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魔法少女が異世界にやってきました!  作者: そら・そらら
第2章 炎の魔法少女

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2-40 人身牛頭

「確実にそうってわけじゃない。だけど疑う意味はある」

「ギル……」


 背中側から、ヒカリが気遣わしげに声をかけた。


「あんまり親しい人とか、優しい人を疑うのもよくないよ」

「うん。わかってる。ヒカリが心配してくれて嬉しい。だけど、僕は大丈夫」


 故郷で実の姉に裏切られていたことは、たしかにショックに思うことはあった。ヒカリが心配しているのはそこ。

 安易に人を疑うのはよくない。心が歪みかねないと思ってるのかも。


 けど大丈夫。

 振り返って、ヒカリの手を掴む。


「ふあっ!?」

「ヒカリやみんなと一緒だから、本当に信頼できる相手がいるから、僕は大丈夫。……もし違ってたら、カミリアさんには謝らないとね。でもそれまでは、可能性は考えてなきゃいけない」

「う、うん。そうだね。わたしもそう思う……」


 ヒカリは、なぜかしどろもどろになりながら答えた。

 いつもはヒカリの方から手を握ったり抱きついたりしてるのに。変なの。


「ねえギルー! カミリアの所にいくなら、そこにフレアもいるかもしれないでしょ? 協力関係にあるかもしれないんだから。ねえねえ。あの女はどう思う?」


 リーンが僕の背後に回って、腕を回して抱きつくように体をもたれかけさせながら訊いてきた。


「あの女にもう一回結婚を迫られても、ちゃんと断れるわよね? ヘテロヴィトともカミリアさんを通じて繋がってるんだから。でももし、ギルの心が揺らぐかもって心配なら、大丈夫よあたしが先に婚約を痛い!」

「その話、今じゃなくていいでしょ? それで、カミリアさんの所に行くの?」


 ヒカリがリーンの頬をつねりながらした問いかけに、全員が頷いた。


 見当違いのことしてたら、また別の場所を探そう。けどやってみる価値はある。


 窓の外を見る。空は白み始めていた。

 もう少し休んでから動き出すことにしよう。



――――



 外で、壁に寄りかかって座るだけで深い眠りにつけるはずがない。

 フレアは短時間で目を覚ました。

 空は白んでいる。


 これからどこに向かおう。家に帰ったら、家族は迎え入れてくれるだろうか? わからない。だから帰るのには抵抗がある。


 カミリアは、姉と名乗るあの女は、フレアのことを迎え入れてくれるだろう。

 けどそれをすれば、家やこの街の富裕層と対立することに繋がる。フレアにはまだ、その決心はついていない。


 とはいえずっと外にいるわけにもいかない。落ち着ける場所に行かないと。


 とりあえずカミリアの所に行こう。

 どこにいるんだろう。昨日馬車が停まっていた、中の見えない建物だろうか。


 場所はわかっている。とりあえずあそこに行ってみよう。



――――



「臓物ばかり食い飽きた。肉をよこせ」

「与えているはずですよ?」

「少ない。牛一頭分の肉を食いたい」


 薄暗い屠殺場の中で屠ったばかりの牛の腸をかじりながら、人身牛頭の怪物が不平を言う。

 それに返事をしているのはカミリアだ。


「俺は美味い牛を食えるから、お前たちに協力をしている。だから肉をよこせ」

「まったく……うちの肉は安くないのです。それだけ美味ってこと。あなたが食べている臓物だって、そこらの牛と比べてずっといいものです」

「だが、お前の客は食わないだろう?」


 怪物は、今度は洗浄された牛の胃にかじりつく。その隣には脳が。さらに、中の髄を啜るために割られた骨が転がっている。


 これらもたしかに食えるもの。

 だがカミリアの牧場の顧客は金持ちばかりで、奴らは品格を重視する。肉は食うが、臓物は気持ち悪いと手を出そうとしない。


 どうせ捨てられるならと、半人半獣の怪物の餌としたけれど、向こうはそれが不満らしい。


「いいか。俺はお前たちのために動いてやる。金持ち連中への不満を晴らすため、屋敷を手下に荒らさせろと言うならやってやる。だがそれには体力がいる。だから肉をよこせ! 大量のだ!」


 口を開けて、食った臓物の血でまみれた口内を見せながら、怪物は威嚇する。


 本当にこの怪物は。普段相手している家畜としての牛よりも、ずっと始末が悪い。

 牛に、こうもはっきり物事を言われるとは。


 どうしようかとカミリアが返答を迷っていると、別の声が助け舟を出した。


「いいだろう。カミリア、欲しがるものをあげなさい」

「お父様」

「いいんだ。目的のためだ」


 カミリアの父、この屠殺場や牧場の持ち主である初老の男が奥の方から出てきた。

 隣にはその妻、カミリアの母もいる。


「だが、肉を与える前に言っておかなければならない。私たちが富裕層に攻撃を仕掛けるのは、単なる嫌がらせのためではない。私たちが受けた屈辱を晴らすため。そして、この牧場を再び私の物となるよう取り戻すためだ」

「そうか。だがやっていることは同じだろう? 俺に金持ちの屋敷を襲わせる。それから、この娘にこそ泥をさせる」

「私たちの目的のためよ。あなたは黙って従いなさい」


 母の言葉に、怪物はふんと鼻を鳴らすだけ。小馬鹿にして、返答はしない。


 これが仲間か。

 こんな怪物に、牧場の行く末を担わせるのか。


 カミリアは不安を覚えるけど、両親の意向なら従うしかなかった。

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