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11話

 わたくしは朱鷺宮銀華ですわ! わたくしは今、とってもわくわくしてますの!!

 何故なら! 香音ちゃんと!! 一緒の班で!!! オリエンテーション合宿するから!!!!!


 一緒の班で仲良く校内を巡り、各種イベントをこなし、そして夜には一緒の班の女子とは同じ部屋で寝泊まりイベントが……やべぇ。いいのこれ? 私前世で22歳だよ? これ犯罪にならない?

 いや、嬉しいけど! 嬉しいけどっ!! い、意中の女子と一緒とか!!! ひとつ屋根の下とか!!!! 色々段階を飛ばしてませんかね国王様!?!?!!!?

 ……はぁっ……はぁっ……国王様って誰だ? ちょっと落ち着こうか私。深呼吸、深呼吸…………


 ……というわけで、今日からDクラスの皆さまとオリエンテーション合宿に行ってきますわ! まぁ学内で行うから普段通り学校に来ましたけど!

 本来ならわたくしほどの家柄の子女だと、平民まじりで合宿するのを嫌って不参加なことが多いけれど、わたくしはちゃんとお母様に合意してもらったから堂々と参加できますわ! お父様は難色を示してましたけど、持つべきものはやはり理解ある母親ですわね! おほほほほ!!

 ……うん、思うんだけど銀華のお母様ってホント不思議なくらい理解があるんだよね。見た目鋭い目つきした怖い美女なんだけど、印象となんか違う。お金持ち学園に通う生徒のような優等生エリート思想みたいなのあんまりないし、割と私と価値観噛み合うんだよね。そのせいか親子仲は良好でよく話すし裏事情も色々と話してくれたりする。不思議だよねー、悪役令嬢の母なのに。まぁ厳しいことは厳しいけど。なんかこう……私も前世の母には迷惑かけてばっかりだったから、銀華の母とは上手くやっていきたいなと思ってたりします。


 とゆーことで合宿に参加である。私はぱんぱんになったトランクケースを片手で引いて校内をるんるん気分で歩いてると、偶然にも香音ちゃんが教室とは逆方向に歩いているのが見えた。桜 香音! そう、彼女は乙女ゲームのヒロイン! 前世の私が唯一恋愛感情を抱いた女の子であり、悪役令嬢となって生まれ変わった今でも彼女以外を想ったことはない! こんなところで会えるとは、運命を感じますわ!

 早速迷子になりそうな彼女に声をかけようとしたが、そこにすらりとした背の高い黒髪の男が彼女の隣にいるのに気付いた。うぐぉ、あの姿すごい見覚えがある。その瞬間、あの男と香音ちゃんが見つめ合ってるスチルがフラッシュバックし、さっきまでの幸せなワクワク気分が台無しになった。


 あの男め! 私の香音ちゃんに馴れ馴れしく話しかけやがって!! いてもたってもいられず、気付いたら私はトランクを引いたまま校内をダッシュで駆け抜けてやつに突撃していった。


御剣(みつるぎ)刀真(とうま)~~~!!!」

「うお、なんだお前!?」

「えっ、銀華様!?」


 私はやつの名前を呼びつけて二人の前に急停止すると、御剣刀真は私の姿を見ると嫌そうな顔をして眉をひそめる。近い。この二人、距離感がなんか近い気がする。うぅ、なんかやだ。いつの間に接近した? そんなの許せん。私の中に黒い感情が渦巻いて、私は憎きあの男、御剣刀真を問い詰めた。


「なんだじゃありませんわよ! どうして貴方が香音ちゃんと一緒にいますの!!」

「俺が誰といようがお前とは関係ないだろう」

「大ありですわよ!」


 私は怒り心頭で御剣刀真に迫るが、やつは迷惑そうな顔で対応する。むぐぐ、むかつく。その端正な顔で香音ちゃんを誘惑する気だな、この害虫めぇ!

 そこに天使の出したような可愛らしい声が私の耳に届いた。


「あ、あのっ! 銀華さん、違うんです! 御剣さんは私に道を教えてくれてただけなんです!」


 香音ちゃんが涙目になって私を見つめている。ああ、ちょっと泣きそうな顔もかわいいなぁ……ってこれまずい状況では? なんか勘違いされてない? 別に香音ちゃんを責めるつもりなかったんだけど。いつの間にか注目されていたのか、周りからどよどよと話し声が聞こえた。


「誰よ地味な子、御剣様に馴れ馴れしくして」

「御剣様と銀華様が痴話喧嘩か?」

「修羅場だ修羅場」

「うわー銀華様おっかねぇ」


 なーーー!? 今誰だ痴話喧嘩って言ったやつ!! そんなことこの俺様男とするわけないでしょーが!!! というかやっぱりなんか誤解を生んでる! 私はすぐに否定しようと口を開けたが、それより早く香音ちゃんが頭を下げて言った。


「すみません御剣さん! 銀華さん! ご迷惑をおかけしました!」


 そう言って香音ちゃんは止める間もなく青い顔をして逃げるように駆けていった。あかーん! 絶対なんか致命的な勘違いされてる!! 私は設定上婚約者なだけのこんな男のことなんて心底どうでもいいのに! 今すぐ彼女を追いかけて誤解を解かなきゃ!


「か、香音ちゃ……違っ……ちょっと邪魔ですわよ御剣刀真!!」


 私は前にいる男をはね除けて香音ちゃんを追いかけようとしたら、御剣刀真にガシッと手首を捕まえられた。いった!? 何こいつ!?


「ちょっと待て!」

「ぃ痛っ!? ちょっと、乱暴に掴まないでくださいまし!!」

「お前が彼女を追いかけようとするからだろう!」

「……は? 何ですの?」


 なんか知らないけど、怒気をはらんだ声で怒鳴られた。意味わからん。だが私がこの男が怒ったくらいでビビると思っているのか? 前世では成人済みの社会人だぞ私は。身長が私より頭1つ分でかかろうと、しょせん高校生のクソガキに脅されてビビるわけないじゃない。

 私は御剣刀真をぎろりと睨み返すと、彼は少し物怖じしたように一歩下がる。


「手を離してくださいますかクソボンボン。わたくしの行動を貴方が制限する権利はありませんわよ」

「く、クソボンボンだと……!?」

「恵まれた環境しか知らない世間知らずのクソボンボンと言ったのですわ!」

「いやお前だって似たようなものだろ! というかお前があの子に何するか分からんから止めたんだろうが!」

「は? お前香音ちゃんの何なの?」

「お前が何だよ!?」


 廊下で怒鳴り声の応酬が始まるが、この男は意地でも私の手首を話しそうにない。くぅ、力いっぱい握りやがって。腕力じゃこの男に勝てないのが悔しい。もっと鍛えておくべきだったわ!


「ぐぬぬぬ、放しなさいこの勘違い俺様男!!」

「お前に言われたくないわ! この暴走アホ女!!」


 そうこうしてるうちに香音ちゃんを見失ってしまった。うう、この男が止めなければ! この男がぁ! 一発殴ってやろうか!? うん、殴ろう! 殴ってよし!!

 私がそう決意して拳を握りしめたとき、そこに空気を読まずに平然と割り込む聞き慣れた少女の声がした。


「おや、銀華さんと刀真さん。朝から廊下で騒いでどうしたんですか?」

(ゆう)!?」

「げ、阿生か」


 そう、大財閥子息である御剣刀真にも物怖じせず、飄々とした態度を貫いている小学生みたいなちんまりとしたおかっぱ少女の名は阿生(あそう) (ゆう)。私の数少ない友人である。彼女が話しかけてくると、御剣刀真はあからさまに嫌そうな顔をした。この男は何故か憂に苦手意識を持っているらしい。憂は状況を確認すると、くすりと悪い笑みをして御剣刀真に言い放った。


「おやおや刀真さん。そんな風に婚約者の手を熱烈に掴まえてるなんて、すごいアツアツな関係なんですね?」

「ばっ、違う! 勘違いするなっ!」


 そう言って御剣刀真は私の手を投げつけるように慌てて放した。ぐぅ、痛かった。掴まれた部分が赤くなってるじゃない。この乱暴者めぇ……この恨み絶対に忘れないからなぁ!?


「というかお前は俺達がそういう関係じゃないって知ってて言ってるだろう!」

「へー、『そういう関係』ですって。なんのことやら。あやしいですね~」


 憂がわざとらしく言葉尻だけを捕まえてボカすような言い方をすると、周りにいた生徒がまたざわざわしだした。


「御剣様と朱鷺宮様、『そういう関係』なんですって!?」

「きゃ~恥ずかしいわ!」

「やっぱり婚約者ですもの。そういうこともあるわよね!」

「以前から二人とも距離感がやたらと近いと思ってたのよ」

「は、破廉恥よ! そんなことあるわけないわ! まだ学生なのに!!」


 特に女子からの反応がすさまじいが、彼女らの中では私とこの男の関係はどう見えているの!? 私は割とこの男をはっきりと拒絶してるよね!? この学園の恋愛脳お嬢様たちは眼球腐ってるんじゃない!?


「くっ、だからお前と話すのは苦手なんだ!」

「私は愉しいですけどね。じゃ、行きますか銀華さん」

「あぇ? そ、そうですわね」


 まだざわついてる生徒の中を私の手を引いてするりと抜けていく憂。おおぅ、一度こじらすと頑固でめんどくさいあの男をあっさり御してしまった。その小さな背中に感心してしまう。


「あなたすごいわね、憂。あの男にあんな態度取れる女子なんてそうはいませんわ」

「そうですか? 普通だと思いますけど」


 しれっと何でもないように言う憂。いやいやいや、普通ならあの男にうかつに話しかけると危ないよ。あの男は特別視されすぎというか、普通の生徒なら気軽に話しかけられない。なんかあだ名が【皇帝】とか呼ばれてるし。あと女子からの嫉妬がやばい。婚約者である私でさえ、時々怖いわーって思うもん。

 だけどこの小学生みたいな小さな友人は誰であろうと飄々とした態度を崩さない。それどころか余裕ある態度で手玉にとったりもする。故についたあだ名が【小狸(こだぬき)】である。なるほど、確かに化かしあいが上手そうな小さい狸さんに見えてきた。これでゲームには登場してないキャラなんだからよくわからんものである。


「あ、でもあなたが変なこと言うからわたくしとあの男との関係が誤解されてしまうじゃありませんの!」

「まぁ私も御剣さんと銀華さんの仲がそんなに良くないのは知ってますけど、そこは誤解されていた方が良いのでは? 繋がりがあると思わせてた方が色々と利用できますよ」

「駄目ですわよ! 少なくとも今年からは駄目ですわ! そのせいで非常にまずいことになってますのよ今!!!」

「そうなんですか?」

「今すぐ誤解を解かなきゃいけませんの!! ということでわたくし、もう行きますわね!!!」

「いってらっしゃーい」


 私はでかい旅行用トランクを引きながら、走り去って行った香音ちゃんを追いかけて走っていった。残された憂が軽く手を振りながら、「元気ですねぇ……」と呟いた。

ここらで1話、他者視点(男キャラ)の話を挿入するつもりで書いてましたがボツになりました

悪役令嬢を取り巻く状況を客観視できるのは良かったけど、書いてて「これ百合には邪魔な心情だな」と思ってしまったので……

つい他者視点って書きたくなってしまうんですよね。便利だから。でも余計な情報や秘すべき心情も吐露してしまうので、諸刃の剣なんですよね

あと純粋に男キャラ視点は書きあがった文章見てもそんなに面白くなかったです!

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