強行出撃!
「エンペラーが一機撃墜されたって?」
格納庫で艦載機発進の準備を進めていた整備士の一人が通信相手にそういった。
「ああ・・・・・ああ・・・・、分かった。そう伝える」
通信を切るや否や、整備士が格納庫に響くくらいの大きな声で
「第一格納庫付近が狙われており、第一小隊が発進できないそうです!」
と皆に伝えた。
「・・・・となると、発進できるのは第二、第三小隊の数機だけ、か。第一小隊のエンペラーが五機目で撃ち落されたんだから、ウチから発進可能なのはよくて三機くらいだな・・・」
神妙な面持ちになるリーダー中野。
「ハッチが開ききる前に出ないと、蜂の巣にされちまうねぇ・・・。困った困った」
いつもより低い口調でそう言ったのはサブリーダー小林。
「とりあえず、手前にあるエンペラーを最初に出さないと、後が出られないっすね」
そう、如月の乗ったエンペラーが一番最後に着艦した理由は、そこなのだ。第三格納庫はエンペラーに非対応なため、艦載機格納棚に入らなかったから、なのだ。
「でも、コイツを飛ばすには専用の補助エンジンが必要らしいですし・・・」
カタパルトも非対応。
「あの、エンペラーの補助エンジンはどのくらいで装着可能ですか?」
中野が近くにいた整備士に声をかける。
「ああ、補助エンジン自体は五分もあればつけられるけど・・・・・」
整備士の声が止まる。
「・・・何か問題でも?」
「いやあ、格納庫内でエンジンふかすわけだから、防火シャッターを閉めて周りのスカイタイガーを守らなきゃならないんだ」
「という事は、ウチからはあのエンペラー一機しか出す時間は無い、と」
中野はどうやら気付いたらしい。エンペラーが一機ある限り、この格納庫からは如月のエンペラー一機しか出す時間が無い、という事に。
「どうしますか・・・?」
少々不安そうな顔で、作業員がそう聞いてきた。すると中野はすぐに
「どうするも何も、だったらエンペラー、さっさと出しましょう。今は一秒でも惜しい」
そこへ、耐Gスーツに身を包んだ、如月修二が現れた。
「俺はいつでも行けますよ」
如月の放った一言は、いつもよりも、何となく頼もしく感じられた。
コックピットの中で、計器類をチェックするエンペラードライバー如月修二。外部エンジンモードが作動していることを、モニターで確認。異常なし。
「修二様、外部エンジンも試作品なので、あまり無茶はしないで下さいね。できる限り私の方でも調整してみますが・・・」
キャノピーを下ろした空間に、機械的なようでそうでないような声が響き渡る。
「分かってるよ。出来ればレーダー係もやってくれるとうれしいんだけどね」
冗談で言ったつもりだったが、ミカは
「はい、お任せください!離艦と同時に全方位レーダーを作動させて周囲の状況を瞬時にお伝えしますね!」
と、なかなかやる気らしい。
「リーダー、あとどのくらいかかりそうですか?」
コックピットから後ろを見てみる。第三小隊の数名や作業員が集まって何か神妙な顔をしている。どうやら、機体の後ろ半分を丸々覆ってしまう外部エンジンの取り付けが少々難航しているようだ。
『いや、取り付け自体はもう終わってるんだが・・・』
リーダーから返信。
『外部エンジンの燃料タンクから燃料が漏れだしてる。今原因を調査中だから、もうしばらく待ってくれ』
「・・・了解です」
いったん、通信を切る。
「・・・・・・だってさ。どうするよ?」
独り言のように、修二がそう言う。
「うーん、なかなか困りましたねぇ・・・・・・。でも、まあ、爆発したらそのときはそのときですよ」
ミカは人工知能の癖に、なかなか人間臭い。
「・・・ま、そうだな」
そうか、そうだよな。修二の心は少し平静を取り戻す。
それから少しして、戦闘機格納庫の防火シャッターが降り始めた。それと同時に、さっきまでの人だかりが厚い扉の向こうへと退散していくのが見える。どうやら、ついに始まるらしい。
『こちら中野、聞こえてるか?』
突然、エンペラーのコックピットの中に、リーダーの声が響く。
「こちら如月、聞こえています」
『燃料タンクの修理は大方終わった。これからハッチを開く。準備しとけ』
「・・・了解!ミカ、エンジン作動だ」
「了解、エンジン起動開始」
だんだんと機体が細かく揺れ始める。外部エンジンだと、やはり前回と機体の揺れの感じが違うものだな、修二はそう思った。
外付けトライアングルエンジンのタービンがうなりを上げる。いつでも行けるぜ!と騒ぐ、血の気の多い戦闘機。
『ハッチを開くぞ!あとはなるべく早く飛び出せ!』
通信が早いか、ハッチがゆっくりと開き始めた。
「来たな・・・・?よし、行くぞ!」
エンジン出力レバーに手をかけ、一気に全開にしようとした、がその時
『待て如月!中止だ!』
突然の中止要請。
「なっ・・・・いったいどうしたんですか!?」
『ハッチが開かない!どうやら外部被弾の影響でどっかが故障したらしい!』
「問題ありません!ハッチをミサイルでぶっ飛ばしましょう!」
ミカが通信に割り込んできた。
『ダメだ!それは危険すぎる!こんな狭いところでミサ』
通信はそこで途切れた。
「なっ・・・?」
何が起こったのかわからない修二。すると
「私が通信を切りました。とにかく、早くここから出ましょう。エンジンもそう長くは持たなさそうですし・・・」
「ははぁ、お前が切ったのか・・・」
「いいから早く出ましょう。外部エンジンの出力が不安定になってますし」
「そうなのか?それはまずいな。じゃ、いっちょハッチブチ破るか!」
ディスプレイでミサイルを選択。修二が選んだのは、勿論空対空ミサイルである。
「さすがにこれ以上威力あげると大変なことになりそうだしな」
認証完了。着艦状態のエンペラーのウェポン・ベイが開き、空対空ミサイルが顔を現した。もちろん、膠着装置とは重ならないように降りてきている。
画面に準備よし、の表示。
「よし、じゃあ行くぞ!」
「了解です!!」
ミカの返事と同時に、エンジン出力全開。座席の背に押し付けられる感覚と同時に、操縦桿についているスイッチを押した。
視界の左下、何かがチラッと見えた気がした。次の瞬間、キャノピーの外側が炎に包まれた。
機体を大きく揺らしながら、煙を裂いて飛び出してくる、一機のエンペラー。ギアを収納しつつ、大回りで敵勢艦、きじはらへと向かう。
「ミカ、被害状況を報告してくれ」
目の前には青空と、ところどころきらきらと光る、藍色の海が広がっている。
監視モニターによると、エンペラー本体には、主だった被害は無いようだが・・・。
「修二様、外部エンジンの出力が落ちています。やはり、ハッチを破壊した時に破片か何かを吸い込んだようですね」
「・・・そうか。じゃあ外部エンジンを切り離してくれ」
「了解しました。エンペラー、エンジンスタート。十秒後に外部エンジン脱落します」
エンジンランプが緑に光る。
「さて、じゃあやるとするか」
そう言うと修二はスイッチを入れ、エンペラーをアクティブモードへ移行。
爆音が去ってから、中野は格納庫へと急いだ。
「アイツ、やりやがったな・・・・・」
大きくひしゃげたハッチ。隅のほうには外部エンジンについていた補助翼の一部がくっついていた。出て行く際に引っ掛けたようだ。
「あらあら、こりゃまたやってくれたみたいだね」
後から来たサブリーダー小林が、格納庫を見渡しながらそういった。
「カタパルトがこれじゃ、スカイタイガーも出せやしないな・・・」
中野は先のほうでひしゃげたカタパルトを見つめる。
「まあまあ良いじゃないか。今回は、あの戦闘機がどれほどのモンなのか、見せてもらうとしようよ」
大きく穴の開いたハッチから見える空。先ほど飛び立って行った黒い点が、二つに分かれるのが見えた。
高度を下げていく方の点は、きっと切り離した外部エンジンだろう。
「・・・まあ、それもそうだな。モニターしておくか」
二人はそう言うと、外部との空間の遮断が出来なくなったカタパルトを後にする。