114.黒宮家
母さんは、父親の実家である黒宮家と関わりを持っていた。
母さんは、その一部始終を話してくれた。
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私は、今、彼氏である聡の実家である黒宮家を訪れている。聡が、父親と馬が合わずに、大学進学を機に縁を切った上で、ここに来た。
私は、皆と起業するための資金集めを担当していた。
だが、無名の大学生集団が起業すると言って、資金を援助してくれたり、融資してくれる銀行や会社は、1つも無かった。
その中で、破格の条件を提示してきたのが、聡が縁を切った父親からだった。
この条件を無視すれば、会社は設立出来ない。
唯一、資金を融資してもいいと言われた起業と面談に行った時の私を性的な目で見る中年の代表には虫酸が走った事を覚えている。
何か裏があるのは、確かだが、もうここしかない。藁にもすがる思いで、ここに来た。万が一の対策も十分にしてきた。
催涙スプレーは、手に取れる所に忍ばせている。
屋敷の呼び鈴を鳴らす。
すると、扉が開き聡のお母さんと思わしき人と、黒服さんが出迎えてきた。
ドラマとかでは見ていたが、実際にこういう人は居る所には、居るんだと思った。
「いらっしゃい、しずかちゃんバカ息子がお世話になってるね」
「あ、初めまして、丹羽しずかと申します」
「丁寧にありがとねぇ〜〜私、旧姓黒宮、現在は、白村誠子と言います。まぁ、上がってちょうだい」
私は、誠子さんに案内されて屋敷の中に入っていく。
「あ、あの」
「しずかさん、安心しな。鞄に忍ばせてる催涙スプレーは、使う事は無いよ」
冷や汗をかいてしまう。
私の連絡先を突き止めて連絡してきた事しかり、資金調達が難航している事も把握されていた。
そして、催涙スプレーを忍ばせている事も一瞬でバレた。
やはり、色々な部分で経験値がすごい違うのがわかる。聡も、黒宮と縁を切ったと思っているみたいだが、縁を切ったつもりな状態なのだろう。
「あなた。しずかさんがいらっしゃいましたよ」
「うん、入って」
扉を開けられて中に案内されると、一瞬で、聡のお父さんだと解る人物が、座って待っていた。
「やぁ、君が、聡の恋人のしずかくんか。身辺も問題無さそうだし、いい人を見つけた見たいだな」
私は、拍子抜けした。
まぁ私の素性とかは、黒宮の情報網を駆使て調べ上げたのだろうと予想が付く。
拍子抜けしたのは、聡のお父さんで、現黒宮家当主の清孝さんだ。聡から聞いていた印象とは全く違うのだ。
「何だか、拍子抜けしているみたいだが、別に、聡がしずかくんとお付き合いする事に、反対していた訳では無いんだ」
だったら、何で婚約者を用意したりしたのだろうか。私たちの交際を認めていると言うなら用意する必要が無いはずだ。
「あぁ、婚約者の事か」
何でもお見通しのようだ。やはり、生きてきた土壌が違うのか、この人のペースにならないようにするので精一杯だ。いや、もう彼のペースなのかもしれない。
「用意した婚約者と言うのは、黒宮家に代々仕えてくれている従者の一族の娘さんじゃよ。婚約者のサクラとして用意した」
私は、写真と名前を見せてもらった。確かに、聡から貰ったお見合い写真と一緒の顔だった。
清孝さんが言うには、私という恋人がいながら婚約者とのお見合いをセッティングした時の聡の行動を見たかったそうだ。
「黒宮の次期当主と見ていたからな。黒宮の当主ともなれば、色んな刺客を送られる。その中で、1番タチが悪いのは、異性関係じゃ」
清孝さんは、黒宮であった過去の例をあげて説明してくれた。
清孝さんの弟さんの事例だそうで、結婚して子どもにも恵まれていた。
しかし、黒宮の資産を狙った女とワンナイトのつもりで関係を持ったそうだ。
その女性が、妊娠してしまい、色々と問題になってしまった。
結局、清孝さんは、弟さんを一族から破門するという形を取って何とか、黒宮の体裁を整えたそうだ。
「色んな所で共通していると思うが、異性問題が1番他人の信頼を失うんだよ」
だからこそ、私という恋人が居た上でお見合いをセッティングして断ると言うの姿を見たかったそうだ。
「でも、その行動が聡を怒らせてしまって親子の縁を切られてしまったんだけどな」
「もしかしてですけど、奥様と離婚されたのに、一緒に居るのは……」
「まぁそうだな。聡は、黒宮から離れたがった以上、黒宮姓は嫌じゃろうからな。誠子に、そうお願いする事は、わかっておった」
聡から聞いていた印象とは全く別人だった。清孝さんに誠子さんは、聡の事を愛しているように見える。
「それで、私に接触した理由は何ですか?ただ、会社の設立資金を出してあげるだけの話ではないでしょう……」
これが、1番聞きたい理由だ。
そのような理由があった上で、私に接触してきた理由は何なのか。
聡との橋渡し役をやってもらいたいのか、それとも、聡が黒宮に戻ることを説得して欲しいのか。
「なぁ〜に、簡単な話じゃよ。ただ単に、聡の親をしたいんだよ」
「……親ですか?」
「聡が友達と会社をやりたいんだろ?だから、その手伝いをしてやりたい。これは、黒宮の人間じゃなくて、聡の親としての本心じゃ」




