128.初対面
車から降りた。
そこには、出迎えの人々が数人並んでいた。そして、僕は、その人達を見てこれまでの動きについて納得した。
「やはり、春乃さんは、黒宮に関係している人でしたか」
「あはは、隠していてごめんね。家から喋らないようにと言われてたから」
陽翔くんとデートをした際に、僕の事を質問攻めにしたり、急なアポを入れて羽衣に会いに来たり。
全ては、黒宮の血をひく僕と羽衣の身辺調査と言った所か?
「と言うか、勘づいてたんだね」
「春乃さんが、陽翔くんと遊んだ時でしょうね。母さんが、黒宮家の当主に、僕と羽衣の復縁に関して話したのは。そこから、黒宮の人間の貴方が、身辺調査を初めた?」
いや、ちょっと待てよ。
春乃さんは、親の仕事の都合でこっちに引っ越して来たと言っていた。
黒宮の情報網の事だ。僕が事故に遭い、両親がどのように対応したのかは、知っていたはずだ。
その事を総合すると……
「いや、春乃さんがこっちに引越す原因は、僕ですか?僕が原因で起こった家庭内の不和をきっかけに、孫である僕を保護しようと動いた……?」
「流石、詩季くん。その通りだよ」
春乃さんから裏で動いていた事の顛末を聞いた。
僕が事故に遭って、両親の対応を見た父方の祖父母は、僕の保護に動いた。
昨年の入院期間中の保護は、治療面を考慮して見送った。しかし、その中で母方の祖父母が保護者になる事になったため影から見守る事を決めた。
そこで、白羽の矢が立ったのは、僕と同い歳の春乃さんだったという訳だ。
もう1人、この場に居る松本先輩は、2つ歳が離れているので僕の事を詳しく見る事は出来ない。
「松本先輩も黒宮の人間だったんですね」
「せいかぁ〜い」
「だから、古河先輩との事も僕に平気に話したんですね」
「そそ、清孝様がね。人の信用を失う二大原因は、お金と異性と言うからね。だから、君の異性関係の失敗を防いで欲しかった。君に、強い想いを寄せる女の子が居るのは知ってたからね。恋人になるならまだしもセフレになったら大変だからね。付き合う前提で、ヤるのもセフレだし」
松本先輩の言動にも合点が行った。
関わりの少ない1年生に自分と彼氏の性事情を話す事は、不思議だった。推しカップルとか言う理由でも納得は出来ない。あの時は、これ以上の追求は出来ないと判断したが。
羽衣は、頬を赤らめている。初々しい羽衣を見られて満足だが、松本先輩を止めに入る。
「松本先輩、羽衣が困っていますのでそれ以上は――」
「あぁ、そうですね。ここでは立場を弁えないとですね。すみません」
すると、松本先輩が頭を下げてきたので、僕は慌てて頭をあげるように言う。
「あの、春乃様に優花様。そろそろ、ご案内した方がよいのでは?」
「そうだね」
黒服さんを先頭に母さんが続き、僕と羽衣がその後ろを並んで動く。春乃さんと松本先輩は、その後ろを着いてきている。
「春乃さん、何時から僕の事を気がついていましたか?」
「進学クラスに、居るとこはわかってた。ただ、貰っていた顔写真と違ったから詩季くんが、自己紹介するまでわからなかった」
僕と春乃さんは校外学習で、僕から班に誘った事で交流が始まった物だと思っていたが、もう少し早くから交流していたようだ。
「こちらに、ご当主清孝様と奥様誠子様がお待ちです」
黒服さんは、そう言うと部屋の扉をノックしてから扉を開けて、僕たちに入るように言う。
部屋の奥の席に、70代のおじいちゃんとおばあちゃんとも言えない人が2人並んでいた。健じぃと静ばぁは、年相応のおじいちゃんとおばあちゃんだが、現在も黒宮の当主として、バリバリ働いていることもあって60代に見える。
案内されて席に、羽衣・僕・母さんの順番に座る。
目の前には、黒宮清孝さんと白村誠子さんの2人が居る。2人からは、物凄い雰囲気を感じる。それに、清孝さんの瞳には、ハートのハイライトが入っている。
「お義父さん、お義母さん。本日は、お時間を頂き――」
「しずかさん。これは、こっちからお願いしたんだから……」
母さんが話し出すと、誠子さんが制して話しだした。
「初めまして、詩季くん・羽衣ちゃん。あなた達の父親の親だから……」
「父方の祖父母ですよね?」
「詩季くん、冷静だね」
「いえ、これでも緊張していますよ」
僕も和やかになれそうだ。
誠子さんのあたふたした言動に、清孝さんの様子を見てみると目をキョロキョロさせていて緊張しているのが目に見えて解る。
「こちらから、自己紹介致しますね。僕は、白村詩季。こちらは、妹の羽衣と言います」
「白村羽衣と言います。よろしくお願いします」
初対面なので、挨拶をする。
「丁寧にありがとうね。私は、白村誠子。こちらは――」
「私は、黒宮清孝。現、黒宮の当主を務めております」
「あなた、孫に対する挨拶じゃないでしょ。ごめんね、緊張しているみたいで」
僕は色々と身構えていたが、2人を見て緊張が和らいだように思える。
そこから、僕と羽衣は、父方の祖父母とお話をしていった。




