う」

「そうなると、まずいの?」


 詩季くんが、お父さんへのやり返しに、夢中になって陽葵ちゃんの恋路に影響を与える理由は、一体何なのか。


「詩季にぃさんって目的の為になら、取捨選択に躊躇いがないから。だから、詩季にぃさんがお父さんにやり返す目的だけで動いてしまったら、陽葵ちゃんが眼中から無くなってしまう」


 羽衣ちゃんの言う事をまとめると、詩季くんは、目的のためなら必要ないと判断した物は、平気で切り捨てる。


「つまりは、聡様にやり返す目的だけを持ってしまったら、陽葵ちゃんは、切り捨てられるってこと?」

「可能性は無くない。でも、今の詩季にぃさんの心の中で、陽葵ちゃんは、特別な存在って認識してる。それを崩したらダメ」

「特別な存在なら大丈夫じゃない?くっ付くまで時間の問題じゃ……」

「詩季にぃさんは、中学までは、狭い交流関係でしか過ごしてない。だからこそ、他人が自分に向けてくる感情とかよくわかってない。特に〖好き〗という感情。今、陽葵ちゃんが自分に向けてくる感情を理解しようとしている最中。だから、危険なの。お父さんヘのやり返し……復讐に夢中になってしまったら、詩季にぃさんは、〖好き〗という感情の理解を止めてしまう」


 羽衣ちゃんが言いたいことは、理解した。詩季くんが、聡様への復讐に囚われてしまうと、やっと理解しだした〖好き〗という感情の理解を止めて2人の距離が縮まらなくなる。


「もしかしたら、2人の関係性が悪化するかもしれない?」

「そう。だから、詩季にぃさんにお父さんへの復讐させつつ、陽葵さんとの関係が壊れないように、協力して欲しい」


 羽衣ちゃんからは、大好きなお兄ちゃんに幸せになってもらいたいという感情が溢れ出ている。


「わかった。協力するよ」


 私が、協力してもいいのかと思う。


 私は、クズだと思う。家の事情があったけど、人を好きになろうとして好きになったらライバルと競争せずに諦めて、優しくしてくれた人に恋をした。


 それに、今回の説明でも少しの【嘘】をついた。


 羽衣ちゃんに、協力する事を了承した時に、私の黒宮のスマホにメッセージが届いた。


『(白村詩季) 今度、瑛太くんと奈々さんと食事をしますので、僕の補助として同行願います』


 これは、羽衣ちゃんの言う事が、本当になりかねないと思った。


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