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13話

 わたくしの名は朱鷺宮ときのみや銀華ぎんか! そう、朱鷺宮財閥の美しき令嬢にして、私が前世でプレイしてた乙女ゲーム【桜色ラプソディ】の『悪役令嬢』ですわ!!

 そして今私の隣にいる可愛らしい小動物のような少女の名は桜香音さくらかのん。彼女こそ【桜色ラプソディ】のヒロインちゃんですわ!!!!!


「あ、あの、合宿……よろしくお願いしますっ!」

「!? えぇ……えぇ……よろしくですわ!」


 香音ちゃんから話しかけてくれる! あの天使のような香音ちゃんがこの悪役令嬢の私に!? うわあテンション上がるーーー!!!

 もちろん私はその高揚を隠しながら、あくまで普段通りに接している。だが、私と香音ちゃんはもう『友達』になったのだ! 『悪役令嬢』である朱鷺宮銀華と、『ヒロイン』である桜香音ちゃんが!! この二人が仲良く並んで歩いているなんて、これはどんな奇跡であろうか!!!

 心なしか香音ちゃんも少しそわそわして落ち着かない様子であり、それがまた小動物みたいで可愛い。しかし、二人の距離は1mにまで近寄っていた。はー! こんな近くでヒロインの顔がおがめるなんて!! ほんと夢みたい。気を付けないとニヤニヤと頬が緩んでしまいそうですわ!!!


 そんな感じで二人で教室に向かい、オリエンテーション合宿は始まった。


「イエーイ! お楽しみのオリエンテーション合宿デース!!」


 教室でホームルームが始まると、Dクラス担任の外国人教師エミリー・ポッター先生がハイテンションで言う。何故かハートマークのグラサンとアロハシャツという陽気な装いで登場していた。まぁ普段からこの学園設定に合わない割とカジュアルな服装をしているのだが、今日は一段とハジケている。この格好……【桜色ラプソディ】のミニゲームのときの衣装だ!

 エミリー・ポッター先生……通称エミリポ先生は乙女ゲームのキャラの一人であるが、ゲーム内での役割はDクラス担任ともう一つ、ミニゲーム担当というのがある。【桜色ラプソディ】は選択肢で物語を進めるノベルゲームであるけれど、育成ゲームの側面もありミニゲームなどで香音ちゃんを育てることもある。ノベル部分だけでも十分面白いんだけど、制作者は遊び心として様々な要素を入れまくっている。それゆえ、攻略サイトも充実しているというわけだ。私は攻略サイトとか見ずにプレイしたけど


 そしてハイテンションのエミリポ先生に対して生徒からの反応は、あっけにとられた感じである。無理もない。新入生はお坊ちゃんお嬢様が通う模範的金持ち学校だと思って入学していたのだろう。そう、エミリポ先生はゲーム内では序盤から華をくれるコメディ要素として人気キャラだが、この学園であまりにも浮いている。私が去年いたAクラス担任はめちゃくちゃ真面目だったので、ギャップがすごいわ。


「なんだかすごい先生だね……」

「ええ、そうですわね……」


 隣に座っている香音ちゃんが小声で言ったので私も相槌を打った。そう、香音ちゃんは隣にいるのである。この学園では教室は広くて着席はどこの机でもオーケーなので香音ちゃんが私の隣の席に座ったというわけだ!!! バンザイ! 自由席バンザイ!!!


「ああ見えてあの先生、名門エクリプス大学首席なんですよ。知ってました?」


 そして私と香音ちゃんとの会話に加わったのは、同じく私の隣に座る小学生みたいなおかっぱ少女、阿生憂あそうゆうであった。こいつは初日の時点で香音ちゃんとある程度友好を築いてるみたいで、自然に会話に入ってくる。うぅ、友人枠を先んじて取りやがって。ずるい! でも、私だって攻略対象おとこどもより早く香音ちゃんと出会ってるもん! 負けてない!!


「ところでその……エクリプス大学って凄いのかしら?(前世でそんなんあったっけ?)」

「日本で一番頭のいい大学より格上の大学です。そこで首席取れるようならほぼ全人類に学歴マウント取れますね」


 サブキャラ1人に何その豪華な裏設定? たぶん前世では無かった架空の大学なんだろうけど、そんなん初めて聞きましたわ。容姿学力お金地位を盛りまくった攻略対象の男どもより女のサブキャラの方が学歴すごいって乙女ゲームとしておかしくない?


「あれで頭いいキャラだったんですわね……てっきりムードメーカーのアホキャラだと思ってましたわ」

「まぁそうですね。あの先生、その学歴を活かしたエピソードが全く無いのでアホキャラ扱いのままでいいですよ」

「身も蓋もありませんわね」


 ああうん、やっぱり活かす機会が無かったなら蛇足設定よね。あえて乙女ゲーム内では語らなかったのかもしれない。しかしあれだ。何でこの小さいおかっぱ少女はそういうことにやたら詳しいのだろうか? 謎である。

 それに……うーん前々から思ってたんだけど、乙女ゲームの世界に転生したってアドバンテージがあっても、私が知らない隠し設定を出されたらたまらないわよねぇ。というか私って香音ちゃん以外興味なかったせいで、他のキャラに対しての情報が薄い気がするわ。野郎のプロフィールなんて真面目に見てないし。


「と! いうわけで自分たちの班で集まって校内のチェックポイントを巡ってクダサーイ! ドキドキ恋のオリエンテーションのハジマリデース!」


 なんか考えごとをしてたらいつの間にかエミリポ先生の説明は終わったようだ。隣の憂が席を立った。


「さて、と。私は違う班なのでここでお別れですね」

「あなたのことは忘れないわ、憂」

「銀華さん、天国で貴方のことを見守ってますね」

「えぇ!? 死ぬの!?」


 私と憂がボケあってたら香音ちゃんのツッコミが入ってきた。し、新鮮ですわ……私と憂の会話はボケに対してボケで返すのが普通なので、実はツッコミ役が不在だったのだ……感動して涙すら流れそうだ……


「憂、ツッコミが来たわ。こんな嬉しいことってあるのかしら?」

「えぇ、銀華さん。良い人を見つけましたね。香音さん、結婚しましょう」

「結婚!? なんで!?」

「憂、それは冗談でも許されないわ」

「銀華さん、目がガチですよ」


 はぁ、憂が下らない冗談を言うからつい睨んでしまったわ……冗談だよね? ホントに香音ちゃんのこと狙ってないわよね? 本気だったら骨肉を争う闘いが始まっちゃうんだけど。


「あっ、すみません私ったら、調子に乗ってタメ口になっちゃいまして」


 香音ちゃんがハッと気付いたように口に手を当てた。いや、別にいいんだけど敬語じゃなくてタメ口で! そこは自然体のまま接してほしいわ! 私は微笑んで優しい令嬢に見えるように答えた。


「別に構わないですわよ。友達ですもの」

「えぇ、銀華さんには別に良いんじゃないですか? 適当で」

「え、でも憂さんは敬語ですよね?」

「私のはただの丁寧語です。誰に対してもこうなので、特別に銀華さんを敬ってるわけじゃないです」

「憂はちょっとくらい敬って」


 このおかっぱ少女はいくらなんでも私を舐めすぎなのでは? はー、ゲームの中の銀華のように私を無条件で持ち上げてくれる取り巻きいないのかなぁ? いないんだよなぁ何故か。わたくしったら悪役令嬢の鑑のはずなのに何故かしら???


「あ、でも銀華さん相手には良いですけど、他の人には態度を気をつけた方がいいかもしれませんね」

「え?」

「何せこの学校、お金持ちや権力者の令嬢令息が多いですから。あなたの立場だとトラブルに巻き込まれるかもしれません」


 あー、確かにそうだわ。ゲーム内では御剣刀真(おれさまやろう)とかに関わったせいで、色々と顰蹙(ひんしゅく)買ったりするのよね。主に悪役令嬢とその取り巻きから。って原因私かーい!(脳内ツッコミ)


「えと、ど、どうしたら……」


 香音ちゃんはその忠告を聞いて不安そうに見上げてくる。あぁっ! 身長差が尊い! 香音ちゃんは身長150cmの小柄な体格だから、身長167cmの朱鷺宮銀華とは17cmの身長差が発生する。つまり私と目線を合わせるときは自然と見上げる形になるわけだが……上目遣い可愛いなぁ、あざといなぁ。

 って浸ってる場合じゃなかった。不安な香音ちゃんに安心を与えてやらねば! 私はどんと胸を叩いて言った。


「大丈夫ですわ! いざとなったらわたくしを頼りなさい!」

「まぁこんなでも銀華さんは本物のお嬢様ですしね」

「こんなでもは余計ですわ」


 キッチリ決めたはずなのに憂が茶々入れてくるから微妙に締まらなかった。香音ちゃんは申し訳なさそうに言った。


「あの、でも、そんなことで銀華さんにご迷惑をかけるわけには……」

「敬語、戻ってますわ。タメ口でいいですわよ」

「あっ……うん」

「それに友達同士の仲だもの。そんなもの当たり前ではなくて?」

「……ありがとう、銀華さん」


 香音ちゃんは慣れないようなたどたどしい態度で、もじもじしながらお礼を言った。可愛いなぁもう。ところで、さんづけからちゃんづけにグレードアップする日は来るのだろうか? いずれは「銀華ちゃん」って呼んで欲しいんだけど!

 でも、私も心の中では「香音ちゃん」呼びだけど、実際には「香音さん」って呼んでるからなぁ……私の方から言うべきなのかもしれない。試しに呼んでみようか。はー、深呼吸深呼吸……せぇのぉっ……


「…………か、香音…………ちゃん(小声)」

「え? 今なんて……」

「い、いえっ! 何でもありませんわ! おほほほほ!」


 駄目だー! 蚊の鳴くような声しか出なかったー!! 私のヘタレ! アホー!!!

ウマ娘、ありますよね。あれって自分の性別を選べるの良いですよね。性別女でプレイすると、ライスシャワーに「お姉様」って呼ばれるんですよ? あれは良いですよね……お姉様呼びホント良い……語彙力消失する……

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