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試作一号

修二はコックピットに入ると、マニュアル通りに操作をしてエンペラーの電源を入れた。するとスピーカーからいきなり

『お帰りなさいませご主人様』

と、女性の声がした。

「ぬぉわっ!?何じゃこりゃ!?」

コックピットの中で慌てる修二。

「小隊長、最新鋭って、こんな無駄な機能のことですか?」

「いや、それは多分組み立ての奴らが詰め込んだヤツの一部だろう」

大高は腕を組んだまま修二を見ている。

『ご飯になさいますか?お風呂になさいますか?それとも、飛びますか?』

「小隊長、これどうやって黙らせるんですか?」

「ん?さあ。ミカちゃんに聞いてみたら?確か試作一号機にはミカちゃん搭載されてるらしいから」

「マジですか?ミカちゃん載っけてんのか……」

ミカちゃんとは、特に大型の飛行空母や飛行戦艦に配備される人型のナビゲーションロボットのことである。正式名称はミカではないのだが、修二がミカちゃん(開発者、藤原美香からとった)と呼んでいたら、いつの間にか軍全体に広まった。ちなみにナビゲーションロボットは、現在試験運用中のテスト体として十二体のミカちゃんが稼働している。

「ちなみに、何号ですか?」

何号、とはミカちゃんの事だ。

「決まってるだろ。試作一号」

「試作一号!?何てモンのっけてんすか!ミカちゃん試作一号が載ってるってことは、実戦で殉職確定じゃないですか!」

彼がここまで言うのには訳がある。試作一号のテストとして、演習時に戦闘機の遠距離ナビゲーションをさせたとき、ミカちゃん試作一号は嘘情報を流し、味方が全滅するという結果を残したからだ。まあ、そのせいで試作一号は廃棄処分が決定した訳なのだが。

「まったく……廃棄処分が決まった機械が装備されてるなんて、これはゴミ箱か何かかよ……」

「では、修二様は生ゴミ、と言うことになりますね」

突如コックピット内に響く別の女性の声。

「おわっ………いつから起動してたんだよ」

少し動揺する修二。

「いつから、ですか。正確な時刻は記録しておりませんが、私がこの『ゴミ箱』に」

「すまんすまん。ゴミ箱じゃない。俺の愛機だ」  

「……修二様の愛機に装備された時から起動しており、常時システムチェックプログラムを走らせています」

「………。とにかく、この機と俺に何か変なこと言ったりしたりすんなよ」

「ええ。しませんとも。修二様がこのエンペラー試作一号機を『愛機』と言ったように、私にとってこの機のパイロット、つまり修二様は『恋人』にあたりますから」

「おいおい、ずいぶんとモテてんなぁ。この優男が」

小隊長が外から何か言ってきた。

「ったく、機械に惚れられてもさっぱりうれしくないですよ」

言い返す修二。

「なっ…………!心外です」

ミカちゃんはそう言い返した。

「お前………馬鹿やらかす前と比べるとずいぶん人間臭くなったな」修二の表情が少し固くなった。

「廃棄処分が決定してから今までずっと技術者にいじくり回されてましたからね」

「………にしても、何だか話してる相手が見えないと変な気分になるな。電話してるみたい」

「じゃあ直接会って話します?私もこの機に乗ってることですし」

ミカの声のトーンが少し上がった。

「まあ……そうだろうけど………そりゃシステムとしてだろ」

「ちゃんとボディも乗ってますよ。左側面の白いボタンを二回押してみてください」

修二はどうするか少し迷ったが、とりあえず指示に従ってみることにした。


カチカチ……


ボタンを二回押すと、風防の外側後方からウィーンという、何かが開くような音がし始めた。

「な……何だ!?」

修二は風防から身を乗り出し、後ろをみた。小隊長も興味津々でそれを見ている。


エンペラーの装甲の一部がゆっくり開いていく。そして、その隙間からは、何か……腕が見えた。

「ま……まじかよ……」

プシューと言う音がして装甲の解放が終了した。そして、その中からは、見たこともない少女がゆっくり出てきた。

「……ふう。お久しぶりですね。修二様」

「なーーーー!誰だお前ーー!?」

修二はだいぶ動揺している。

「フフフッ……。外装がずいぶん変わりましたからね」

少女はゆっくり立ち上がると、機体からさっと飛び降りた。


ガシャーン………人型ロボットが少しの高さから飛び降りたらそういう音がするはずなのだが、ミカからはそのような音はしなかった。滑走路のアスファルトもへこんでいない。

「………こりゃ驚いたな」

小隊長は驚いたような表情でミカを見た。

「一体、総重量は何キロなんだ?」

「はい、ミカ試作一号改は、主要部以外を強化プラスチックやカーボンナノチューブなどで造られているため、総重量は六十三キロとなっております」

大高の問いに、ミカは迷いもせず答えた。流石、ナビゲーションユニットである。

「すげぇ………ほかのミカちゃんは軽く三桁はあるのに……」

修二は信じられないというような顔でミカを見た。どこからどう見ても人間にしか見えない。

「まあ、私とそのエンペラーは今の技術の塊ですからね。それに、戦闘機に載せるユニットが重かったら話になりませんし」

とミカ。もう実は人間だと言われても信じそうだ。

「修二様、惚れました?私に」

「ううん。機体に惚れた」

「なっ!」

本当にショックそうな表情をするのがすごい。さすが、技術大国と言われていただけのことはあるな、修二はそうしみじみと思った。



そんな二人……正式には一人と一台……の会話を聞きながら、大高はこのエンペラー試作一号機を引き受けたときの技術者の言葉を思い出していた。

『このエンペラーに搭載されているミカ・改は、自分で物事を考えたりする………つまり、機械生命体なんです。でも、問題があるんですよ。と言うのもですね、あのシステムは、ミカのOSの対ウイルス実験をしていて、数種類のウイルスを同時にミカにけしかけた時に発生した、いわばバグみたいなものなんですよ。ですから、もしかしたら稼動中に暴走したりするかもしれませんよ』




「ま、いいや。ミカちゃんはそこら辺で待っててくれ。俺はひとっ飛びしてくるから」         修二はエンペラーの再起動を開始した。が、再起動しない。

「あら?……………………まさか」

「正解です。その機は私が接続されてないと起動しませーんあしからずー」

髪の長い、そして、修二よりも……多分他のパイロットよりも……背の低く、まな板な少女はそう言った。

(にしてもあれは………設計上あれが一番都合がいい形なのか?それとも、技術者の趣味的な………?)

修二は既に別の議題を見つけていた。

「ふぅ………。とにかく、テスト飛行してみるから早く戻ってくれ」

少しうんざりしたように言う修二。

「はいはーい」

が、ミカはそんな修二を気にせず、軽快に機体によじ登ると、さっきまでいたハッチ内に戻り、接続を開始した。


コックピットにある照準器兼モニターにコードが映る。

『機体異常ナシ。発信可能』

「機体に異常はみられません。発進可能です」

文字が表示されるとほぼ同時にコックピット内にミカちゃんの声が響いた。

「嘘ついてないだろうな?」

修二は念を押した。

「大丈夫です。私を信じてください」

「それにしてはモニターに映ってる字が違ってないか?」

「えっ?」

「ほら、『発進』が『発信』になってる」

「そ……修二様の見間違いです。私はそんなミスをみすみす見落とすようなまねはぷははははは!」

「おいおい、自分で言ったんだから最後まで言い切れ。途中で笑うなよ…。あくまでも機械だろ?」

「……………っ!!………くっ…………!あははははははははははははははははは!!」

「うるせぇ!!いつまで笑ってる気だよ!!」

「………………ふう。あー可笑しいくくっ」

「オカシイのはお前だよ!それよりほら、さっさと発進させてくれ」

修二は少し苛立った。まあ、無理もない。



「じゃ、まず最初は私アシストしないんで」

ミカはそう忠告してくる。

「ああ、そっちの方が助かるよ」

修二は一度ため息をつくと、機を動かし始めた。

「お、オオタカよりも何か軽いな。さすが最新鋭だ」

「ま、実際は質量的に言えばオオタカの方が格段に軽いんですけどね。軽く感じるのは出力アップの賜物です」

「ふーん………ま、とにかく飛ぶか」



無事、エンペラーは滑走路から飛び立った。

「…………ふう、爆発はしなかったか。よかったよかった」

小隊長は、飛び去るエンペラーの姿を見ながらそう呟いていた。

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