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10話

 教壇に立っているエミリー先生がにっこりと笑い元気よく言った。


「早速ですが重大発表がありマース!」


 ん? 重大発表? 何のことだろう。


「今週末にこの天聖院(てんせいいん)学園の中で一泊二日のオリエンテーション合宿を行いマース! 高校から入学したコにとってはこの学園のことをよく知ってもらう機会デスし、内部進学のコも積極的に交流して学園のことを教えあったりして、クラスの親睦を深めてもらいマース!」


 エミリー先生の発表ににわかにざわめく教室。あー、ゲームの序盤であったなぁこのイベント。チュートリアル的なやつね。

  天聖院学園の敷地は広い。めちゃくちゃ広い。小中高大まで一貫の学園だから、生徒数もかなり多い。そしてなんか学園内にサロンとかスポーツジムとかカフェとか色々設備が整っている。はっきり言ってすぐに学園内の全てを把握することは無理なのだ。だから入学してすぐにオリエンテーション合宿を行い、校内を一通り回るのだ。合宿ということで寝泊まりも校内に宿泊施設があるのでそこで寝る。


「とゆーわけで早速班分けを行いマース! 合宿で一緒になる班を決めるデース! 班分けは厳正なる抽選で行いマース!」


 そう言ってエミリー先生は無駄に大きなくじびきボックスをでん!と教卓に置いた。生徒の一人が質問する。


「せんせー! 男女一緒の班なんですか!」

「一緒デース! もしかしたら憧れのあの人とも一緒になれちゃったり、合宿を通して深い関係になっちゃうカモデース!」


 ノリノリのエミリー先生の発言に、教室のどよめきが大きくなる。


「それって、期待しちゃっていいのか!?」

「女子! 女子と一緒の班!?」

「わたしタイガくんと一緒の班がいい!」

「うちのお父さん過保護だから、合宿認めてくれるかな……?」

「というか銀華様も一緒に合宿するのか? すごいところのお嬢様なのに」

「せんせー! 寝泊まりも一緒ですかー!」


 どうやら教室中めちゃくちゃ盛り上がってるようだ。ふふん、どうやら私の名前も話題に上がってるわね。ふふん、やはりこれほどの美少女は世界が放っておくわけがない。私はちらりと香音ちゃんの方を見ると、彼女もすごい戸惑っているようだった。


「残念ながら同じ班といえど男女一緒に寝泊まりはありませーん! 男子は男子、女子は女子で一緒に寝てもらいマース! 警備は万全デスので夜這いも禁止デース!」


 まぁそりゃそうですわ。いくら乙女ゲームといえど学内でそんなこと許すはずがない。だが、同性であれば一緒の部屋で一緒に寝泊まりすることになる。もし、香音ちゃんと一緒の部屋になったなら……!? 私はドキドキする心臓を押さえつける。


「というわけでドキドキの抽選タイムデース! 前の人から順番にくじを引きに来てクダサーイ!」


 ぞろぞろとクラスメイトたちがくじを引きに行った。私も立ち上がり、くじを引きにいく。どうか香音ちゃんと一緒の班になりますように! ふと、隣にいた(ゆう)が幼い顔立ちとはアンバランスな、こちらのことを見透かすような目をこちらに向けて言った。


「あの子と一緒になりたいですか?」

「ふぇっ!? あの子って、だっだだだれのことかしら?」

「ふふふ、誰のことでしょうね」


 不敵に微笑む憂。その目はこちらの心情などお見通しと言わんばかりであった。ぐぬぬ、憂が現時点で私が香音ちゃんを好いていることに気付いてるとは思えない。名前も言ってないし、カマかけただけだよね? こいつはいっつも思わせぶりなことを言って意味深な雰囲気を出すやつなのだ! あれ? でも『あの人』じゃなくて『あの子』って言ったから、相手が男子ではなく女子であることに気付いてるのか!?


「ゆ、憂もわたくしと一緒になれるといいわね!」

「え? それに関しては、私はどっちでもいいです」


 私に対してそんな塩対応取る!? 友人じゃないのか貴様!

 そして私がくじ引きに行くと、ニッコニコのエミリー先生が出迎えた。


「トキミャーはベリーkawaiiですからネ! アナタと一緒の班になれる人はとってもラッキーデース!」


 ほら、エミリー先生もべた褒めでしょ? まったく、憂も普段からわたくしの友人である幸福を噛み締めるべきではないかしら? ていうかエミリー先生、トキミャー呼び気に入ってません? わたしは朱鷺宮。と・き・の・み・やですわ

 エミリー先生が差し出してきたくじ引きボックスが妙に威圧感を放っている。はて、私が引く頃になって教室中がなんか急に静かになったような……ハッ!? この空気、私注目されてる!? それはそうだよね。こんな乙女ゲー世界にも通用するワールドクラスの朱鷺宮銀華の美しさ、まさに罪。みんなが私を巡って争いを起こす未来が見えますわね!


「いいから引いてくださいよ。次私なんですから」

「わ、分かってるわよ」


 後ろにいる憂が急かしてきた。どうやらさっさと済ませて席に戻りたいらしい。むぅ、もうちょっとわたくしに関心持ってもいいんじゃないのこの子! 失ったときに私の大切さに気付くときがくるわよ!

 私は目を閉じて深呼吸をし、くわっと目を開けてボックスの中に手を勢いよく突っ込んだ。ディスティニードロー! 私は香音ちゃんと一緒のクラスになってみせる!!

 ガッ! 私に触れた紙の感触! なんかこれ紙のつや感が違う気がする!! これが当たりだー!!


 私は引いた紙を空にかかげると、金ぴかの色紙の裏地にシュールなこけしの絵が描いてあった。


「おー! おめでとうございマース! トキミャーはコケシ班デース!!」


 は? なにこれ? 普通班分けって数字とか書いてるんじゃないの? その後さっさとくじを引いた憂が内容を見せてきた。


「あ、私はトカゲでした」

「おー! アソキュンはドラゴン班デスネ! つよいデース!」


 こ、こけし? ドラゴン? なんだこのカオスな班分け? 共通点が全くないんだけど。というかエミリー先生は阿生あそう ゆうのことをアソキュンって呼んでるのか。キュン要素どこに出てきた? 憂はトカゲにしか見えないデフォルメされた可愛いドラゴンの絵をしげしげと見て言う。


「銀華さんはこけし班、私はドラゴン班……つまり私達は別の班になりますね」

「ああ、そういうことなの?……残念ね、アソキュン」

「変な名前で呼ばないでくださいトキミャー」


 お互い冗談めかして言ってるけど、憂と離れるのは私的にちょっと不安である。うぅ、初対面の相手と仲良く出来るかしら……? いや、いままで友達出来なかったから憂という変人に付き合ってるんだけど。ええい、弱気になるな私!!!

 というかそんなことより重要なことがある! 香音ちゃん! 香音ちゃんはどこ班なの!?


 私が香音ちゃんの方を振り向くと、たった今くじを引いた香音ちゃんがくじを見てびっくりした顔をしていた。私が遠目で見るとそのくじの絵柄はこけしが描かれている……えっ、こけし!? こけし!??

 えと、香音ちゃんがこけしってことは、私の引いた絵柄と同じだからこけし班ってこと!? つまりどういうこと!? 一緒の班なの!?!?


 私は理解がいまいちできず、班分けのくじを持ってふらふらと香音ちゃんのところに歩いて行った。すると香音ちゃんは振り向いて、はにかんだ笑顔でこう言った。


「あの、一緒の班みたいですね、銀華さん。合宿中はよろしくお願いしますっ!」


 はう、向こうから話しかけてきてくれた。かわいい。……ていうか、え? まじで? いいの神様? こんなにあっさり私の願いを叶えちゃって??? 私はこけしの描かれたくじをギュッと握りしめて言う。


「こ、こちらこそよろしくお願いしますわっ!」


 正直テンパってたけど、なんとか表情に出さずに返事をすることは出来た。

 やったああああああ! やりましたわあああああ!! 香音ちゃんと一緒に合宿だああああああ!! Dクラスに降格してよかったああああああ!!!

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