幼馴染が誰より大事という公爵家の嫡男に嫁ぎました。そんなに大切なら、そっちと結婚しなさいよ! 女主人は私じゃないって…嫁いでから知ったからもう遅い? そんなことはありませんわ。絶対に離縁してやります!
「確か、アーリエッラか?」
「違います。アリエルですわ。旦那様」
初めて出会う相手ではありません、数度顔合わせをした婚約者ですわ。
結婚式が終わり、初夜の時に名前を間違えるってあり得ます?
「……アリエルか、まあどうでもいい、もう寝るぞ」
「はい?」
「朝早いんだ、君ももう寝ろ」
そして旦那様は本当に寝てしまいましたわ。
最悪の初夜、一睡もできませんでしたわよ! すっきりとした顔で起きられた旦那様。
好きにしろと一言つぶやいて出ていかれました。
公爵令嬢アリエル・ルーリエ、17歳。
婚約者となった公爵のルードヴィッヒ・シュタイン様と結婚し、今3日目ですわ。
私のところにあれ以来顔を出さない旦那様。
私はどうしてこんなことになったのかつらつら考えていました。
2年前にあちらから話がもちかけられ、父も7女である私の嫁ぎ先が決まらないと困っていたのでその話に乗ったのです。
うちはお金はありますが、格式がない。公爵といっても3代前、商人だった曾祖父が財を成して、公爵の娘と結婚し、その地位を手に入れたのです。
なので……成金扱いで、女ばかりの我が家では下になるほど嫁ぎ先が決まらないということになり、持参金だけは出せるのですわよね……。
容姿が普通の私は、どうしても嫁ぎ先は格下ばかり、子爵に男爵、さすがにそれは私が気の毒だと父が持ってきたこの話、私も喜びました。
格式もつりあう、年も旦那様は20歳でつりあいます。
お顔もとてもよく、評判もとてもいい、喜んで……ええ飛びついた私がばかでした。
何度かの顔合わせで結婚して、嫁いでみたらこれでした。
使用人すら私を無視、成金成金と言っているのが聞こえてきます。
女主人としての仕事をしたいといってもそれはいいですからと止められ、私は部屋で一人ぼっち。
使用人を連れてこないのが慣例とはいえ……。
「……旦那様、私はこちらに嫁いできたのですから」
「君はここにいてくれるだけでいい」
いつもいつもこれでした。私はどうしたらいいのか困り切っていましたわ。
調べてみると、かなりお金に困っているようでした……。持参金目当て、いえ決めつけるのはよくないですわ。
そして女主人よろしく振舞っている、旦那様の幼馴染という女性をみたのです。
サーシアという名前でふわふわの金の髪に青い目の美少女でした。
年齢は私と同い年。
でも幼馴染といっても妻ではない人が女主人みたいにどうしてふるまう? これはおかしいと旦那様にいえば、お母様が亡くなってから家を善意で取り仕切ってくれていると。
いえ、でもこれから私がといった瞬間、君は何もしなくていいといわれてしまいましたわ。
私、一応公爵の家の娘ですわ。女主人としての教育は受けているのに……。
「……何もしなくていい」
ずっとずっとこれでした。手伝おうといっても使用人は無視。家令も大丈夫ですと帳簿も見せてくれません。
お飾り妻でした。
「……お金だけあればいいなんて……」
私は泣きました。泣いて泣いて泣いて、旦那様に愛されよう頑張ろうと思っていた自分が情けなくなりました。
旦那様がサーシアという女性に笑いかけるその顔は私に見せたことがないもので。
私はその時、復讐を神に誓ったのです。
私は家令に黙って帳簿を見ました。
かなり財政難だということは私にもわかりました。
だから持参金が必要だったのか……。
私の持参金がないと持ち直せかったのか。
私はそれを見て、完全に決意をしました。もうここにはいられない。離縁をしてやろうと。
妻からの離縁なんてほぼこの国ではありません。
夫の不貞すら理由にはできない。
妻が死ねば、ええ、棺桶に入れられて連れられて行くときでやっとお別れできます。
「……考えましたわね」
離縁ができないということは、ずっとこのままですわ。
死ねといわれても死ぬわけにも。
「……わかりましたわよ」
私はこう見えても大商人といわれた曾祖父の血を引く女、ならこうしてやりましょう!
「はあ? 貸した金を返せと?」
「はいこの金額です」
あれから半年たちました。相変わらずお飾りでしたが、自由に動けるのだけは利点でした。
私はにっこりと借用書を旦那様に見せて、一括で返してくださいなと笑いかけました。
「いやこの金額は」
「ああ、あなたにお金を貸し付けていた人たちからすべて証文を買い取りまして、この金額です。一括でお返しくださいな」
実家に依頼し、商人ギルドに問い合わせ、貸付を行っている商人たちをリストアップし、嫁ぎ先へお金を貸している商人たちを見つけ出しましたの。
あとは話し合い、というか……うちは元商人、商人は商人同士の話し合い。
私は自分の現状を話しました。実はうちのおじも中にいまして、かわいい姪っ子がひどい目にあっているとお願いすると皆にお願いをしてくれて、信用を大切にする皆がその話を聞いて憤りという。
商人たちの結束は半端ではないとは思っていましたが……。
私をかわいがってくれているおじさまがいたのも幸運でしたが。
「一括でお願いします」
「しかし分割でと契約を」
「契約書に、一括で返してもらうという条項があったはずです。信用がなくなったときにね」
かわいい姪っ子が嫁ぎ先で冷遇されているとギルド長であるおじが熱弁をふるい、ギルド長に逆らうわけにもいかずというのもありましたが、私をかわいがってくれているおじさまたちも多かったので、皆が力を貸してくれたのですわ。
私、商人ギルドに小さいころからよく遊びに行きましたし。
「無理だ」
「それがだめなら、離縁をしてください」
「え?」
「ならこの貸付を分割に戻してもいいですわ」
青ざめる旦那様、にっこりと笑って証文を突き付ける私、そして最終は旦那様が折れて……。
見事離縁を勝ち取りました。ああ、持参金も返金をお願いしましたわ!
そして分割でとは言いましたけど、口約束ですわよ。
口約束は商人の間では無効、一括で絶対に返してもらいますわ……。
「アリエル、わがかわいい姪よ! あれとようやく離縁できたそうだな!」
「叔父様のおかげですわ」
「いいや、わがかわいい姪っ子たちはわが家の宝! それをないがしろにするとは許せん! うちは男ばかりだからかわいくて、かわいくて、とりわけお前は私の宝だ!」
頭をぐしゃぐしゃとされました。おじの家は男が10人、実はおじは父の弟ですが、商売で成功しまして、今は爵位を持ちながら、ギルド長を兼任しています。
「そういえばアリエル、お前のことをクリスが心配していたぞ、今回のことはあいつも走り回ってな」
「先ほど遊びに来てましたわ」
「そうか。どうだお前の目から見てあいつは?」
「うーん、まあ」
「ならよければ……」
「あの人の口から直接聞くまではそれはなしですわね」
「そうか」
おじ様がプッシュしますが、従弟のクリスは3歳下ですのよねえ。
小さいころからお姉ちゃんと後ろからついてきた相手と婚約とか、結婚とか言われても……。
しかも周りがみんな知っていて、私は直接好きとかも聞いていないという。
「あれの態度からお前に好意を持っているのはまるわかりだが」
「口にしてもらえないとわかりませんわよ」
「だな」
あははと笑うおじ様、私は元旦那様に取り立てにいかないととにやっと笑います。
人を雇って取り立ててますが、かなり困窮していますわ。ええ、絶対に許しませんわ。
すべて返してもらいますわよ。一括でね。
お読みいただきありがとうございました。
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