20話 銀華とベッドタイム
女子の恋バナは何故か私がなじられるだけで終わってしまった。何故ですの……?あ、そういえば香音ちゃんの恋バナが結局聞けてませんわ!
眠くなったのか、憂が目をこすりながらベッドに向かった。
「じゃあそろそろ私は寝ますね」
「って自分の部屋に戻らんのかーい!」
「うぅ……部屋に戻っても私一人なんですよ?寂しくて寂しくて……」
しくしくと泣き真似をする憂。そう、こいつのドラゴン班は女子がこいつ一人なので部屋も一人で使うらしいですわ。今さらだけど班分けのバランス悪いな!?
「というわけで寝ます。おやすみなさい。すやぁ……」
そう言ってさっさと布団にもぐってしまった。というかそこ香音ちゃんのベッドじゃありませんの!?
「あ、えと、どうしよっか……?」
「香音チャンのベッド奪われてしもうたなー」
「大丈夫ですわ。あの小娘を今からベッドから叩き出して自分の部屋にゴーホームさせますわ!」
「いやえっとそこまではしなくても……」
「じゃあ……香音さんはどこで寝ますの?」
「あの、私は床でもいいけど……」
香音ちゃんは憂というクズキャラの為に、わざわざ自己犠牲を発揮して床で寝ると言い出した。だ、駄目ですわ!そういうの可哀想ですわ!
「駄目ですわ。あなただけ床なんて不公平ですわよ!わたくしも一緒に床で寝ますわ!」
「いや、銀華チャン意味わからんから!普通譲るんやないの!?」
「え、でもわたくしが譲っても香音さんが気まずいですわよね?」
「うわ、まともすぎて逆にビビったわ。そこまで気を回しとったんか」
心外な評価ですわ。わたくしはいつも思慮深いというのに……
「でもやっぱり、私はともかく銀華さんも床で寝ることないよ!だって銀華さんはお嬢様で……」
「え?普通に床でも寝れますわよ?」
「アカン、普通のお嬢様なら今ので美徳とか謙遜とかって言葉が思い浮かぶんやけど、ホンマに普段から床で寝てそうやわこのお嬢様」
「流石に寝てませんわよ!!」
でもこの部屋、肌触りのいいカーペット敷いてあるし普通に床でごろ寝しても気持ち良さそうなんだ……と一瞬思ったけど言わないことにしますわ!
「二人で寝れば良いじゃないですか、一緒のベッドで……」
速攻で寝てたはずの憂が布団の中からボソッと呟いて爆弾を投げてきた!
「ふ、ふふ、二人で!? 何言ってますの憂!???」
「えっ!? 銀華さんと!!?」
「いや、うちもいるんやけど!?」
はっ!? 雷花のツッコミで思い出したけど、別にわたくしと香音ちゃんの組み合わせじゃなくてもいいですわよね!? 何でそう思ってしまったのわたくし!?? というか香音ちゃんも何で勘違いしたの!? ああ、なんか香音ちゃんさっと顔隠したけどナンデ!?
「というか起きとったんならどきーや!!」
「あ、私は寝てます。入ってくることは許しません。このベッドは私のものです。ぐぅぐぅ」
「めちゃくちゃワガママやな!?独裁者か!!?」
「聞こえません。寝てるので。すやすや」
「めちゃくちゃ聞こえとるやんけ!!」
憂は退くことは断固拒否するようだ。こいつ普通に暴君ですわよね。
「というか何のために一つだけキングサイズのベッドがあると思ってるんですか……むにゃむにゃ」
「ほんまやな……ずっと疑問に思っとったけど銀華チャンのベッドだけ妙にデカないか?」
「え?わたくしのベッドはいつもこのサイズですわよ?でもよく見てみたら他のベッド小さいですわね……?」
「変なところで無自覚に世間知らずなお嬢様キャラ出してくるのやめーや!!さっき床で寝ても平気みたいなこと言ってたのとホンマに同一人物か!?振れ幅デカすぎやで!!!」
雷花の指摘で初めて気付いたけど、わたくしの中に前世の平民と今世のお嬢様の価値観が同時に存在している……!? というか、15年間お嬢様として生きてきた私が、未だに前世の感覚が抜けてないってどうなんだ。
「とゆーか別に気にせんでええやろ。女同士やし」
「そういうものですの?」
「なんならうちが銀華チャンと一緒に寝よか?」
「ええぇ? 雷花はちょっと……寝相悪くて蹴られそう」
「なんでや! 偏見やろ!? 香音チャンはそう思ってへんよな? ……あれ? 香音チャン?」
雷花が同意を求めるように香音ちゃんの方を見ると、うつらうつらと頭を上下させながら座ったまま目を閉じている香音ちゃんがいた。
「おおう、香音チャンおねむやわ……」
「そういえばわたくしも眠いですわ……」
「今日動き回ったからなぁ。疲れとるよなー」
「この部屋自体も眠くなるというか……」
「なんかアロマのええ匂いするしなぁ。うちも眠くなってきたわ……」
「もう消灯の時間ですし、先生も見廻りに来るかもしれないので、とりあえず電気消しときますわ」
「せやな、香音チャンも布団に入れとこ」
そう言って私は電気を消し、布団に潜った。
「それじゃおやすみやな、お嬢様……」
「おやすみぃ……」
小声でそう言い合い、目をつむる私。良い感じの疲労感が、良い感じの眠気を誘う。なんかすぐ近くで小さな呼吸音が聞こえる。私は温かいそれをそっと撫でた。
「おやすみ……」
なんか忘れてる気がするが、眠気には勝てないしどうでもよくなってきた。私はあたたかくて触り心地の良いそれをそっと抱きしめて目を閉じた。
……………………
…………
……
「やれやれ、やっと寝ましたか」
深夜、皆が寝静まった頃にベッドから起き上がる小さな人影があった。その少女は最初から寝ていない。狸寝入りをしていただけだった。
「……【システム起動】【ステータス/桜香音】」
少女が小声で【キーコマンド】を呟くと、空中にゲーム画面のような半透明のウインドウが映し出された。そこには【桜香音】の顔アイコンと様々な数値が映し出されている。少女はその中の【親密度】の部分を指でタップした。そうするとより詳細なステータスが画面に反映される。表示されたのは【攻略対象一覧】のキャラクターの顔アイコン及び親密度の数値。その中の1つに彼女は目を向ける
[朱鷺宮銀華:親密度10]
「うーん、今朝よりも数値5上がりましたけど……」
そう言いながらも少女の表情は少し不満げである。【ゲーム】では親密度20以上で【友人】くらいの関係である。つまり、この数値は桜香音と朱鷺宮銀華が友人未満であることを表す。
少女は隣にあるキングサイズのベッドに目を向ける。そこには桜香音と朱鷺宮銀華が同じ布団で寝ている姿が見えた。
「この距離感で[親密度10]……?」
どうみても友達未満の関係では無いように見えるが、システム上ではそういう数値が出ている。
「……うーん、思ったより厄介なのかも。本来は【攻略対象】じゃありませんからね、彼女は」
他の【攻略対象】を確認する。
[御剣刀真:親密度35]
[聖条ヒカル:親密度35]
[虎尾大河:親密度35]
[朱鷺宮白夜:親密度30]……
軒並み親密度30以上である。まだ出会っていない者も含めて。
「出会いイベントで+5ポイント。そして【周回ボーナス】で初期値30ですからね。しかも全キャラ」
親密度は通常0からスタートするのだが、一度クリアしたキャラは周回ボーナスとして初期値がプラスされる。このゲームは逆ハーレムエンドも用意されているが、その条件は『攻略対象全員の親密度100』というものであり、初回では達成不可能となっている。それを満たす為には、全キャラ分の周回ボーナスが必要となるので周回必須なのだ。
「貴方の『前世』がアダになりましたね。まぁ、ある意味自業自得というものでしょうが……しかし……」
【攻略対象】のリストの下の方に目を向ける。そこには本来あるべきではない名前が並んでいた。
[獅堂雷花:親密度20]
[阿生憂:親密度15]
「本来攻略対象じゃないキャラ……まぁ雷花は良いとして、何で私まで名前があるんですかね……? というか、銀華さんより親密度が高いんですが……システムがバグっているのでしょうか? いや、これたぶん分かっててやってますよね。わざと」
はぁ……と少女は小さく息を吐く。システムは若干バグってるのかもしれない。だがもし、それが正常な仕様だと仮定するならば、狂ってるのはシステムではなく……
「……これがおそらく、最後の周回ですよ。どう転んでも、悔いのないようにしてくださいね」
少女は二人が眠っているベッドにちらりと目を向けた後、何事もないように布団をかぶって寝ることにした。
リコリコ、ぼざろ、ガンダムと百合アニメが最近めちゃくちゃ流行ってて新時代を感じます。小説家になろうでももっと百合小説増えて欲しいですねぇ。その点において、今期の転天はめちゃくちゃ期待してます!絶対に面白いから見て!!!




