表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

79/123

第79話 聖女は服屋の女にドヤられる

■□ソフィア・クラウ=ソラス■□




『きゃあ~!! ランスロット様ぁ! 素敵ぃ! さすがアタクシ、ソフィア・クラウ=ソラスの婚約者!!』


 アタクシは拡声の魔法を使い、大音量でランスロット様に歓声を送りました。


 彼への応援というのはもちろんですが、周囲の女共へのアピールという意味もありますぅ。


 なんといってもランスロット様は、ミラディア神聖国の英雄である剣聖!

 見目も大変(うるわ)しい!


 この「奉竜大武闘会」でも強さと華麗さを()(かん)なく見せつけ、注目の(まと)ですわぁ。


 変な女共が群がる前に、アタクシのものだということを周知しておかなければ。




「お客様。申し訳ありませんが、拡声の魔法はご遠慮ください。周囲のお客様の御迷惑になりますので」


 大会係員が何やらゴチャゴチャ言ってきましたが、聞こえないフリをしてやりましたわぁ。


 ちょっとぐらい、融通を利かせなさいなぁ。


 だいたいミラディース教会の聖女であるアタクシが、(いっ)(ぱん)(きゃく)と同じ席だというのがおかしいのですわぁ。


 ミツキ・レッセントのような、()(ひん)(せき)を用意しなさいなぁ。


 あ。

 でも(いかづち)の魔王竜ミツキ・レッセントと近くの席は、嫌ですわねぇ。


 魔王竜には、怖い印象しかありません。


 地竜公ブライアン・オーディータを思い出して、鳥肌が立ってしまいますわぁ。




 席に対する不満を感じている間にも、決勝戦は進んでゆきますぅ。


 なんですのぉ?

 あの「にゃんこマスク」とかいう、珍妙な格好の格闘家は?


 やたら凹凸の激しいスタイルが、無能聖女ヴェリーナ・ノートゥングを思い出させてイラつきますぅ。




『ランスロット様ぁ! そんな珍妙な格好をした女、さっさとやっつけて下さいなぁ!』




 また、拡声の魔法を使ってやりました。


 係員もようやく諦めたようで、渋い顔でアタクシを(にら)んでくるだけですわぁ。




 ですが代わりに、文句を言ってきた女がいました。


 2列前の席に座っていた女ですぅ。


「ちょっと! 聞き捨てならないわね! 珍妙な格好ですって? にゃんこマスクさんの衣装は、私の店で作ったのよ!」


 平民っぽいくせに、やたらと洒落っ気のある服装をした若い女でした。


 服飾関係の人間でしょうか?


 その女の発言に、周囲の観客達がどよめき始めました。




「お姉さん、それってマジか? にゃんこマスクさんの衣装の話」


 周囲にいた観客達が、興味津々といった様子で口を挟んできますぅ。




「大マジよ! あの猫尻尾と猫耳のギミック、私が徹夜で仕込んだんだから!」


「仕事を受けたってことは、にゃんこマスクさんの素顔を知ってるんだよな? どんな人なんだ?」


「覆面レスラーの素顔を、明かせるわけないでしょう? ……でも、これぐらいは教えてもいいかな? 『女神様か?』っていうぐらい、とびっきりの美人よ!」




 観客席は、感嘆の声に埋め尽くされました。




 きぃ~っ!

 なんですの?


 男も女もみんな、「にゃんこマスク」、「にゃんこマスク」と。


 もっと、ランスロット様を見なさい!


 男は彼に憧れなさい!


 女は彼の婚約者であるアタクシを、(うらや)みなさい!




「ふん! ツルペタストーン聖女さん、しっかり婚約者さんを応援しといた方がいいんじゃないの? 私の見たところ、そろそろにゃんこマスクさんが本気を出すみたいよ」


 つ――ツルペタストーン!?


 詳しい意味は分かりませんが、アタクシの体型を見てバカにしましたわねぇ?


 聖都ミラディアでは理想のスタイルと言われている、無駄な肉がないスマートボディの良さが分からないなんて――


 これだから、魔国の連中は嫌なのですわぁ。




 ――ハッ!


 服屋の女ごときに、腹を立てている場合ではございません。


 にゃんこマスクが、本気を出すですってぇ?


 ちょっと身体強化魔法が上手いぐらいで、神剣を抜いた剣聖に勝てるわけが――




 アタクシは武舞台に視線を戻して、腰が抜けそうになりました。


 なんですのぉ!?

 にゃんこマスクの化け物じみた魔力は。


 あれではまるで、人の形をした魔王竜――


 いけませんわぁ! アタクシ!


 どんなに恐ろしくても、今回は失禁ナシですのよぉ!




 アタクシが(ぼう)(こう)に力を入れた時、にゃんこマスクの姿がかき消えました。




 会場中の観客が息を呑んだ次の瞬間、凄まじい破裂音が響き渡りますぅ。


 にゃんこマスクが、ランスロット様の眼前に瞬間移動していたのですわぁ。


 しかも、下段蹴りを放った姿勢でした。




 ランスロット様はすぐ剣を横薙ぎに振るいますが、にゃんこマスクはまた姿を消してしまいました。


 次の瞬間には、武舞台の端まで移動していますぅ。


 いったいどうなっていますのぉ!?


 伝説の空間転移魔法ですのぉ!?




「いよっしゃぁ! ナイスロー! ナイスロー! (なた)でぶった斬るような(いち)(げき)! これはもう、決まったわね」




 服屋の女が勝手に断定するのが、やたら(かん)(さわ)りました。




「ふ……フン。足など、急所ではありませんわぁ。何度蹴られたって、致命傷には……」


「何度も蹴るですって? 1発であんたの婚約者さん、足が動かなくなったみたいだけど?」


「……え? 嘘ぉですのぉ!」




 服屋の女が指摘した通りなのか、ランスロット様はその場から移動しておりません。


 そんな馬鹿なぁ。


 教会聖騎士だって、身体強化魔法は使っていますのよぉ?


 剣聖ともなると、相当な使い手ですのよぉ?


 それなのに、足を蹴られたぐらいで動けなくなるなんて――


 にゃんこマスクは、いったいどれだけ身体強化していますのぉ!?




 ()(ぜん)としている間に、もう1発下段蹴りが命中しました。


 今度は、逆の足ですわぁ。


 ランスロット様の膝が、折れかけますぅ。




『ランスロット様ぁ! 勝ってぇ! アタクシのためにぃ!』




 拡声魔法最大音量で、アタクシは叫びました。


 愛する婚約者からの声援です。


 これでやる気を出さない男など、いないはず。


 ランスロット様は歯を食いしばり、崩れ落ちそうになる体を奮い立たせました。




 ですがその背後に、にゃんこマスクが回り込んだのですぅ。




 おのれぇ!


 背後から攻撃するなど、卑怯な!




 にゃんこマスクは両腕で、ランスロット様の腰にガッチリ組み付いてしまいますぅ。


 ちょっとぉ!

 ()()の婚約者に、気安く抱きつかないで下さるぅ!?




「あれをやるの? やっちゃうの? 石畳の武舞台でも、剣聖なら死なないでしょう。やっちゃえ! にゃんこマスクさん!」


 服屋の女は期待に満ちた目で、にゃんこマスクを見つめています。


 いけませんわぁ!

 大技の予感がしますぅ!


 ランスロット様、逃げてぇ!




 アタクシの祈りも(むな)しく、ランスロット様は豪快に背後へとブン投げられました。


 にゃんこマスクはそのままブリッジして、ランスロット様を後頭部から地面に叩きつけますぅ。




 破砕音と共に、武舞台がひび割れました。


 叩きつけた箇所は、石畳が陥没してしまっていますぅ。




 ランスロット様はお尻を天に突き上げた状態で、ピクピクと(けい)(れん)しておられました。


 ああ――


 我が婚約者ながら、カッコ悪ぅ~。




 試合終了を告げるゴングが、鳴り響きますぅ。




「いよっしゃぁあああっ! ジャーマン・スープレックスで決めるとは、さすがにゃんこマスクさん! 分かってるぅ!」


 周囲の観客は大盛り上がりですが、特に服屋の女が嬉しそうなのがムカつきますぅ。


 


 別に、あなたが勝ったわけではありませんことよぉ。


 なのになんで、そんなにドヤ顔ですのぉ。




 皮肉でも言ってやろうかと、口を開きかけた時ですわぁ。




「危険です! 観客の皆様! お逃げ下さい!」




 係員の緊迫した叫び声が聞こえました。


 アタクシが反射的に上空を見上げると、何かが回転しながら落ちてきますぅ。




 あれは――【神剣リースディア】!?


 ランスロット様が武舞台に叩きつけられた時、手からすっぽ抜けましたのぉ!?




「ひいっ!」




 アタクシは反射的に、へたりこんでしまいました。


 (ふと)(もも)の間に、落下してきた神剣がサックリと突き刺さりますぅ。


 観客席の床は、コンクリートと呼ばれる石に似た固い物質で作られておりました。


 それを易々貫くなんて、さすがは【神剣リースディア】。




 ――って、感心している場合ではありませんわぁ!


 聖女服のロングスカートが、神剣によってコンクリートの床に縫い付けられてしまいました。


 係員が刺さった剣を抜こうとしますが、相当深く刺さっていてなかなか抜けません。




「ツルペタストーン聖女さん。あなたの彼氏、(けい)(れん)してるだけじゃなくて口から泡まで噴いているんだけど? 回復魔法の達人なんでしょう? 早く、助けに行ってあげた方がよくない? せ・い・じょ・さ・ま」


 服屋の女が、ニマニマした顔で言ってきます。


 くっ、この女ぁ!


 この状況で動いたら、スカートが裂けてしまいますぅ。


 それを分かってて、言っておりますわねぇ。




 結局刺さった神剣は、係員と周囲の男性客の4人がかりでようやく抜けました。


 しかしアタクシのスカートには、穴が開いたまま。




「仕方ないわね。貸しにしといてあげるわ」


 服屋の女はそう言って、自分の羽織っていたショールをアタクシの腰に巻きつけてくれました。


 これで、スカートの穴が隠れますぅ。


 くっ!


 こんな奴に情けをかけられるなど、屈辱ですわぁ。




「そのショール、あげるわ。代金のかわりに、今度私の店で買い物してよ」


「ふ……ふん。アタクシ忙しいですから、買い物に行くのは無理ですわぁ。踏み倒させてもらいますのよぉ」


「そっか……。じゃあ別の形で、貸しは返してもらおうかな? 私はにゃんこマスクさんの大ファンだから、彼女が困った時に手助けをするっていうのでどう?」


「もっと機会がありませんわ。正体の分からない女の手助けなど……」


「覚えてたら、機会があったらでいいわ。じゃあね、ツルペタストーン聖女さん」


 ヒラヒラと手を振って観客席を立ち去る服屋の女に、アタクシはなんとも言えない敗北感を覚えました。






「……あ! ランスロット様ぁ!」




 アタクシが武舞台へと視線を戻した時、ランスロット様はすでに医務室へ搬送された(あと)でしたわぁ。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本作に頂いた、イラストやファンアートの置き場
【聖ドラ】イラスト大聖堂

本作には、1000文字の短編版もございます
【聖女はドラゴンスレイヤー】身体強化しか使えない偽物聖女、ブラック企業の傭兵魔道士と共に、素手で巨竜をボコり伝説へ。「俺はパンツなんて見ていない」と言われても今さらもう遅いですわ。必殺技でミンチですの

本作のスピンオフ。19話回想シーンで処刑されたリスコル公爵には、娘がいた。彼女が巻き起こす、ドタバタメイド奮闘記。ノートゥング家の面々も出ます
【処刑されたはずの公爵令嬢、ドジっ子メイドへの華麗なる転身】頼もしいイケメンマッチョ騎士団長に溺愛されるのはいいのですが、そそっかしいので毎日失敗してはお仕置きされます。「さあ、私の膝の上に来なさい」

ミラディース様の妹神や、樹神レナード、世界樹ユグドラシルなど、本作と若干のリンクがある異世界転生自動車レースもの
ユグドラシルが呼んでいる~転生レーサーのリスタート~

神剣リースディアと同じ名前の帝国、世界樹が出て来たり、ミラディース様の妹神がラスボスの上司だったりするロボットもの
解放のゴーレム使い~ロボはゴーレムに入りますか?~

― 新着の感想 ―
[一言] >どんなに恐ろしくても今回は、失禁ナシですのよぉ! 期待してるのに! >太股の間に、落下してきたリースディアがさっくりと これで漏らさないとは成長したな……!
[良い点] よし!にゃんこマスクええぞー!(≧▽≦) [一言] ソフィアが読めば読むほど嫌いじゃなくなっていく(笑) おバカな子ほど、可愛いというべきか。 むしろ、好きになってきています♪
[一言] >係員もようやく諦めたようで、渋い顔でアタクシを睨んでくるだけですわぁ。 係員、サイレントな魔術覚えたら?( ̄▽ ̄;) ジャーマン……本気の本気出してたら、温泉か石油が出たりして(ォィ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ