2-36 思わぬ提案
もちろん、はいそうですかと聞き入れるわけもなく。
「フレア? あなたがまだ城に突き出されてないのは、わたしたちが優しいからなの。わかる? その気になれば、あなたは城の兵士に捕縛される。街の人たちの顔を焼く魔法少女なんて放っておけないから。その力も興味深いし。あなたはそのブレスレットを取り上げられて、単なる無力な女の子に逆戻り」
「清々しいまでの脅迫ね。自分で優しいとか言ってて、聞いて呆れるわ」
「そこ! リーンうるさい!」
「はいはい。ヒカリは優しい優しい。すっごく優しい」
「なんか言い方に棘があるんだけど!?」
「まあまあ。ふたりとも落ち着いて。フレア、これは君のためなんだ。君は誘拐されて、そして今こうやって無事でいる。城がこの状況を見ればどう思うかな? フレアが、誘拐をした覆面の人物と協力関係にあると思われるかも」
ふたりは共謀関係にあるから、フレアは無事に解放された。
フレアが無事でいる理由は僕にもわからないけど、可能性のひとつとしてはある。
もちろん、本当にそうだとは思ってないけれど。
ところが僕の言葉を聞いたフレアは、ビクリと大きく体を震わせた。
「ち、違う! アタシは……逃げてきたんだ! あいつが長々とわけのわからねえ話ししてる隙に、逃げたんだ!」
「…………」
わかりやすい反応。
普通に考えれば、確かにフレアが単独で逃げたという流れの方がありそうだ。
だけど目の前のフレアは、声はうわずりこちらをまともに見れていない。明らかに嘘をついている。
まさか、本当にあの覆面の人物と共謀してた? ヘテロヴィトと連携していた人物と?
でも、フレアはミーレスと本気の戦闘をしていた。あれはなんだったのか。
「あ、アタシの話は別にいいだろ! それより、お前だお前!」
僕たちの疑念を振り払おうとするかのように、フレアは強引に話題を変えた。
僕をまっすぐ見据える。たぶんこれが、フレアが話したかったこと。
「なあ、ギルって言ったか? お前、アタシと組まねえか?」
「え?」
予想もしていない言葉が放たれた。どういうことだろう。
「アタシと一緒に魔法少女として戦わないかってことだよ。この女じゃなくて、アタシに魔力をくれ」
「でも、フレアは既に魔力を持ってるでしょう?」
「それは……そうなんだけど、なんか恥を話すみたいで恥ずかしいな。魔力、低いんだ。家族と比べて。持ってる魔力量が低い。生まれつきらしい」
「そっか。それは大変だよね。辛いよね」
生まれつきの体質で家族と比べて劣っていると思い知らされる。
その辛さは僕もよくわかっていた。だからフレアが悔しそうに語るそれに、反射的に同情してしまう。
僕が思いのほか優しい声をかけたからか、フレアは目に見えて表情を明るくした。
「だよな! だったらアタシと組もう! その方がギルにとってもいいと思うんだ!」
「そ、それはどうかな……。今のところ、ヒカリと一緒でなんの不満もないっていうか」
「だったらこういうのはどうだ? ギル、アタシを嫁にしてくれ! 金持ちの家に入れてやる!」
「ちょっと待ったー! ギル! こんな奴の言うこと聞いちゃ駄目!」
「そうよ! こんな奴と組むはずないって高くくってたけど、ちょっとそれは聞き捨てならないわ!」
嫁って言葉が出た途端、ヒカリとリーンが慌てたように口を挟む。
けど、フレアの方は特に気にしておらず。
「なんだよふたりとも。急に慌てて。なあギル。こんな奴らよりアタシの方がいいと思わねぇか? バレンシアの家に婿養子に入れば、危険な冒険者稼業なんかより安全な暮らしができる。贅沢もできるしな」
「でもでも! 冒険者の方が楽しいから!」
「そうよ! それに冒険者だって、いい依頼をこなせれば贅沢できるし! だからギルはあなたなんかとは組まない! 組ませないから!」
「よしリーン! ふたりでこの女、ボコボコにしましょう! 二度とギルを口説こうなんか思わない程に!」
「乗ったわ! 死なない程度にボコって城に突き出すわよ! って! なにするのよシャロ! 離して! わたしはこいつを殴らなきゃいけないの! 止めないで!」
「やめてください、ふたりとも。ライラ、ヒカリさんを捕まえて、フレアさんから離してください」
「はーい。ヒカリ。ちょっと、おちつこ?」
「ライラちゃん離して! 一発だけ! せめて一発だけ殴らせて! 武士の情け!」
シャロとライラにそれぞれ羽交い締めにされて、強引にフレアから離されるふたり。
武士の情けってなんだ。
ヒカリもリーンも、その気になれば拘束を抜け出せるだろう。力も体格もそれぞれ上だし。
だけど離されるままになっているのは、シャロの言ってることが正しいとわかっているのかな。
それとも、僕のことを信頼してくれてるのか。
「フレア。あなたの気持ちはわかりました。でも、僕はフレアと組む気はありません。フレアと結婚する気もない。これまで通りヒカリに魔力を渡して戦う。冒険者として生きる」
フレアの目を見て、きっぱりと言い切った。
勢いで僕を誘ったフレアの表情は、みるみるうちに沈んでいく。
隠し事のできない子だな。よくわかる。
なんで急にこんなことを言い出したのか、フレアと覆面の人物の関係はなんなのか、わからないことだらけ。
もしかしたら、悪い誰かに騙されてるのかも。
だけどフレア自体は、バカなだけで悪い子じゃない。それはわかった。
「そうか……そうか。もし気が変わったら、またアタシに声をかけてくれ。邪魔したな」
そう言ってフレアは力なく立ち上がり、窓の方へ歩く。
ここは建物の一階で、窓から出入りもできなくはない。
「どこに行くの? 屋敷に帰る?」
「いや。帰りたくない。ギルがアタシと結婚するなら、家の意味もあるから帰ろうかとも思った。だけど今は駄目だ」
「じゃあ、どこか行く場所が――」
振り返ったフレアの表情を見て、口をつぐんだ。
泣きそうな、寂しさに押しつぶされそうな顔。
帰る場所なんてない。そう訴えかけていた。
「アタシは、これから何をすればいいんだろうな?」
そんなこと僕にはわからない。フレアも答えを期待していたわけじゃない。力なく窓に向き直る。
「じゃあな。気が変わったら、アタシに声をかけてくれ。街のどこかにいるから」
そう言って窓から出ていった。
待って。そう声をかけることはできなかった。僕はフレアに何もしてやれない。




