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第85話 聖女は見えない電光がよく見える

『待て! ミツキ!』


「追いましょう! リュウ様!」




 翼を大きくはためかせた(あと)、リュウ様は魔法を次々と展開していきます。


 風操作。

 空気抵抗低減。

 重力操作。

 慣性力低減――


 ドラゴンの巨体を高速飛行させるのに、必要な魔法です。


 良かった。

 リュウ様は、ちゃんと魔法を発動できている。


 【(いかづち)の首輪】で魔力が抑え込まれていたことによる悪影響を、心配していたのです。




「はにゃ~あ。オイラは、ちょっとダメだ。少し、休ませて~」


 無理が(たた)ったのか、フクはビローンと胴長猫フォルムに変形していました。


 【パラライズフィールド】を受けて痺れていたことと、痺れが収まりきらないうちに飛行したり回復魔法を行使したことで限界を迎えてしまったようです。


 武舞台脇の芝生にうつ伏せとなり、グッタリしています。




「フク! (あと)でわたくしの魔力を分けますから、それまで辛抱してください!」


「大丈夫~。待つぐらい、へっちゃらさ~。それよりもご主人様、リュウ、気を付けて。特にリュウは、病み上がりなんだから」




 リュウ様は無言で(うなず)くと、アリーナの天井を見上げました。


 ミツキ・レッセントが通過した際に生じた大穴が、ぽっかりと口を開けています。




『行くぜ!』




 わたくしに(ひと)(こえ)かけてから、リュウ様は急上昇しました。


 機械竜の開けた大穴を通過し、都市上空へと舞い上がります。




 時刻はすでに、夜となっていました。


 しかし雷竜領中心都市シーナ=ユーズは、眠らない街。


 無数に(またた)く電灯と魔法灯が、天の川のように地上を(いろど)っています。


 それはまるで、この都市に生きる人々の生命の輝き。


 自暴自棄になっているミツキ・レッセントは、この都市を消滅させると言っていました。


 手段は恐らく、山岳地帯を吹き飛ばした極大雷魔法【セレスティアルエンヴィー】。


 ――そんな真似、絶対にさせてたまるものですか。




 (そら)を見上げると、機械竜ミツキ・レッセントの姿がありました。


 少し欠け始めた月をバックに、悠々と飛んでいます。


 【ティアマットアリーナ】の中にいた時より、明らかに体が大きい。


 これが、彼女の全力戦闘形態なのでしょう。


 よく見ればリュウ様も、体が最大まで大きくなっています。




『あら? リュウさん、その()を連れてきたの? 空中戦では、足手まとい以外の何物でもないと思うけど?』


 冷たく言い放たれた念話に、わたくしはドキリとしました。


 思わずついてきてしまいましたが、確かにミツキ・レッセントの言う通りでは?




『いいんだよ! ヴェリーナさんを背中に乗せていると、俺の戦闘力は数百倍になるんだよ!』




 リュウ様は気遣い、そのような発言をしてくださいました。


 しかしこれは、わたくしの失策以外の何物でも――




(ヴェリーナさん、聞こえるか? 念話に指向性を持たせた。この声は、ヴェリーナさんにだけ聞こえている。聞こえていたら、喋らずに、(うなず)いてくれ)


 わたくしはコクリと、首を縦に振りました。




(ヴェリーナさんが背中にいると、戦闘力数百倍ってのはフカシだ。けれど、ついてきてくれたのはありがてえ。(じつ)はよ、俺の竜魔核は結構ヤベエ状態なんだ)


 わたくしの(ほお)を、冷たい汗が伝いました。


 そうですわ。

 リュウ様は竜魔核の力を、ギリギリまで弱らされていたのです。


 その状態で【(いかづち)の首輪】を断ち切り竜化するなど、かなり無茶をしています。


 今こうやって飛行できているのは、奇跡と言ってもよいでしょう。




(つがい)がひっついていれば、竜魔核は癒える。だからこの戦いの間も、俺の(そば)にいてくれ)


 今度は、力強く頷きました。


 思えば山岳地帯での戦いで、リュウ様の「俺から離れるんじゃねえ」という指示をわたくしは聞き流してしまったのです。


 今度は離れません。

 絶対に!


 空中戦での攻撃手段が無いのなら、リュウ様の回復装置になりきればよいのです。


 くっついていれば、竜魔核のダメージが癒えるというのなら――




 わたくしはうつ伏せになり、全身をべったりとリュウ様の背に貼り付けてしまいました。


 その光景を見たミツキ・レッセントから、ビリビリとした殺気を向けられます。


 ですが、気にしません。




『戦場で、イチャついているんじゃないわよ!』




 ミツキ・レッセントは(あぎと)を開き、雷の息吹(ブレス)を放ってきました。


 圧倒的魔力量を誇る彼女にしては、控え目な威力。


 おそらく、小手調べのつもりだったのでしょう。


 リュウ様の熱線息吹(ブレス)なら、軽く吹き散らせる程度。


 


 しかし――




「ダメですわ! リュウ様! 避けて!」




 迎撃しようと自分も息吹(ブレス)の体勢に入っていたリュウ様より、背中でじっとしていたわたくしの方が早く気づけました。


 リュウ様は瞬時に息吹(ブレス)発射を取りやめ、身を(ひね)って回避機動を取ります。


 そしてご自身も気づき、(がく)(ぜん)としていました。




息吹(ブレス)が……撃てねえ!?)




 リュウ様は相手に気付かれぬよう、わたくしにだけ聞こえる念話で話しかけてきました。


 いつもは息吹(ブレス)の時、口内に莫大な魔力が集中します。


 今回はそれが、全く感じ取れませんでした。




 試しにもういちど、魔力を集中させようとしたのですが――


 やはり、上手くいかないようです。




(ちょっと、色々試してみるぜ)




 リュウ様は身をひるがえし、ミツキ・レッセントの周囲を旋回します。


 高速飛行に必要な魔法は、問題無く発動していました。


 リュウ様は(てい)(ねい)に念話で呪文詠唱しつつ、爆炎魔法【エクスプロード】の術式を組み立てていきます。


 魔法の高速発動や呪文無詠唱を得意とするリュウ様らしからぬ、ゆっくりとした速度です。




『【エクスプロード!】』




 「力ある言葉(魔法名)」まで完璧に唱えられたのに、爆炎は(いっ)(さい)巻き起こりませんでした。



 炎の嵐を巻き起こす魔法、【ヴァーミリオンストーム】――発動せず。


 熱線魔法【ヴァーミリオンレイ】――発動せず。


 炎の矢を放つ魔法【フレイムアロウズ】――発動せず。




 ならば目先を変えてと、氷の魔法【プラチナムワールド】――発動せず。




(こいつはマズい。攻撃魔法が、全然発動しねえ)




 なんということでしょう。


 いざ戦闘が始まってから、竜魔核にダメージを負った影響が明らかになるなんて――


 これは絶対に、ミツキ・レッセントには気付かれないようにしなければ。


 リュウ様も同じ考えらしく、戦闘機動を取りながら攻撃のチャンスを(うかが)っているように見せかけます。




 ですが――




『言ったはずよ、リュウさん。「鬼ごっこをしましょう」と。鬼が、追うのを諦めた時は……』




 天空に暗雲が立ち込め、雷光が走り始めました。


 山岳地帯を吹き飛ばした時と、同じですわ。


 極大雷魔法、【セレスティアルエンヴィー】の兆候。




「ダメです! リュウ様! あの雷魔法を完成させてしまっては、シーナ=ユーズの都市が丸ごと消滅してしまいます!」


『チッ! こっちから、手を出すしかねえのか』




 幸い飛行に関しては、全く支障が出ていません。


 リュウ様は巧みなフェイントを織り交ぜつつ機械竜との間合いを縮め、爪を振るいました。


 (かろ)うじて爪をかわした、ミツキ・レッセント。


 ですがその横っ面をはたくように、赤竜の尻尾が(いっ)(せん)します。


 強烈な(いち)(げき)でしたが、機械の(かぶと)に阻まれて大したダメージにはなっていないようです。


 しかしミツキ・レッセントは、かなりのショックを受けたようでした。


 それはリュウ様の飛行技術・戦闘技術に対しての驚きなのか――


 それともリュウ様に()たれたということに対する、精神的な衝撃なのか――




『殴ったわね! お父様にも、()たれたことないのに!』




 わたくしでしたら、リュウ様の尻尾ビンタなどご褒美以外の何物でもありません。


 しかしミツキ・レッセントは、お気に召さなかった模様です。




(やれやれ。娘の性癖は、父親似か……)




 ――?


 今の声は、いったい?


 念話魔法のようですが、リュウ様ではありません。


 女性の声でしたが、ミツキ・レッセントの声でもありませんでした。


 


『いいでしょう、リュウさん! 格闘戦がお望みなら、受けて立つわ! 切り刻んであげる!』


 格闘戦を受けて立つと言いながら、ミツキ・レッセントは大きく間合いを外します。


 やがて豆粒のように小さくなってから、夜空に静止しました。




 リュウ様も(いぶか)しんで、戦闘機動を止めてしまいます。




「リュウ様! 全力回避!」


『【インビジブルライデン】!』




 リュウ様の背で、わたくしは感覚を研ぎ澄ませていました。


 身体強化魔法で静止視力と動体視力を、極限まで強化。


 さらには魔力感知も感度を高め、機械竜の体内を流れる魔力にも注意を払っていました。




 ――だからこそいち早く、回避の指示を出すことができた。


 リュウ様も素早く反応できるよう、心の準備をしていたのでしょう。


 素早く横転(ロール)し、急降下します。




 (いっ)(しゅん)前までわたくし達がいた空間を、電光が通り抜けました。


 ワンテンポ遅れて聞こえる轟音。


 そして、シーナ=ユーズの都市全体を揺るがす衝撃波(ソニックブーム)


 身体強化魔法で視力を強化しているわたくしには、ビルの窓ガラスが粉々に砕け散るのが見えました。


 機械竜の巨体が、音速の何十倍もの速度で(そら)を駆けた(あかし)ですわ。




『チッ! さすがはリュウさん。初見で【インビジブルライデン】を避けるなんて、いい勘してるわね』


『俺にはな、幸運をもたらす聖女様がついているんだよ』


 リュウ様。

 わたくしもう、聖女ではありませんことよ。


 それに避けられたのは、リュウ様の飛行技術があればこそ。


 わたくしは、タイミングを指示したに過ぎません。




 【インビジブルライデン】――聞いたことのない魔法ですわ。


 おそらくは竜化したミツキ・レッセントだけが使える、オリジナル魔法なのでしょう。


 雷の力を使い、自らを超加速して撃ち出す。

 その勢いのまま、強力な電撃を(まと)った爪で標的を切り裂く。


 わたくしの目には、そのような魔法に映りました。


 リュウ様に説明すると、(こん)(じき)の瞳を見開いて驚かれます。




(マジか? ヴェリーナさん? あんな超高速の魔法を、初見でどんなもんか見切ったってのか?)


「いえ、見切ったというほどでは……。対抗策も、まだ思いつきませんし……また来ます!」




 再び、夜空に電光が走ります。


 リュウ様は急上昇して、【インビジブルライデン】第2波を鮮やかに回避してみせました。




 それにしても、不思議です。


 なぜわたくしには、【インビジブルライデン】がこうもよく見えるのでしょうか?


 単に、身体強化魔法で動体視力を強化しているから――というわけではないようです。


 相手が編み上げていく魔法の術式が、手に取るように分かる。


 これは、いったい――






 そこでわたくしは、ある可能性に思い当たりました。






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神剣リースディアと同じ名前の帝国、世界樹が出て来たり、ミラディース様の妹神がラスボスの上司だったりするロボットもの
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― 新着の感想 ―
[良い点] > 『殴ったわね! お父様にも打たれたことないのに!』 めっちゃ笑いました! 全力で戦おうとしてるのに、このセリフ(笑) ミツキかわいいですねー!
[一言] >殴ったわね! お父様にも打たれたことないのに! このタイミングでこれは笑うんよwwww
[一言] ???「それが甘ったれなんだ。殴られもせずに一人前になった奴がどこにいるものか!」
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