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「俺はお前との婚約破棄を宣言する!」
社交会の公の場で宣言されたのは子爵令嬢。
シーンと静まり返ったその場で令嬢は震えながら凛とした態度で聞き直した。名をセリスという。
「理由をお聞きしてもよろしいですか?」
「ふん!お前のそのような傲慢な態度に反吐が出る!俺は真実の愛を見つけたのだ!もう誰にも邪魔させない!」
ふんぞり返ってセリスを指差しながら暴言を吐く男は側に聖女を置いており彼女の肩に手を回した。
聖女は、まぁ。と、驚いた表情を浮かべながらセリスを見下したように笑っていた。
「そうですか。正式に婚約破棄を書状で改めて確約致します。では、失礼致しますわ。」
あまりにもさっぱりとした返事に多少なりとも縋ってくるかと期待していた男と聖女はムッとしながら更に吠える。
「何だその態度は!昔から可愛げのないその態度が気に食わなかったんだ!」
セリスはその暴言を無視して颯爽と馬車まで歩いて行き、実にスッキリした顔で帰路に着く。体の震えは喜びからやってきた震えであった。
婚約破棄を言い渡された令嬢は今月で3人目。セリスは予見していた。自分も近い将来きっと婚約破棄を突き付けられることを。
そして、どこか期待していた。あの馬鹿な男と縁が切れることを。
セリスはうふふ、と上機嫌で執事に話した。
「元より好いてもおりませんでした。今日この日を何度夢に見たことか…!そうよ、ローゼ様にお手紙を出します。」
特別仲良くしていた訳でないが婚約破棄をした者同士分かり合える、と思ったセリスは直ぐに手紙を認めた。
季節の挨拶から始まりお茶のお誘いと婚約破棄の件。
そして新たな婚約を喜び申し上げると書き連ねた。
ローゼ嬢程ではないが花のあるセリス、きっとすぐに婚約者を見つけられるだろうと家の者も考えていた。度重なる聖女関連での婚約破棄。最早婚約破棄なんて珍しいものじゃなくなりつつあった。セリスもこの件に乗じていつか婚約破棄をするのだろう、と今か今かと待ち望んでいた。
確かに令嬢として瑕疵がつく可能性はあるが事実上相手の不義によるもの。国内で相手が見つからないのであればローゼ嬢のように豊かで獣族とヒト族が暮らす隣国で探したって良いのだ。
湧き上がる期待と不安。セリスの場合、期待が上回っていた。やっと、あの〝傲慢〟な婚約者と離れられるのだ。嬉しくて堪らない。
自室に篭り、ローゼ嬢に書く手紙は段々と枚数が増えていった。