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2-38 金持ちの考え方

 覗き見は断念して、しばらく外で待っていた。

 やがてカミリアは再び出てきて、馬車を動かす。


 荷台に牛は乗っていなかった。


 再度後をつけると、今度は高めの宿屋に馬車が止まった。

 そしてカミリアが、あの魔法少女や冒険者たちと親しそうに話しているのを見た。


 両者の関係は知らない。

 けどフレアは、動くとしたらここではないかと考えた。


 カミリアの考えはわからない。だけどあの冒険者たちは、考え方は普通の庶民のはず。その意味では裏が無く信頼できる。


 狙うのはギルという少年。出力異常ながら、ルミナスという魔法少女に十分な力を与えられる能力を持つ。


 魔法少女として強くならないと。


 カミリアと協力するにしても、このまま金持ちとして生きるにしても、ブレイズが誰にも負けないほど強くなければいけない。

 だからギルの力がほしい。


 カミリアたちが話し込んでいる間に宿に侵入して身を隠した。

 ギルたちには監視がついてたけど、それがいなくなった隙に声をかけた。



 それで失敗した。きっぱり断られた。寄る辺がなくなった。



 なにかの建物にもたれかかって座りながら、天を仰ぐ。

 これでまた、今後の方針がなくなった。どうしたらいいのだろう。


 また夜になっている。寝るべきだろうか。また、路上で。


 目を閉じたら、よりによってあの少年の顔が浮かんでくる。

 ギルバート。フレアを拒絶した子供。なのに去り際、こちらを気遣うような顔を見せた。


「くそっ。なんであんな奴のことが……」


 取るに足らない冒険者身分のはずなのに。元金持ちだから? 力があるから? それとも……。


 自分の気持ちがわからないままに、フレアはそのまま眠りに誘われた。



――――



 この前と同じ。三つあるベッドの分配でちょっとだけ揉めた後、僕は眠っていた。

 今夜も、ヒカリとリーンが同じベッドということで決着になった。


 けれど真夜中に目覚めてしまった。

 寝られなかったのは、今も部屋の外で僕たちを監視してる城の人間への警戒心だろうか。それとも、フレアやヘテロヴィトの所在が気になったのだろうか。


 寝られないなら、見張りの誰かと交代してあげるべきかな。

 そう考えて、周りを起こさないようそっと周囲を見回した。


 今の見張りはヒカリ。窓辺にこしかけて、室内をなんとなく見回していた。


 声をかけようとして、やはり起きてたらしいリーンに先を越された。


「ねえ、さっきのフレアのことだけどさ」


 僕たちを起こさないよう小声で話すリーンに、僕は口をつぐんで眠るふりをしてしまった。


「どうしたの、リーン? 寝なくていいの?」

「寝られなくて。それよりフレアのことよ。あの子どう思う?」

「どうって……手がかかるなーとか。わたしと同い年ぐらいの割には、落ち着きがなくてガキっぽいなーとか」

「落ち着きがなくて子供っぽいのは、ヒカリも同じだけどね」

「ちょっと!? ……それ、どういうことかな?」


 ヒカリは一瞬だけ大きな声をだして、寝てるはずの僕たちに気を使ったのか声量を下げる。


「ふふん。そういうところよ。すぐにムキになるところとか。ギルの事になると、特に」

「なんでここでギルが出てくるの? それに、ギルにこだわるのはリーンも同じでしょ?」

「それは……まあそうだけど。仕方ないでしょ。あたしのギルなんだから」

「だからリーンのじゃないってば……わたしだって、勝手に弟扱いして守ろうってしてるから、人のこと言えないけど。ギルには悪いことしてるかなって」


 別に気にしてないんだけどな。

 それを伝えるために起きるべきか悩んでいるうちに、リーンがまた話す。


「ヒカリの気持ちもわかるわ。それで、フレアに話を戻すけど……ギルがフレアに惹かれて、ふたりが……その、結婚するってありえると思う?」

「ないない。絶対ない。ありえない。ギルがあんな女を取るなんて、ないから」

「ギルがお金持ちって立場になることに、なんの興味も示さないと思う?」

「それは……」


 ヒカリは言葉に詰まっていた。


 この街に入る前にも、少し話題になっていた。

 僕は本当に、金持ちという立場に興味がないのか。


「ギルは名門の生まれ。今みたいに旅に出てるのは、特殊な体質だったから。出力異常さえなければ、ギルは今ごろ家柄にふさわしい暮らしとふるまいをしている。お金持ちの次男としてね。……もしかしたら、あたしと婚姻話とかできてるかも」

「そういうのいいから。ないから」


 呆れた目を向けるヒカリに、リーンはちょっとだけ笑った。


「ありえるかもしれないわ。お金持ちってそんなもの。家同士の繋がりのために結婚する。結婚はね、家の繁栄のための手段なの。フレアが提案したのも同じ」

「……そう。なんか嫌だな」

「ええ。あたしも嫌って思う。だから家を飛び出したの。ギルのためなら考えてもいいけど。……とにかく、ギルもお金持ちの出身。そういう考え方は持っているはず。好きかどうかは別としてね」


 リーンに淡々と説明されて、ヒカリは俯いた。考えたくないのだろうな。

 けど、リーンは続ける。


「ギルの気持ちはわからないけどさ。お金持ちになりたいって誘惑はあってもいいと思うのよ。そのために、結婚って手段を選ぶかも。ねえヒカリ。本当にそうなったら、どうする? ギルの意見を尊重してあげられる?」

「それは……」


 顔を上げたヒカリに、迷いはないように思えた。


「そもそも、ギルはフレアの誘いをきっぱり断ったでしょ? だからギルがそんな選択をするとは思わない。それに……ギルが本当にお金持ちになりたいなら、リーン。あなたと結婚を考えた方が手っ取り早いでしょ?」


 リーンの質問には直接答えていない。

 けど、リーンも納得した様子だった。

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