130.主従関係
「合図ですか」
誠子さんから、春乃さんとプライベートと黒宮の時の切り替えの合図を決める事を提案された。
「何だか、スパイものみたいだね」
羽衣が、ハチャメチャ時のような口調では無いが、大分緊張が解れているように思える。
そんな、羽衣のことを清孝さんは、微笑ましく見ている。
「では、春乃さんのことを春乃と呼んだら合図でどうでしょうか?」
「わかりました」
「では、春乃さんは、僕の肩を3回ポンポンと叩いたら合図でいいですか?」
「わかりました」
慣れないな。
春乃さんが、僕に敬語で丁寧に話してくる事に。ここは、黒宮の家なので仕方がない。
「あと、詩季くんと羽衣ちゃんにこれ渡しとく。黒宮の人間との連絡用に使って」
誠子さんの指示で、松本先輩は、僕と羽衣の前に、最新機種のスマホを置いた。このスマホで、黒宮の家と連絡を取るようにとの事だ。
「プライベート用のスマホで連絡を取ると、誤送信ガ起こる可能性があるでしょう。それに、黒宮の人間だとバレるとかなり面倒臭い事になるかもしれませんから。自衛のために持っておきなさい」
多分、このスマホには、黒宮の人間なら僕と羽衣が何処に移動したのかをわかるようにするアプリも入っているのだろう。
これも、黒宮としての防衛手段の1つなのだろう。
「そのスマホには、春乃と優花の黒宮用のスマホの連絡先は既に入っておる。それに、わしらのもな」
スマホを開いてメッセージアプリの連絡先を確認すると、清孝さんの言ったメンバーの連絡先が乗っていた。
春乃さんの連絡先も、プライベート用の物とは違うので確かだ。
「兄妹でも、交換しておくとよい」
「「ありがとうございました」」
僕と羽衣は、清孝さんと誠子さんにお礼を言った。
「では、昼食をご一緒にどうかな?聡以外の子ども達も出席する。君たちの従兄弟も出席するよ」
なるほど、早速お披露目と言う訳ですか。
「わかりました。羽衣は、僕から離れないでくださいね」
「うん」
「では、春乃。案内して差しあげて」
「かしこまりました」
春乃さんに、案内されて屋敷の食堂に移動する。清孝さんと誠子さんは、先に到着して座っていた。
「では、詩季様。羽衣様。しずか様。御三方は、名札が置いてある席にお座りください」
僕たち3人は、春乃さんの申し付け通りに名札が置いてある位置に座った。
食堂には、叔父や叔母にあたる人とその子ども従兄弟にあたる人達が座っていた。
事前に、清孝さんと誠子さんが説明していたのだろう。
「こいつらが、裏切り者の子どもか」
そう言う意味の視線を向けられているように感じる。
「お父様。こちらが、聡お兄様のお子様達ですか?」
「はい、僕は、白村詩季と申します。隣は、妹の羽衣と申します。本来なら、立った上での挨拶が必要かと思いますが、脚の状態もあり立ち上がりに時間が掛かるためご了承ください」
叔父が清孝さんに質問したしたので、僕が代表して自己紹介した。
「おぉ、ご丁寧な挨拶!俺は、黒宮新。君たちのお父さんの弟だ。こちらは、息子の剣だ。詩季くんとは、1つしか変わらないし、羽衣ちゃんとは同い年だから仲良く――」
「おじい様、何で春乃が、あいつの傍に居るのですか!」
新さんの紹介を制して剣くんは、清孝さんに向かって怒っているように尋ねた。
しかも、春乃さんを呼び捨てで、まるで自分の物だと言わんばかりの態度にムカッとする。
「それは、本日から春乃は、詩季くんの従者になったからだよ」
「何故ですか!僕が、高校生になった時には、春乃を僕の従者に、して欲しいと言っていたではありませんか!」
「了承は、していないがな」
「剣!」
「お父さんは、黙っていてください!」
新参者の僕は、大人しく見ている。内心は、腸が煮えくり返る位に怒っている。
大切な友人が、道具のような発言をされている。春乃さんは、黒宮との主従もありこの場では言い返せないのだろう。大人しくしている。
ただ、陽葵さんだったとしたら、すぐにでも反論していただろう。
そういう意味では、羽衣に教えて貰った、特別な人・存在になっていると思う。
「あいつは、新参者ですよ。僕は、黒宮を継ぐべく努力をしてきた。なのに、希望する従者は、付けて貰えないんですか?」
「人というのは、相性と言うものがある。剣と春乃では、相性は良くない。君と春乃を組ませれば確実に、春乃が根(音)をあげる。住吉家とは、長年の付き合い。そこら辺も配慮しないといけないのだ」
「そんなの、やってみないと分からないじゃないですか!」
僕は、先程渡されたスマホで、春乃さんにメッセージを送る。
『 (白村詩季) 彼とは因縁が?』
『 (住吉春乃) 大阪に居る時から、しつこかったのよ。特に、性的な目で見る事が多かったから。清孝様は、お家内の出来で知らない事は無いぐらいに精通してるから、配慮して頂いたと思う』
春乃さんは、周りにバレないように、手を後ろに回して画面を見ずにスマホを操作していた。
メッセージの内容は、腕につけているスマホと連動している時計で確認したのだろう。
僕は、テーブルの下で操作したので見習わないといけないかもしれない。
今の状況も、清孝さんの配慮があって何があったかを曇らせて説得しているようだ。しかし、剣くんは、食い下がる様子はない。
「春乃は、私のものです。今すぐにでも、彼の従者から外してください!」
清孝さんは、表情1つ変えない。この人は、怒らせてはいけない人だろう。
そして、剣くんは春乃さんの方を向いた。すると、唇がニヤッとした動きを一瞬でした。彼の視線の高さから立っている春乃さんの胸あたりを見ているのはわかった。
『(白村詩季) こういく、視線を向けられてふほですね?』
『(住吉春乃) 無理して私の真似しなくてもいいですよ? はい、そうですね。だから、詩季様の従者で良かったと思います。彼だと、何をされるか想像出来ません。私は、従者とした黒宮に仕えているのであって人としての立場は、同等です』
真似して、スマホを見ずに操作してみたが失敗した。しかし、春乃さんは、僕が何を言いたいのかを理解してくれた。
内容をチラ見で確認するからに、春乃さん自身が、剣くんに相当な嫌悪感を持っているようだ。
春乃さんの、『従者として黒宮に仕えているが、人としての立場は同等』これは、彼女の持っているポリシーみたいなものだろう。そして、譲れないものだ。
つまり、下に見るな。従者として仕えるが、扱い方を間違えるなという事だ。主従関係があるからと言って何でも言う事を聞くという訳では無いということだ。
だから、相性が合わないという事か。春乃さんの性格……いや性別か。
「剣には、他の従者を付ける予定だ」
「男じゃないですか!女じゃないと――」




