ソウルドッグ
第三小隊にスカイタイガーが配備されてから三日。早くも正式な任務が第三小隊に命令された。
「皆、知っていると思うが、我々は今回、海を越えて米国へ空輸する重要器機の護衛に当たる。尚、本作戦には第一、第二小隊も参加する」
大高が第三小隊メンバーの前にでてそう言った。
「輸送の援護か………。結構きついな」
リーダーの中野がそうつぶやく。輸送機は大型で遅いため、敵の格好の標的になるのだ。
「尚、輸送は先日完成した新型飛行戦艦『高天原』のテスト飛行も兼ねて行う・・・・・らしい」
らしい、と言うのは、小隊長も人から聞いた話だからである。
「しつもーん。スカイタイガーは艦載できるんですか?」
小林が手を挙げた。
「多分できる」
大高は即答する。
「あ、じゃあエンペラーはどうですか?」
修二も手を挙げた。
「お前は馬鹿か。第一小隊もお前とほぼ同じヤツ使ってるんだから載るに決まってんだろ」
「なーるほど」
修二はぽんと手をたたいた。
「まあ、第三艦載機発進口には専用の射出機がないから、お前のには専用の補助エンジンくっつけることになるけどな。じゃ、解散」
小隊長はそう言うと小隊長室に戻っていった。
第三小隊の戦闘機乗り達は、とりあえずプレハブ小屋に集まった。
「・・・・・ん?一人多いぞ?」
部屋に入ってから、最初に言葉を放ったのは鵜堂だった。
「ほんとですか?」
と、成実は人数を数え始める。
「えっと、中野さんに小林さんに鵜堂さんに秋原さんに先輩に私に・・・・・・・・あなた誰?」
成実の指し示す指の先には第三小隊のメンバーではない少女がいた。それを見て修二は
「えー・・・・・話せば長くなるんだけど・・・・・・」
と、ミカがここにいるいきさつを事細かに話し始めた。
「ふーん・・・・・。だいたいは納得したけどさ、ロボットに髪っているの?結構リアルにできてるし」
小林がミカの長い髪を後ろで結びながらそう言う。ミカは
「この髪は私の中にあるコンピューターを電磁波などから守るためにあるそうです。雷受けても大丈夫だって、開発の人は言ってましたよ」
と返した。いきなり馴染んでいるようだ。
「ところで隊長。輸送の護衛ってありますけど、一体何を運ぶんですかね」
修二が口を開いた。中野は窓から外を見ながら
「さあな。ま、護衛が必要って事はよほど重要なものなんだろうな」
そう答えた。
「ま、とにかく俺達は護衛するだけなんだから、深いことは知らなくていいさ。で、修二。悪いがコーヒーいれてくれ」
「はいよっ」
「あ、俺も」
と秋原。
「同じく」
小林。
「私もお願いします」
成実。
「俺もな」
鵜堂。
「私もですよ」
ミカ。
「おめーは飲めねーだろうが!」
六人がコーヒーを飲んでくつろいでいると、そこへ大高が現れた。
「お前ら、大変だ!」
「ど、どうしました!?」
第三小隊に緊張が走る。
「実は・・・・・・」
大高の額に汗がにじむ。
「小隊長室のコーヒーが切れた」
「なんだ~・・・・・」
小林がそう言うと、第三小隊は一気にダレた。
翌朝・・・・・
「全機、滑走路に配置しました。いつでも発進可能です」
進藤がプレハブ小屋のドアを開け、そう報告してきた。
「よし、じゃ、総員着替えて滑走路に集合な。そろそろ高天原もこの上通る頃だしな」
何故かいる大高がそう言った。
「あれ、まさかこれって・・・・・・」
修二が苦笑いした。
「そうだ。お前の苦手なアレだ」
アレ、とは飛行中の飛行戦艦の格納庫に着艦する事である。
「大丈夫ですよ。修二様のアシストはしっかり行いますから!」
ミカは修二の不安をよそにそう言ってニコッと微笑んだ。
「おお、高性能だな」
鵜堂は微笑むミカを見てそう言った。
「でけー・・・・・・・・・・」
成実は第三小隊基地の上を通過する飛行戦艦『高天原』を見てそう言った。
ほかの皆は既に戦闘機に乗り込んでいるというのに。
「ほら、お前もさっさと乗り込め」
大高が成実を軽くしかる。
「小隊長はどうなさるんですか?」
「私か?私はここでおまえたちの帰りを待つとするよ」
「じゃあ何でパイロットスーツ?」
「気づかれたか」
「バレバレですよ」
「私も高天原に乗りたくてな、護衛には参加しないが取りあえず余ってるスカイタイガーで飛ぶことにした」
「へー・・・」
「ほら、さっさと発進しろ。置いてかれるぞ」
それから三十秒後、四機のスカイタイガーと一機のエンペラー、遅れて二機のスカイタイガーが滑走路から、空の要塞と呼ばれる高天原へと飛び立った。
修二は編隊を組んで飛んでいる。
「空の要塞って、昔はプロペラ機が言われてたんですよね?」
『らしいな』
返事をしたのはリーダー中野。
「それが、今の時代になるとほんとにこんな馬鹿でかい要塞になるんだから、時代ってのは凄いもんですねぇ」
『何変なこと言ってんの』
サブリーダーが口を挟む。
「いやいや、何となくそう思っただけです」
『さてはあんた、帰りたいとか思ってんじゃないでしょうね?』
「あー帰りたいー」
『残念。もう着艦みたいよ。じゃ、また格納庫でね』
通信はそこで切れた。今から着艦らしい。ちなみに修二は一番最後だ。何故かというと、下手だからである。
「あー・・・ホント帰りたい」
「まあまあ。私が居るじゃないですか」
コックピットに流れるミカの声。
「そうだな。ミスったら巻き添えにしちまうしな」
「やめてください。私結構修理費とか高いんですから」
「自分の心配しかしないのか・・・・・」
ロボットって冷たいんだなと、修二はしみじみと感じた。
六機のスカイタイガーがスムーズに着艦していく。残るは修二のエンペラーだけだ。
「ほらほら、早くしろー」
リーダーから通信が入る。
「ちゃんと消火設備も整ってるぞー」
「ちょ、火災発生を前提にしないでください!」
まあ、修二には前科があるので消火隊の待機は妥当な判断なのだが。
「おい、早くしろ。高天原が加速できないだろ!」
リーダー中野がしびれを切らしてそう言った。
「分かりましたよ・・・・。ではエンペラー、これより着艦します。メインエンジン出力ダウン」
修二はエンペラーの推進力を弱めた。
「補助エンジン点火」
トライアングルエンジンの、一番小さなノズルから高温のジェットが噴き出す。
「着艦」
エンペラーからランディングギアが下りる。そのままエンペラーはハッチに進入、無事着艦する事ができた。
「こちら第三戦闘機格納庫。ハッチ閉め願います」
大高が備え付けの電話にそう話しかける。たぶん、艦橋と繋がっているのだろう。
エンペラーが着艦してから少し経つと、開いていたハッチがゴゴゴゴと重そうな音を立てて閉まった。
一行は高天原の中を歩いて回っている。大昔、海に浮かぶ戦艦で甲板を一周するのに一時間かかったやつがあるらしいが、この高天原はたぶん五時間ぐらいかかるのではないだろうか。いや、そんなかかんないね。
「あっ!あれこの間出来たばっかりの『きじはら』じゃないっすか!」
鵜堂が通路の窓から見える護衛の飛行戦艦を見ながらそう言った。今回、高天原は『かすが級飛行巡洋艦』三隻と『エトール級飛行戦艦』、『すばる級飛行駆逐艦』に周りを囲まれるようにして護衛されている。演習でも見ないような光景である。
「先導しているのは一番艦の戦艦『ソウルドッグ』、本艦の右側にいるのが二番艦の駆逐艦『きじはら』、左右斜め後方についているのが二隻一対の『たちばな』と『さくら』、この通路と反対側にいるのが『しののめ』となっています。はい」
一行を案内していた兵士が軽くそう説明した。
「え?ソウルドッグって・・・・・米国からも護衛来てるんですか?」
鵜堂が話に喰らい付いた。
「ええ。今回は高天原の性能を見たいということで米国から一隻きてます。まあ先頭にいますけど実際はお客さんみたいなものですね」
「へ~・・・」
楽しそうに喋る二人を置いて、一行はまた通路を進みだした。
「あれ、リーダー、案内の人置いて行っちゃっていいんですか?」
大江が後ろを振り向きながらそう言う。
「ま、良いんじゃないかな。別に」
特に気にするような気配も無く中野は歩いている。
「・・・・・・先輩、本当に大丈夫ですかね?」
隣を歩いている如月にも聞いてみる大江。
「ま、良いんじゃないかな。別に」
如月もまったく同じように答えた。