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6話

 保健室を出て迷わず駆け出した私だが、ここは学校だということを思い出して走るのをやめた。廊下は走っちゃいけませんってお母さんによく言われたでしょう? 私はお母さんの言うことはちゃんと守ります。


 そういうわけで目指す場所は1年Dクラスの教室である。おほほほほ、誰に教えてもらわなくてもわたくしには分かるのですわよ、香音ちゃんの居場所は。


 この学園では成績と家柄等を考慮してA~Dまでクラス分けされており、主人公の桜香音は必ず最初はDクラスでスタートする。成績が上がればクラスも移動することもあるが、クラス分けは年1回のイベントで、一年生の間はずっとDクラスだ。ちなみにAクラスはエリートのAと呼ばれており、DクラスはドベのDと呼ばれている。なかなか無慈悲なクラス分けである。

 ちなみに悪役令嬢である朱鷺宮銀華は家柄、成績ともに優秀なため最初からAクラス確定であり、忌々しいことに銀華の婚約者の男も当然のごとくAクラスである。もし香音ちゃんの成績がすっごく良ければ来年からAクラスになり、婚約者の男との仲が急速に縮まるイベントが発生するので、出来れば香音ちゃんには勉強を頑張らないでほしいところである。あ、でもそうするとAクラスの私とも同じクラスになれないのか。うう、それは嫌だな。


 そんなわけで1年D組の教室に着いた私。ここに香音ちゃんがいるはず。私はどきどきしながら扉に手をかけ、数瞬置く。落ち着きなさい。しっかり息を整えて深呼吸するのよ私。そう、わたくしは悪役令嬢朱鷺宮銀華。その模範となる行動を示さねば!


 ガラッ!

 意を決して教室の開けた!


「失礼致しますわ!……あれ?」


 勢いよく扉を開けたが、教室の中には誰もいなかった。……いや、よく見たら一人だけいた。小学生のような背の小さいおかっぱの少女が一人、さっきまで読んでいただろう分厚い本から顔を上げて声をかけてきた。


「おや、銀華さんじゃないですか。おそようございます。もう皆さん帰りましたよ?」

ゆう!?」


 その小さな少女の名は阿生あそう ゆう。悪役令嬢である私に気軽に接してくる数少ない友人だ。ちなみに彼女は乙女ゲームのキャラクターではない。私にとって数少ない友人というか今世における私の唯一の友人かもしれない。そう、この朱鷺宮銀華には友達がいないのだ!……自分で言ってて悲しくなってきた。

  そういえば乙女ゲームの朱鷺宮銀華には取り巻きらしき令嬢(顔なしモブ)が何人かいたはずなのに、この世界ではどうなってるんだろう……? あの取り巻きの代わりにこのちまっこい少女が友人枠になってしまったのだろうか? もしくはあの子がゲームの顔なしモブなのだろうか?


「というか皆帰ったってどういうことですの!?」

「今日は入学式の後はクラス分けと自己紹介したらもう学校終わりですし、そんなのもう一時間前に終わりましたよ」

「まじですの!?」

「まじです。本当と書いてマジですの」


 私は慌てて時計を見ると、時刻は11時を差していた。つまり私は気絶してから3時間は寝ていて、10時には学校終わってたってことである。


「というか何で貴方がここにいますの? ここDクラスですわよ。Aクラスでしょ貴方」

「あ、私今年からDクラスです」

「はぁ!?」


 私の記憶ではこの少女は頭がとても良く、初等部のときからずっとエリートのAクラスだ。それがいきなりドベのDクラスになるとは思えない。確か彼女は前の学年ランキングでも11位を取っていたはずである。

 学年ランキングとは学校の成績の順位のことであり、それを元に次年度のクラス分けが決まる。また学年ランキング1~10位までの成績上位者は掲示板に張り出されることになり、それ以降の人は個別に順位を伝えられる。本当にこんな成績晒し制度が日本にあるのかと前世では思っていたけど、この世界は乙女ゲームなので仕方ない。ちなみに毎回1位を取っているのは忌々しいことに私の婚約者の男だ。認めたくはないが、あの男は文武両道でとにかく優秀な男なのだ。


「まあ、今回の私の学年ランキングは最下位でしたからねぇ」

「最下位!? どういうことですの!?」

「いやー、前回で11回連続11位という大記録を樹立してしまいましてね。なんか満足してしまったので今回の期末試験は全教科白紙で提出してしまいました」

「なんで!?」


 おかしなことをしてるのに、なんとも思ってないように言う憂。そう、この少女とにかく変人なのである。毎回掲示板にギリギリ載らない11位をわざわざ狙い、とうとう11回連続11位という誰も破れないだろう珍記録を達成してしまった。過去に一度だけ学年1位を取ったこともあるので、本当はもっと賢いのにわざと順位を落としているのだ。他人との優劣に全く興味のない、何を考えてるのかよく分からない少女、それが阿生 憂である。いま読んでる分厚い本も勉強しているわけではなく、「古今妖怪大辞典」とか表紙に書かれてる謎の本だ。その前は「よく分かるコンピューターウイルス事典」とか更によく分からない本を読んでた。ジャンルが雑多すぎる。


「それにしても残念ですわね憂……今年は貴方とは別のクラスなんて」

「いやぁ、今年も銀華さんと一緒のクラスで嬉しいですね」

「え? 今なんて言いまして?」

「うん、今年も一緒のクラスですね」


 え、どういうこと? 確か私はAクラスだからDクラスの憂とは一緒じゃないはずなのに……


「あ、クラス分け見てないんですか? Dクラスでしたよ銀華さん」

「ええええっ!? 何かの間違いでは!?!? わたくしはAクラスのはずですわよ!?」


 ゲームでも悪役令嬢である朱鷺宮銀華は憎らしいくらい優秀で、毎回5位以内の順位で掲示板入りしていたはず。だから乙女ゲーム開始時点で銀華はずっとAクラスのはずなのだ。


「……銀華さん。前回の学年ランキングは何位でした?」

「えっと……69位ですわ」

「逆にそれでよく今までAクラスにいましたねぇ……上位30人じゃないと普通はAクラスには入れませんよ?」

「え、そういうのは建前で、実際は家柄とか考慮してクラス上げてくれるんじゃないですの? ほらわたくし、あの朱鷺宮財閥の朱鷺宮銀華ですわよ?」

「まぁ実際ひいきしてクラス上げてたんでしょうね、今までは」

「えっと、つまりどういうことですの? これからは……?」

「一年間よろしくお願いしますね、ドベのDクラスの朱鷺宮銀華さん♪」

「いやあああーー!!!」


 どうしてこうなった!? そういうわけで、最初から乙女ゲームのシナリオから外れてDクラスからのスタートとなった朱鷺宮銀華であった……いやまぁ順位が低かった私が悪いんだけど、いきなりDは酷くない!? 私は完璧なる美少女で悪役令嬢の朱鷺宮銀華なんですけど!! ああああ! またお母様に怒られるぅぅぅー!!

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