122.〖好き〗②
〈〉これでの会話は、英語での会話だと思ってください!
「羽衣が辛い時に、支えてくれたから好きになったんですね」
「そうだね」
「……1つ気になるけど、Hをしても良いと思えた時はどういうときですか?」
「詩季にぃさんと連絡取れなくなった時に、支えてくれた事だよ」
事故に遭ってスマホが壊れた。
連絡先に関してのデータの復旧に関して、新しいスマホにバックアップからしようとしたが、素人の浅はかな知識でするべきでは無かったか。データ復旧に失敗してメッセージアプリの羽衣の連絡先が戻せなかった。この時、大事なデータの復旧は、プロに任せるべきだったと大きく後悔した。
「お父さんにお母さんは、私が何かしたんだろうって空気だったし、連絡付かないしで混乱してたねぇ」
羽衣にとって、ケニーくんの支えは心強かっただろう。
1人で、イギリスで生活して慣れてきた頃に、僕との連絡がつかなくなった。
相当なストレスを抱える事になっただろう。
「すみませんね。僕のせいで遠距離恋愛する事になって」
「それはいいって!まぁ、離れる事になる事を伝えた時は、少し辛かったな」
羽衣は、ケニーくんに帰国する事を伝えた時の事話してくれた。
●●●
春休み期間中に日本に帰国した私は、詩季にぃさんの置かれている現状を見て日本に帰国する事を決めた。
イギリスに戻って直ぐに、両親に話した。
お母さんは止めても無駄だと思ったようで、すんなりと了承してくれた。お父さんは、反対の姿勢を見せたが、詩季にぃさんの事を私に嘘を伝えた事で、認めないなら親子の縁を切ると言って納得させた。
実質的に、既に詩季にぃさんと絶縁状態のお父さんにとってこれは、かなり効いたようだ。
そして、帰国する事はケニーにも話さないといけない。
ある日のデートの帰り道。
何時もの公園でケニーとキスをした後に、切り出した。
〈ケニー、話がある〉
〈どうしたの、羽衣?〉
自分勝手だと思う。
こっちに来て困っている私を助けてくれて、彼氏になってくれたケニーに、私の我儘で日本に帰るのだ。
ケニーと知り合ってからこの春で2年が経過した。お付き合いしてから1年と半年位か。
彼が、私に費やしてくれた時間を考えると、私の事情で離れて行くのだ。
私は、嫌われる事は、覚悟している。
ケニーは、大切な人だ。
だけど、結婚していない。結婚して子どもが出来たら優先順位は変わるが、今は、結婚していない。
だからこそ、私にとって1番大事な人の傍に居たい。
〈私、日本に帰る事にする〉
〈お家の事情?〉
〈違う。私にとって大切な人の傍に居たいから〉
ケニーには、私がお兄ちゃん子だと言う事も話している。私の人生において大切な人だと言う事も話している。
我ながら、都合のいい交際だと思っているし理解している。
〈実はね、兄と連絡が付かなかった時に、事故に遭ってたみたい。それで、右脚が自由に動かせなくなって杖で生活してるの〉
ケニーは、驚いた表情をした。本当に、感情が表情に出るなぁ〜〜。
〈お父さんもお母さんも、兄がこんな状況なのに仕事ばかりだった。今は、祖父母がお世話してくれてるけど、私も、傍に居たいの。だから、日本に帰る〉
〈うん……〉
〈私が、どんなに自分勝手な事を言っているかもわかる。だから、ケニーに嫌われても仕方が無いと思ってる。ケニーの事を愛しているのは間違いないよ〉
ケニーに、私の想いを話す。
嫌われてもおかしくないと思う。
〈遠距離恋愛ではダメか?〉
私の我儘で、遠距離恋愛を提案するつもりではいたが、ケニーから提案されるとは思わなかった。
〈うん。遠距離恋愛でもお付き合いを続けたい〉
私は、その申し出に飛びついた。私としては願ったり叶ったりのお願いだ。
〈夏に帰る事になる。そこからは、遠距離だね〉
〈うん〉
ケニーは、寂しそうな表情をしていた。
私のせいで寂しい思いもさせてしまう。私も寂しいし、もちろんケニーの方が寂しい事もわかっている。
何とか、今以上の強い繋がりを持ちたいと思った。
〈ケニー、今晩、両親帰りが遅いの〉
〈……うん?!〉
ケニーは、驚いた表情を見せてきた。付き合って1年と半年。カップルによっては、Hも済ませていてもおかしくない年月を過ごしている。
ケニーは、私の「Hは、兄と会ってからにして欲しい」約束を守ってくれている。
私からした約束を私から破ってもでも、ケニーとしても良いと思えた。だって、私の我儘にここまで向き合ってくれたのだ。
返せる物がない。
だったら、遠距離になる前に、身体の関係を持って寂しさを和らげる事が出来るかもしれない。
そう思った。
すると、ケニーはキスをしてきた。
私は、この後家に来てするのだと思った。しかし、ケニーは、予想外の方向の返事をした。
〈そういう事は、君が愛する兄に認めてもらってからしたい。それに、そういう事は、寂しさを紛らわすためにするもんではないと思う〉
〈紳士だなぁ〜〜せっかく、彼女がしても良いって言ってんのに!〉
〈君の兄に認められたいよ。君が1番だと思う人に認めてもらって同じ立ち位置に立ちたい!〉
〈あはは!〉
ケニーの紳士ぶりには、ある意味笑えてきてしまう。
詩季にぃとまではいかないが、いい男を好きになったと思う。
〈兄は、一筋縄ではいかないよ?〉
〈怖いの?〉
〈う〜ん、私の事が大好きだからねぇ〜〜中途半端な好意なら簡単に心へし折れるかも〉
そう言うと、ケニーは物凄く緊張した。
〈あはは、大丈夫。そもそも、兄に認められると思う人じゃなければ、私は彼氏にしないよ〉
そう言うと、ケニーはニッコリと笑ってくれた。
日は変わって、帰国前日にケニーと会って別れる際にキスを終えて私は、ケニーにこう言って帰った。
〈もしも私に愛想尽かしたら遠慮なく振ってね。私が全て悪いんだから〉
変に束縛したくない、私自身の自己満足な気遣いだ。




