2-35 不意の再会
「あくまで推測ですけれど、ヘテロヴィトには協力者がいるはずです。そして、どこかに匿われているために見つからない」
薄くスライスした肉をフォークで刺しながら、シャロは考えを口にする。
「それは、だれ?」
「フレアさんを攫った、あの覆面の人間です。あの人は明らかにミーレスと連携していました」
その意見は正しそうだ。
例の覆面は、ミーレスが暴れまわる最中にフレアに近づいていった。協力関係にあると見て間違いない。
人間と協力関係にあるヘテロヴィトに、特に驚きはなかった。
「覆面の人物の正体については、わかりません。フレアさんに接触する動機も不明です」
「魔法少女の力が欲しかったとか? ほら、わたしたちの力ってヘテロヴィトにとっては天敵みたいなものだから。逆に手に入れれば強いとか考えたり。だから狙ってきた」
そんなヒカリの意見も、考える余地はあると思う。
けどヘテロヴィトや覆面が、魔法少女がその場にいることを知った上でミーレスを暴れさせたのかどうかは不明だ。
「動機としては、お金持ちに恨みがあるから攻撃した、とかの方が強いんじゃないかしら」
「はい。わたしもリーンさんの意見に同意します。フレアさんは、あくまでついでかと。……魔法少女の力に興味を持ったこと自体はありえるので、ヒカリさんの意見も間違っているとは思いません。計画的か偶発かの違いですね」
「えへへ」
「ヒカリ、かしこい」
「だよねー。もっと褒めて!」
仲のいいヒカリとライラは放っておいて、話の続きだ。
「覆面がヘテロヴィトを匿っているとして、それはどこだと思う?」
「今のところはなんとも。お金持ちに恨みがあるなら、さっき領主様に言ったような屋敷の中ということはないでしょうね。商人もお金持ちの部類に入りますし、可能性は低いかと」
つまり、領主様の命を受けている兵士たちは、今ごろなんの成果もでない場所を探していることになる。
金持ちの屋敷に関しては、無駄な軋轢を生む危険を冒しながら、いるはずのない怪物を探していることに。
ちょっとだけ同情する。本当にちょっとだけね。
「街を出入りする全ての荷台を検査すること自体は、街からヘテロヴィトを出さない意味では効果はあるはずですけどね……」
シャロが言いながら、隣のテーブルに目を向けた。
僕たちの監視係兼連絡係の職員が、慌てたように席を立つ。
僕たちの会話を常に聞いていて、まずいと思ったのだろう。捜索の方針を変えるよう誰かに伝えに行ったのかな。
「真面目な人だとは思いますよ。だから信頼できます」
シャロはそう言ってるけど、ため息混じりだった。
彼が離席してる間、僕たちの監視をする人間がいなくなる。
気楽でいいのだけど、こういう仕事は本来なら複数人でやるべきじゃないかな。
人手不足なんだろう。別にいいさ。監視が途切れた間になにかしようって企んでるわけでもないから。
「なあ。ちょっといいか?」
その時、こちらに話しかける声。聞き覚えのあるぶっきらぼうな言葉遣い。
この場にいるはずのない人間の声。フレア・バレンシアが僕たちのテーブルの傍らに立っていた。
昨夜見たときのドレス姿と違って、ずいぶん粗末な格好をしていた。けど間違いない。フレアだ。
「なっ!? フレアあなたなんむぐっ!?」
「騒がないでくれ……話したいことがある」
反射的に声をあげたヒカリの口を塞いだフレアの態度は、口調こそ粗雑だけど遠慮の色があるようにも思えた。
誘拐された被害者とはいえ、市民の顔を焼いていたお尋ね者。探されている状況で、どうやらフレアは見つかりたくないらしい。
フレアと敵対してるみたいな関係だった僕たちが、こうやって街の支配者層と協力関係にある。
フレアとしては慎重に動かなきゃいけないと思っているのだろうな。
「わかった。今のうちに部屋に戻ろう。あの男が帰ってこないうちに」
このままフレアを城に突き出すより、少しだけ話を聞いたほうがいいと考えた。みんな、僕の提案に同意する様子だ。
フレアのことをどこまで信頼しているかは、それぞれに差はあるだろうけど。
大急ぎでフレアを部屋まで送っていき、シャロだけ少し遅れる。
戻ってきた監視の男に、食事が終わったから部屋に戻るとだけ伝えて、ヒカリたちの後を追いかけた。
奴らもさすがに、部屋の中までは監視しないはず。見つかったら、その時はその時だ。
「それでフレア、連れ去られてから何があったか教えなさい」
フレアは部屋の中で椅子に座らされて、さらにヒカリやリーンに両側から睨みをきかされている。
逃げたり抵抗を試みたりするのを防ぐためかな。
フレアの方から接近してきたわけで、今さら極端な敵対行動は取らないと思うけど。
「……話せねえ」
ヒカリからの質問に、フレアはそっぽを向いて答える。
フレアはさっき、話したいことがあると言っていた。
ところが話題にしたいのは、自分に起こったことではない、別のことらしい。




