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柴崎九郎

作者: 桜丘亮

 「お疲れ様でした。」

 午後5時。定時帰り。一昨日からぶっ通しでやっていた仕事が全て終わった。


「この企画書じゃぁ、御前会議に通らん。書き直せ。」

高圧的な白髪交じりのあの上司のせいでこんなにも苦しまなければならない。「書き直せ」「書き直せ」「使えないな」「書き直せ」ばっかりのあの上司。思い出すだけで反吐が出る。

いつもの商店に寄り、いつもの惣菜といつもの酒を買うと会計レジに並んだ。釣り銭をまっているときにこの職場に勤め続けた先の未来が見えてしまった。

「過労死か。」

どうやら声に出てしまっていたようだ。「お釣りです。」の声が1オクターブ高くなっていた。


 下町にある自宅についたのは7時近かった。築50年以上の古い木造アパートだ。朽ち欠けた郵便受けにとある封筒が入っていた。

「会津若松中学校同窓会のお知らせ」

北海道に移ってからもう40年以上。

酒を飲みながら、あの若く希望に満ちていた若い頃が思い出された。

鬼ごっこをして遊んだあの頃。

雪降る古城前の芝生で弓道に励んだあの頃。

初恋の相手に告白し、見事失敗したあの頃。彼女は今どうしているのだろう。

卒業式の後、仲の良かった男5人で写真を取って「将来は 観光会社で働くんだ!」と宣言したあの時。

初めて煙草を買った古城前の煙草屋・・・・。


 懐かしい、若き頃を思い出すと自然と目から熱い水が垂れてきた。水とともに出てきた熱い想いを抑えるため、浴びるように酒をあおった。


 次の日、会社をやめた。

 高圧的な白髪交じりの上司に怒鳴らる毎日をやめた。

 いつもの商店に行くのをやめた。

 朽ち欠けた郵便受けをあけるのをやめた。


「吾は自由なのだ。」

縛られずに生きていく。



新しい、私を乗せた船は静かに津軽海峡へと消えた。



 多くの社会人が今働いている。

 その職場環境は様々だ。

 そんな環境において生きる我々。

 何がいいのだろうか。

 今の生き方でいいのだろうか。


 そんな、自分の人生を振り返る一瞬にしてほしい。



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