表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/874

2-32 金持ちの街とヘテロヴィト

 こちらが知っていることは、先日司政官に話たこととほぼ同じ。


 違うことは、それ以降にあったことを追加したぐらいかな。

 つまり新たな魔法少女、ブレイズの正体についてだ。


 それも司政官の口から、昨夜の時点で領主様には伝わっているらしい。あれでいて、ちゃんと伝言はしてくれたのか。


「バレンシアの娘か……」

「ご存知なのですか?」

「いいや。フレアという名前は聞いたことがあるが、面識はない」


 この街にもお金持ちは大勢いる。バレンシアの当主は城で働いているから知っていたとしても、その家族それぞれを把握してるわけではないだろう。

 領主はそんなに暇な仕事ではない。


「フレアさんは誘拐されたのですが、城は行方を把握していますか?」


 シャロの問いに、領主様は力なく首を横に振る。


「探しているが、行方がわからない。バレンシアの家にも戻っていない。フェリクスに尋ねたが、行きそうな場所に心当たりはないそうだ。……奴も心配していた」


 お金持ちでも親は親。子供を心配する気持ちはあるらしい。


 失われたと思われていた、魔法少女の力の行方を気にしている可能性も否定できないけど。


 フレアが毎夜外に出て、街の中で暴れていたらしいことも話す。

 噂になっている泥棒を捕まえるのが目的だけど、それに便乗した輩の顔を焼くことに始終してたことも。


 金持ちばかりを狙う泥棒の存在に、領主様も懸念していたらしい。

 だから対策をしたのだろうけど、思わぬ方向に問題が波及したことに頭を痛めている様子だ。


 しかもそれに加えて、昨夜は牛が大暴れした。


 問題は山積で、多少なりとも事情を把握している僕たちに助けを求めたくなる気持ちもわかる。


「お前たちは、例の牛の怪物について知っているな? 昨夜、正体不明の牛が暴れて、我々はその死骸の回収に多くの人手を割かねばならなかった。……異様な姿の牛ばかりだったため、見る者に恐怖を与えた」


 単眼だったり体のバランスがおかしかったり頭がふたつ付いていたり。確かに、見るだけで恐ろしいと思えるだろう。


 恐れたのは回収にあたった兵士だけじゃない。牛の死骸は金持ちばかりが集まる場所に転がっている。


 領主様の説明によれば死骸だけでなく、バレンシアの屋敷と同じように、生きた牛が他の屋敷に押しかけて暴れまわった例もあるそうだ。


 この街の上層部や名士たち。あるいはその家族に多大なる恐怖と衝撃を与えた。


 怪物がこんな所で暴れた。また家が破壊されるかも。今度は命が脅かされるかも。そんな不安が広がっている。

 ただでさえ、泥棒騒ぎで気が立っている最中なのに。


 事態の収束を急がせようと、城に圧力がかかっているのかも。

 被害に遭った金持ちも、その城に属する者が多いだろうけど、それ故に彼らの心労は重くなる。


 街の指導者層が混乱状態に陥りかけていた。


「お前たちは、あの怪物を知っているのか? 対処する方法はあるのか?」

「昨夜暴れた牛は、ミーレスと呼ばれています。ヘテロヴィトという、半人半獣の怪物が生み出す尖兵です。生み出しているヘテロヴィトを殺さない限り、ミーレスは再び現れるでしょう。そして……わたしはヘテロヴィトに詳しい動物学者で、わたしたちは複数のヘテロヴィトの駆除に成功しています」


 シャロはこともなげに言ってのけた。それは間違いなく真実。領主様も部屋の中にいた城の職員も、少し驚いたように目を見開いた。


 僕たちが有用だって悟ったかな。


「ミーレス? ヘテロヴィト……それは一体。半人半獣とは」

「詳しく説明いたします」


 僕の故郷と同じように、この街でもヘテロヴィトの存在は知られていないようだった。

 割と大きな街だけど、動物学に詳しい人間はいないのだろうか。


 シャロが驚いていないのを見るに、別に珍しいことではないのかも。



 シャロの説明は、僕たちも前に聞いたことがあるものと同じ。


 領主様は、信じがたいと考えつつも見た事実と相反しないことに苦悩しているように見える。この反応も見覚えがあった。


「それは本当なのか? そんな怪物がいるのか……」

「ええ。実在します。この街には動物を研究する学者はいないのかもしれませんが……図書館はあるでしょう? 記述がある本は見つかると思いますよ」

「そうか。わかった。信じよう。それで、どうすればいい? どうすれば事態を収拾できる?」


 原因がなんであれ、それが彼の重要事項。

 人食いの怪物が街に潜んでいるなど、考えたくもないだろう。早めに殺さなければ。


「探し出して殺す。それだけです。ミーレスが出現した以上、ヘテロヴィトは街のどこかにいるのは間違いありません。人目につくとまずいでしょうから、隠されているのでしょう」

「それはどこだ?」

「さあ……前にあった件では、商人の荷台に隠れていたというのがありましたけど。あとは、お金持ちのお屋敷とか」


 その屋敷とは僕の家、僕の部屋だ。家族もあまり寄せつかない僕の部屋が空いたから住みついた。

 かなり特殊な事例だけど、領主様にとっては衝撃的な言葉だったらしい。


 なにしろ、ミーレスは金持ちの屋敷が並ぶ場所に出てきたのだから。

 屋敷のどこかに潜伏したと考えるのは無理ない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
面白ければクリックお願いします。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ