132.後継者
春乃さんから聞いた話によると、僕と羽衣の父親が黒宮の後継者として育てられていた。しかし、清孝さんが用意したお見合いに反発して縁を切った。
そのため、後継者が不在になった。次男には、黒宮を継がせる教育をしてこなかった事と性格的に無理だと判断した。
そして、白羽の矢を向けたのが、清孝さんから見て孫にあたる世代だ。
その第1候補が、新さんの息子である剣くんだったという。第2候補が、まといさんの息子の真司郎くんか。
「うちの生徒会と同じような状況ですよ。詩季様」
松本先輩が、部屋に入ってきた。
松本先輩も、僕の事を学校とは違い、様付けだ。
「松本先輩、ここではいつも通りでいいですよ?」
「なら、春乃ちゃんと同じ合図でいいかな?」
「わかりました」
松本先輩も入ってきた。
「うちの生徒会と同じということは、僕も似たような狙いで清孝さんに使われていると?」
「う〜ん、どうだろう。清孝様は、あわよくば、詩季くんが継いでも良いと思ってると思うよ。無理強いはしないけど。けど、裕大は、後継者に関しては本命が居る。だから、詩季くんは、刺激を与えて欲しいだけかな」
なるほど。色々と裏が見えてきている。
生徒会と同じという事は、候補者に刺激を与えつつ、あわよくば、僕が持って行ってもいいと思っていた。
しかし、生徒会に関しては、古河先輩は自分の後継者の本命が居る。
つまりは、これまでの動き自体、古河先輩の掌の上だったという訳か。
「という事は、松本先輩も僕を利用しようとしてました?」
「あはは、そうなるね。君を生徒会に入れた理由に関して嘘をついた訳だし。でもね、さっきの春乃ちゃんを守る姿勢は、心撃たれるものがあるよ。だから、少ないリターンだけど、裕大の考えている事を話した」
「つまりは、僕側につくと?彼氏を裏切る事になりますけど?」
「どうするか、白村くんがどう動くかで、それに従う。だけどね、私、裕大の事好きだけど、どうしても許せない事があるの」
恋人関係になったとしても、大変なんなだなぁと思う。だって、古河先輩の事は好きなのに、許せない事があるという事で、僕側に寝返ると言うのだ。
「理由を聞いても?」
「さすが、清孝さんが一目置いてるだけあるね。それに、春乃ちゃんが、白村くんの従者に選ばれた理由もわかるよ」
「前置きは、いいです」
松本先輩が、古河先輩にどうしても許せない事。それを知れば、今後の男女交際に活かせるかもしれない。
「前話したよね。裕大との初エッチは、裕大の慰めによるもので、痛かったって。それに関して、未だに、感謝というか申し訳なさを示さない。そこら辺は、ちょ〜っと腹がたつ」
おばさんの言っていた、異性関係が破綻するのは、身体という意味は、こういう意味か。
「何ですか、僕と仲良いふうに見せて、嫉妬心を煽りたいですか?」
「違う。違う。ただ、あいつにざまぁを味わせたいんよね。私を大切にしろってね。だから、裕大の考えている生徒会長選挙の内情を話した。自分勝手でしょ?」
「それで、古河先輩は2年生のどちらを推薦するおつもりで?」
「橋渡くんの方。まぁ、橋渡くんイエスマンだからね」
橋渡くんか。
確か、藤宮との共同イベントに関して、古河先輩から叱責されていたっけ。
あれも、僕は利用されていたのか。何とも、悔しいものだ。
「だから、藤宮生徒会の有隅さんが、白村くんに、興味を示した事は想定外みたい。どうにかして、白村くんをこっち側に付けられないかを考えてるみたい」
松本先輩は、古河―橋渡陣営の考えていることをペラペラと喋っている。古河先輩に対する怒りがあるにしても、少々口が軽い気がする。
「詩季くん、清孝様から来て欲しいって羽衣ちゃんも一緒に」
「わかりました」
僕は、春乃さんの案内の元で、清孝さんの執務室に入った。
「早速だが、しずかくんらか聞いていると思うが、私と誠子は、聡が行った子育てに関して激しい憤りを感じておる」
「はい」
「だから、聡からの保護と黒宮の後継者候補に刺激を入れるために、君と接触させてもらった。もちろん、復縁してくれたことは、嬉しいぞ」
「後継者云々に関しては、先程、春乃から聞いております」
「そうか」
春乃さんは、清孝さんに向かって一礼をした。
「もし、僕が黒宮を継ぐ意志を見せたらどうするおつもりで?」
「反対はしない。むしろ後継者候補として推薦までしても良いと考えおる」
「新参者に対して、手厚いですね。どこの馬の骨ともわからない人間に」
「あの場面で、春乃を庇った姿に心撃たれたよ。それに、君は、ワシと同じ雰囲気を感じる」
何とも、強い評価をされているものだ。だけど、清孝さんが、僕が黒宮を継ぐ意志を見せた際に、推薦するには……
「もし、黒宮を継ぎたいのなら結果が必要と言うことですね?」
「詩季くん、凄いの。確かに、推薦を出すにも結果は必要じゃ」
「それに、僕は春乃という優秀な従者の方をつけて頂いた。黒宮と復縁したということは、黒宮を継ぐ継がないに関わらず、結果は残さないとダメですもんね」
父親は、母さんとの結婚に関して清孝さんの行動に納得が出来ずに、絶縁したつもりでいた。だけど、黒宮とは絶縁出来ずに仕事面では、見えない所で、大きな影響下に置かれている。
そして、父親にとって絶縁した親と自分の子どもが友好的になっている事は、よく思わない。と言うか、プライドを傷つける行為だ。さらに、僕が黒宮の当主候補になれば、父親の心をへし折る事ができるだろう。
大分、おもしろくなってきた。
結果を残すために、色々と動かないといけない。その戦術を考えるのが、楽しい。
どうやって勝ってやろうか。見返してやろうか。潰してやろうか。
「いやぁ〜〜面白いですね。こうでなくっちゃ」




