a new fighter plane
ちぎれ雲が所々に居座る空をゆく、大型輸送機〔アマノイワト〕。その周りには、二機の〔スカイタイガー〕が護衛についている。
今、アマノイワトは六機の〔スカイタイガー〕を第三小隊に運んでいる途中なのである。
突然、一機のスカイタイガーが加速した。どうやら不審な機影を発見したようだ。
スカイタイガーの向かった先には、空に溶けてしまいそうな色をした、一機のとても美しい戦闘機らしき機体があった。パイロットはしばらくその機体に見とれていたが、ふと我に返り、警告信号をだした。すると、その怪しく、美しい飛行機はゆっくりと、日本国領空の外に向かって、空の青色に溶けていった。レーダーにもかろうじて映っていたが、しばらくするとレーダー圏外に出てしまった。
そしてまた、スカイタイガーはアマノイワトの護衛へと戻った。
第三小隊の保有する滑走路から、着陸態勢に入ったアマノイワトの姿が見える。第三小隊のパイロット達は、滑走路の脇からそれを見ていた。
「来たわね。スカイタイガー」
小林が大型輸送機を見ながらそう言った。
「知ってるか?スカイタイガーにはな、いくつか種類があって、中にはホバリングできる奴とか垂直離陸、着陸ができる奴もいるんだぞ」
中野もまた、大型輸送機を見ながら言った。
「へぇ〜……知らなかったです」
成実がそう言う。まあ、今までオオタカしか知らなかったのだから無理はない。
アマノイワトが滑走路に降り立った。アマノイワトが完全に停止したのを確認してから、護衛をしていた二機のスカイタイガーも着陸した。
アマノイワトの格納庫から次々とカバーを掛けられた大型のものが出される。
「そう言えば、あれって前に第二小隊の皆さんが使ったやつですか?」
成実がカバーの掛かったスカイタイガーを指差してそう言った。
「そうだよ。でも一機、新品がある」
中野はそう答えた。
車に牽引され、六機のスカイタイガーは第三小隊の格納庫に収まった。
オオタカはすでに第三小隊第二格納庫に移動されていた。
向こうでは、小隊長が護衛についていたパイロットから何やら話を聞いているところだった。
スカイタイガーの輸送が終わり、給油を受けたアマノイワトは、また、深い青に染まった大空に飛び立った。護衛のスカイタイガー二機もそれについて、自分の基地へと戻っていった。
「さて、中野。パイロット達を格納庫に集めてくれ」
大高はアマノイワトを見送りながらそう言った。
「了解しました」
中野はそう返事をすると、各地に散らばる(格納庫やら詰め所やら)第三小隊のパイロット達を探しに行った。
皆が格納庫に集まってから五分後、小隊長が現れた。
「これが、今日からお前らの愛機だ」
小隊長はそう言うと、おもむろに一機のスカイタイガーに近づき、カバーをバサッと取った。
灰色のカバーの下から、青い機体が姿を現した。
「スカイタイガー……。基本操作はオオタカと大して変わらん。だが、性能はこちらの方が遙かに上だ。それに、一機につき数十億という莫大な金額だ。お前ら、死んでもこの戦闘機だけは壊すんじゃないぞ!」
中野は皆の前でそう言った。
「機体破壊なしでパイロットがどうやって死ぬんだか……」
修二の隣で小林が小さくそうつぶやいた。
「じゃ、そーゆーことで。明日は早速とばしてみる予定だから、今日中にマニュアル頭に叩き込んどけよ。以上、解散」
大高が解散の号令をかけると、パイロット達は配られたマニュアルを抱え、自室に戻っていった。
「あの……小隊長」
修二が声をかけた。
「ん?どうした?」
小隊長は修二の方を向いた。
「俺はどうすれば?」
「ん〜……お前もマニュアルでも読んどけ」
小隊長は肩からかけていた鞄の中から、スカイタイガー用の厚さの二倍はあるマニュアルを取り出し、修二に渡すと、格納庫の奥に行ってしまった。
「……重っ」
修二は受け取った新型機のマニュアルを抱きかかえて部屋に戻っていった。
翌朝、格納庫の外には五機のスカイタイガーが横一列に並べられていた。その前に、五人のパイロットも並んでいた。
「パイロット諸君……」
大高小隊長のながーいお話が始まったとき、修二は部屋でマニュアルを枕に眠っていた。
ゴォォォォォォ……
「っ!?」
戦闘機の飛び立つ轟音で、修二は目を覚ました。
「……ん?あれは……スカイタイガーか?」
滑走路から飛び立った青い機体を見て、修二はそうつぶやいた。
「ん〜………もうチョイ寝るか」
再びマニュアルを枕にしようとしたとき
リリリリリリン リリリリリリン
修二の携帯が鳴った。
小隊長からのようだ。
「はい」
『寝てないでさっさと下りてこい!』
「……何で寝てるってわかったんですか?」
『ん?その反応だとどうやらホントに寝てたみたいだな』
「うわ!手口が汚いですよ小隊長!」
『ハハハハハ!……まあ、早く下りてこい。面白いものが有るぞ』
小隊長はそう言うと電話を切った。
部屋から飛び出した修二は、すぐさま廊下にある階段を駆け下り、宿舎から出ると滑走路に向かった。五機のスカイタイガーはもうどこかへ飛んでいってしまったようだ。
滑走路には、見たことのない戦闘機と、大高がいた。
「三分ジャスト。うん、足速いな」
小隊長はそう言うと妙な鞄を修二に渡した。
「ほら、さっさとこれに着替えてこい。五分以内にな」
そう言われたので、修二はダッシュで詰め所に戻った。
しばらくしてから、パイロットスーツに身を包んだ修二が戻ってきた。
「さて………コイツが、これからお前が乗る戦闘機だ」
修二は戦闘機のすぐ前まで連れて行かれた。
灰色の機体、三角形のエンジン。
「どれどれ……」
修二は後ろに回り込んだ。
「ホントだ。エンジンの付け方が違う」
大高が言っていたとおりだった。
「………これホントに飛ぶんですか?」
修二が聞いた。今更不安になってきたようだ。
「さあ、どうかな。でも、やってみたら意外と飛ぶかもよ。それに、自分で乗るって言ったんだし」
小隊長はなんだか嬉しそうだ。
「……じゃあ、もし俺が死んだら……」
「死んだら?」
「宿舎の裏の小屋にいるピーちゃん(にわとり)達に餌やっといてください」
修二はそう言うと、コックピットに入るための梯子に足をかけた。
上っていると、風防のハッチのすぐ下に、青い字で何か書いてあるのに気づいた。
「ん?なんだこれ?E…M…P…E…R…O…R……皇帝?」
「エンペラー。これからお前が飛ばす、世界で唯一機の最新不良品戦闘機だ」
大高が腕を組んでそう言った。