15話
チャキチャキの関西っ子、獅童雷花が班のメンバーを見渡し、アホ毛をぴょこぴょこ揺らしながら言った。
「とりあえず全員揃ったし、リーダー決めよか。香音チャンでええか?」
「意義なしですわ」
「ええ!? わたしっ!?」
「ほな決まりやなー」
「決めるのはやいよ!?」
雷花の発言に私はすぐさま同意したら、香音ちゃんは驚いてツッコミいれてた。でも雷花が冗談めいて香音ちゃんをリーダーに推薦するのも、なしくずし的に香音ちゃんがリーダーになるのも規定路線なんだ。なんたって貴方はこの物語な主人公なのだから! だから私は香音ちゃんを推します!
「わたくしは香音さんの人柄なら信用できると思いますわ」
「おれも問題ねーぜ」
「ウチも同意見やなー。この班アクが強いねん。あえて普通の子にリーダーやってもらうことでバランスが取れるかもしれん神采配や」
「えっ、本気なの? でも銀華さんの方がリーダーシップありそうな……」
そう香音ちゃんが私を見て言うけど……無理! というか無理じゃないけど嫌です。だってこの班には敵キャラが二人いるもの。クソチョロタイガーと呼ばれている虎尾大河は乙女ゲームの中では銀華のことを良く思ってないようだった。獅童雷花に関してはゲーム中では最も敵対関係が激しかったと言っていい。今はまだ何にもなってないけど、下手なことやらかして敵対したくない。とは言え、ちょっとくらいは香音ちゃんの助けになりたい気持ちもある。
「香音さんは、こういうみんなをまとめる役割は苦手かしら?」
「えっとまぁ……はい」
「そう……でも大丈夫ですわ。上手くいかなくても誰も責めませんし、何かあれば手助けもしますわ」
「銀華さん……」
「ええこと言うなー銀華チャン」
「というか香音さん以外がリーダーだと、わたくし手助けしないかもしれませんわ」
「ってなんでやねん!」
思わず出てしまった私の本音に雷花が思いっきりツッコミを入れた。ハッ!? ツッコミキャラ増えた!? 今まで私にツッコミ入れる人ほとんどいなかったのに! 香音ちゃんだけじゃなくてこいつもツッコミキャラだったわ。そりゃそうですわ、関西人だもん(偏見)
「というか推薦しといてなんやけど、正直銀華チャンが同意してくれるとは思わんかったわ……香音チャンといつの間に仲良なったん? さっきも隣に座っとったし」
「ふふふ、内緒ですわー」
「うわぁ、銀華チャンその笑顔なんか企んでるようにしか見えんで怖いわー」
「ええっ!? そう見えますの!?」
私は怖いと言われて驚いて頬に手を当てた。なんでぇ? 悪役令嬢だから邪悪に見えるフィルターでも搭載されてるの? いや、よく考えたら私前世でも笑顔が気持ち悪いって言われたことあったわ。じゃあ私のせい? それはそれで悲しいわ!
それに対して香音ちゃんがぷんぷんと頬をふくらませて精一杯の怒り表現をした。かわいい
「もうっ、ライカちゃん! 銀華さんはそんなのじゃないよー!」
「ジョーダンやジョーダン! かんにんな!」
「それにさっきから銀華さんに失礼なことばっかり……」
「香音チャンすまんて! というか銀華チャンもすまんな。初対面なのにぐいぐい来てもうて」
「え? なんで謝られてますのわたくし?」
なんで謝られてるのかよく分からない私は首を傾げると、雷花は少し驚いたように私の目を見た。別に気安い対応だったけど、そんなに不快な感じなかったし。むしろもっと噛みつかれてキツイこと言われると思ってたので、意外と好印象なくらいだ。確かこの友人キャラ、ゲーム内じゃ金持ちのボンボンとかめちゃくちゃ嫌いじゃなかった?
「気にしてへんの? ウチ、この学園に来て銀華チャンみたいなお嬢様にちょこっと声かけただけでめちゃくちゃ怒られたんやけど」
「え? そうですの?」
「ちょっと道聞いただけやのに、もう取り巻きみたいな女子がめちゃくちゃ罵倒してくんねん。なんかめっちゃ上から目線やし腹立ってなー。この学園のお嬢様って皆あんな感じやと思てたわ」
「あー、なるほど……」
私はその話を聞いて納得した。だから雷花は乙女ゲーム内で金持ちのボンボンを良く思ってなかったのか。罵倒されたら嫌な気分になるもんなぁ。
まぁでも実際そんな感じである。特権階級特有のアレなのか、それともこの学園が乙女ゲームの世界だからなのかは知らないけど、どうも偉そうな人が多いと思う。内部進学組がほとんどのAクラスは特にそうだった。
「ぶっちゃけ初手からガンガン来てたのは試す意味もあってんけど、銀華チャンはええ人で良かったわ。あー緊張したー」
「え、緊張してましたの!?」
「そらそうやん。朱鷺宮っちゅーたら四大財閥の一つやん。この学園の中でも飛び抜けてお嬢様やん。しかもめっちゃ美人やん。普通は恐れ多くて誰も話しかけられんわ」
へー、誰にでも気さくに話しかける雷花ですら緊張してたんだ……そりゃそうだわ。本来銀華ってめちゃくちゃお嬢様だしなぁ。前世の私だったらそんな偉い人の娘とか話しかけられないかもしれないわ。
「えっ、四大財閥? 銀華さんってそんなにすごいところの人だったんだ……」
「せやでー。めちゃくちゃ偉いでー。なんや香音チャン知らへんのか」
「うう、知らなくてごめんなさい」
「構いませんわよ。普通なら財閥とかを気にするのは社会人になってからですもの。去年まで普通の中学生だった香音さんにそこまでの知識は求めてませんわ」
「あ、ありがとう銀華さん」
「まぁこの学園に来たら知っとるのが当たり前なんやけどな」
「もー、ライカちゃんってば!」
雷花と香音ちゃんが仲良くじゃれあってる。出会ってそんなに経ってないのに貴方たち仲良くなりすぎじゃない? まぁこれも初手から距離感バグってる雷花とそれをすんなり受け入れる香音ちゃんの人柄あってこそだけど……はやくこれになりたいなぁ!
そんな感じで一通り班メンバーと顔合わせが終わったとき、エミリポ(エミリー・ポッター)先生が教壇で言った。
「ミナサーン! 班メンバーの挨拶は済みマシタかー! それではオリエンテーション始めマース!」
「はーい!」
「いい返事デス! トキミャー!」
思わず元気よく返事をしてしまったら、先生に褒められた。それに対して雷花がびっくりしたような顔をしてこちらを見ている。香音ちゃんもこっちを見ている。
「めっちゃええ返事やんけ。しもた! ウチとしたことがテンションでご令嬢に負けたわ!」
「すごい楽しみだったんだね、銀華ちゃ……さん」
今ちゃんって言いかけたよね香音ちゃん!? なんで言い直した!? しかし、ちょっと悪役令嬢としてはボロが出てしまった。ゲームの銀華はこういうキャラじゃない。だが、あえて取り繕わない! 私はふふんと自信満々に言った。
「ふふん、令嬢たるものノリは良くいきませんとね!」
「そ、そういうもんなんやね! 流石お嬢様やね!?」
おし、勢いで誤魔化せましたわ! 人生だいたいこれでなんとかなる。私は雰囲気で令嬢をやっている! 誰が何と言おうと、私が朱鷺宮銀華なのですわ!!
ふと、私に向けられる無粋な視線を感じた。振り返るとクソチョロタイガーこと虎尾大河がこちらを見てつぶやいた。
「へー、おもしれー女」
「黙りなさいトラオ」
少女漫画のテンプレのような台詞を私に向けて吐くものだから、ギロっと睨んでおいた。私はこういう思い上がった男の謎の上から目線嫌いだから! というかさっき雷花が言ってたように朱鷺宮の令嬢ってこの学園でもめちゃくちゃ偉いからね!? まぁ私が偉くなくてもむかつく台詞だけど!!
私から冷たい視線を向けられたトラオは「すまん……」と謝罪しながらシュンって落ち込んでた。こいつ、金髪赤メッシュを逆立たせた強そうな見た目なのになんてメンタルがクソザコなのかしら? クソチョロタイガーじゃなくてクソザコタイガーではなくて?
あまりに体がだるいので、人生初めての整体行きました。色んなところ揉まれたり押されたりしたしたが、マッサージチェアの強くらいのそこそこ痛さで収まり、思ったほど痛くはなかったです。
問題はこれですぐに楽になると思ってたんですけど……翌日はいつもより体のだるさと、激しい筋トレしまくった後のようなきっつい筋肉痛が襲いかかってきて、仕事するのがめちゃくちゃつらかったです。
「好転反応」というらしいですね……整体により体の疲労物質が解放されることにより、一時的にめっちゃしんどくなるらしいです。こんなんあるなら整体後に休むべきだったわ……これで体がよくなるといいなぁ




