配備前日
初の機械系小説。
訳分からないものだらけですが、多目に見てください
一行につき十二文字設定だと、気持ちよく読めますよ
「こちら異常なし。これより帰還します」
快晴の空を旋回して自分の基地に戻る一機の旧型戦闘機〔オオタカ〕。
それはただ一機、悠々と、この広い空を飛んでいた。
「こんなボロ戦闘機でも、昔は最新鋭として前線で戦ってたんだろうな……」
コックピットに取り付けられている機材を眺めながら、オオタカ十三号機パイロット、如月修二[きさらぎしゅうじ]はそうつぶやいた。
「どうかしましたか?先輩」
後部のコックピットから、後輩でありオオタカ十三号機レーダー担当の、大江成実[おおえなるみ]が声をかけてきた。もちろん、通信機を介してだが。
「いや……こんなボロ戦闘機もさ、昔は最新鋭だったんだよなーって……」
修二はそう話した。
「先輩……私も悲しいですよ…。初めて乗った戦闘機が、もう退役になるだなんて」
そう、オオタカは今月限りで退役になる、老機なのだ。現存するのも六機のみ。今二人が乗っている戦闘機は、まさに空飛ぶ骨董品なのだ。
「でも………仕方ないよな……。今となっては戦闘機のレーダーの性能もエンジンの性能もぐんぐん上がってきて、オオタカの出る幕なんてなくなっちまったしな……。コイツの誇れる所っつったら、飛ぶ、古い、エンジンがついている……こんくらいしか無いし」
「でも、複座の戦闘機はオオタカしか無いじゃないですか。これからの実践は、全て一人でやれって事ですかね」
「そう……なんだろうな。最近はパイロット志願者も減ってきてるらしいし、犠牲は減らしたいんじゃないのかな………。それより大江。お前、来月から一人乗りだよな?頑張れよ」
「え?そうなんですか?」
「あれ、そうじゃないの?第二小隊から〔エアータイガー〕が下りてくるんじゃなかったっけ」
「〔スカイタイガー〕の事ですか?」
「あら、そんな変な名前だったっけ?」
「エアータイガーの方が変な名前だと思いますが……」
「あ〜……あ、そうこうしてるうちに滑走路見えてきた。続きは今度な」
そう言うと修二は着陸に神経を集中させた。
滑走路に一機のオオタカが着陸した。すぐに整備の車両が駆け寄る。
プシュー、と音がして、コックピットの風防が開いた。
「よ。二人ともお疲れさん」
中年のおじさんが話しかけてきた。彼はエンジニアの仲川智則[なかがわとものり]。なぜ第三小隊にいるのか分からないほどの凄腕の持ち主だ。
「おう、おっちゃん。今日の整備も最高だったよ」
修二はエンジニア・仲川のことをおっちゃんと呼ぶらしい。
「そうそう。小隊長から話があるそうだから、夕方六時に会議室集合だとよ」
仲川はそう言ってコックピットにはしごを掛けた。
「分かった。ありがとう」
修二はさっさと隊員詰め所に戻っていった。が、成実はオオタカを眺めていた。
「どうしたんだい、成実ちゃん?」仲川は何となく話しかけてみた。
「あ、いえ……もう今月でオオタカとお別れだと思うと、何だか寂しくて……」
成実はそう返す。
「そうか……。そういやそうだったな。今月でこいつが任務で飛ぶことはなくなるんだよな……。しかしまあ、訓練とかでは使われるんだから無駄になるわけじゃないしな」
「……まあ、それもそうですね。それじゃ!」
成実は仲川にそう言うと、修二のあとを追いかけ始めた。
「やれやれ、元気のいいお嬢ちゃんだこった」
仲川は微笑みながら成実の後ろ姿を見ていた。すると
「おやっさん、目がエロいっすよ」
おなじ作業員の進藤進[しんどうすすむ]が茶化してきた。
「うるせぇ!さっさと仕事しろ仕事!」
「ククク……。へーへー」
「へーじゃなくてはいだろ!」
「はいはい」
「はい、は一回!」
「はーい」
「のばすな!」
「ん〜……今日もやってるねぇ〜」
プレハブ小屋の窓から滑走路を見ている、リーダー中野京平[なかのきょうへい]。そこへ
「如月修二、ただいま生還いたしました!」
「大江成実、おなじく生還いたしました!」
十三号機の二人が詰め所に帰ってきた。
「おかえりー。……まあ、見回りだけで生還できなかったらおかしいんだけどね」
返事をしたのはサブリーダー、小林麻奈美[こばやしまなみ]。成実よりも六つほど年上である。 「あら、まだ鵜堂さんたちは帰ってないんですか?」
修二が部屋を見回し、そう言った。
「ああ、あの二人なら何か怪しい機影を捉えたから確認してくるって連絡して来たみたいだけど」
中野は滑走路を見ながらそう言った。
「あ、帰ってきた。………うわ、煙でてるよ」
リーダーの声に、皆が一斉に窓の外を見た。黒煙を吐きながら、一機のオオタカが滑走路に進入するところだった。
機体が停止すると、すぐさま消火隊がオオタカにかけより、機体の火を消す。どうやらエンジン付近から出火しているようだ。
「あ、どうやら二人は無事みたいだね」
小林がこちらに歩いてくるパイロット二人の影を見てそう言った。
「あの二人のことだ。どうせ加速しすぎてエンジンがいかれたんだろ」
リーダーがそっけなく言う。そう、あの二人、つまり、鵜堂耕介[うどうこうすけ]と秋原拓真[あきはらたくま]は、加速しすぎてエンジンを壊したことが今までにも何度かあるのだ。「ま、とにかく真相を聞いてみましょうよ」
修二はそう言ってコーヒーを二杯入れ始めた。
「生きて帰れて良かったー……」
ドアを開けるやすぐに秋原がそう言ってソファーにぼすんと座り込んだ。続いて帰ってきた鵜堂も同じようにソファーに座った。
「またエンジンぶっこわしたの?」
小林が不機嫌な顔で、帰ってきたばかりの二人に話しかけた。
「いやいや、今回は壊されたんだって」
サブリーダー相手にタメ語で話すのは秋原。と言うのも、二人は同期だからだ。
「壊された?」
小林は怪訝そうな顔でさらに聞いてきた。秋原は横目で鵜堂を見た。すると鵜堂は
「定期見回り中に、怪しい機影を見つけたんです。レーダーに映らなかったので、怪しいと思ってそれを追跡しました」
と話し始めた。
「レーダーに映らないのに、どうやって見つけたの?まさか肉眼で?」
サブリーダーは軽く笑いながら聞いた。
「はい。そうです」
鵜堂は当たり前だというように返した。
「話を続けますね。それで、追跡したんですが向こうの速いこと。で、こっちも全速力出したんですよ。そしたらだんだん間隔が狭まってきてですね、ここは日本国領空内だ、って信号だしたら、向こう突然宙返りしてこっちの後ろに付くと、いきなり撃ってきたんですよ。で、左エンジンに数発食らって、こりゃまずいと思って補助エンジンにも点火して逃げ帰ってきたんですよ。まあ、向こうが深追いしてこなかったのと、ミサイル使わなかったから今俺らは生きてるわけなんですがね」
長話はやっと終わった。
「まあ要するにちょっかいだしたらやり返されたって事か」
中野はそう言った。
「ずいぶん要約しましたね」
成実は苦笑いだ。
「おい、如月。おまえ、さっきの見回りで変な機影見なかったか?」
小林は修二の方を見てそう言った。修二は腕を組み、壁により掛かったまま下を向いている。
「おい、如月。…お〜い、如月くーん……。寝るな!如月!」
小林の最後の怒鳴り声で修二ははっと顔を上げた。
「いや、サブリーダーの着替えてるところなんて見たことないですよ」
起き抜けに修二がそう言った。真顔で。
「………何の話?」
小林は呆気にとられた。
「先輩、違いますよ。今日の見回りで不審な機影を見なかったかって」
成実がすかさずフォローする。
「不審な機影ねぇ……見てませんよ」
修二はそう答えた。
午後六時。第三小隊の六人は会議室に集まった。会議室にはすでに大高小隊長がいた。ちなみに大高小隊長は、昔のエースパイロットであり、その腕前は当時最新鋭の戦闘機に名前が付いたほどである。
「あ、小隊長。話って何ですか?」
中野は敬意の感じられないような口調でそう言った。普通は許されないのだが、ここ第三小隊では許されているのだ。中にはしっかり敬語を使う者もいたが、いつの間にかエセ敬語になってしまう。それが、第三小隊の魔力だ。
「話しは聞いてると思うが、第一小隊に新型戦闘機が配備されることになった。それで……」 「第一小隊が使ってた〔白雷〕が第二小隊に下りて、第二小隊の使ってた〔スカイタイガー〕がウチに下りてきて、〔オオタカ〕が退役と」
小林が話をバンバン進めた。
「まあ、そんな所なんだが……実は新型戦闘機が一機、ウチに回されることになった。まあ、試作機だから色々あるんだがな」
その話を聞いた隊員たちの目は爛々と輝いた。
「ま……まあ待て。皆、乗りたいのは分かる。が……そいつがちょっとくせ者でな、脱出装置が無いんだ」
大高がそう言うと、修二と小林以外の隊員の目は死んだ。
「さらに、左エンジンが傾いている」
「不良品じゃないですか!それじゃ、空飛ぶ棺桶ですよ!」
小林が叫んだ。しかし、修二の目はまだ爛々と輝いている。
「にしても、何でエンジン傾いてるんですか?」
冷静になった小林がそう聞く。
「ああ、それだ。実は最近、トライアングル・エンジンとか言う、断面が三角形の装甲の中に、メインエンジン二基と補助エンジン一基を搭載した妙なジェットエンジンが出来てな、それの試運転もかねて今回、トライアングル・エンジン一対を搭載した戦闘機が十機、先行して作られたわけだ。……で、第一号機を組み立てるとき、ほら、エンジンの見た目が正三角形だから、ノズル見ないとどっちが上か分からないだろ?組み立てる奴らはそれに気づかずに組み立てて、残すはコックピットのみ!となったところでやっとミスに気づいたんだが、今更直せない。どうせ博物館行きになると思った作業員たちは、脱出装置を全部外して、空いたスペースに試作の機材を詰め込んだわけだ。まあ、後の九機はきっちり設計図通りに作ったわけだが。それで昨日、その十機を第一小隊に持ってったら、そんな危険なもの受け取れるか!って言われて、一号機だけ受け取ってくれなかったんだ。じゃあ棄てるかってなってた所だった一号機を、すかさず俺がもらい受けてきたってわけだ」
「大高さん、まるで見てきたような口調でしたけど、まさか組み立てに立ち会ったんですか?」 中野がそう聞いた。
「ま、まあ」
大高の目が泳いだ。
「小隊長、実はエンジンの取り付け方向が違うって、知ってて黙ってましたね?」
「いや、あの……」
「そうすれば不良品とはいえ、新型戦闘機がウチに回せると考えたわけですか。まったくもう、あなたって人は」
中野はそう言って笑った。
「さすがはパイロットをまとめるリーダー、察しがいいな」
大高もそう言って笑った。
「まあ、明日には届くだろうから、それまでに乗る奴決めとけよ」
大高は第三小隊のパイロットの顔を見渡した。が、顔を上げているのは一名、修二のみだった。
「………と言っても、乗りたい奴は一人だけ、かな?」
大高はそう言って修二の方を見た。
「じゃ、頼むぞ、如月」
「了解です!」
修二がそう返事をすると、小林が
「正気なの!?脱出装置ついてないのよ?」
と言った。さらに成実も
「そうですよ!それに、エンジンだって傾いてるんですよ?」
と言ってきた。
「いいじゃないですか。別に墜落しなきゃいいんでしょ?それにエンジン傾いてたって、飛ばないとは限らないでしょ?」
しかし、修二はそう返した。
「ま、何かあったら自分が死ぬだけだし、構いませんよ」
大高に向けて、修二はそう言った。その目は、真剣、それ以外に表せる言葉は無かった。