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魔法少女が異世界にやってきました!  作者: そら・そらら
最終章 同盟の最後

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15-44 本部の二階

 建物を壊せば外になるから実力を発揮しやすくなるというアースの作戦の穴は、上から建物を押しつぶしてもそこが更地になるわけではないという点にあった。


 床はそのまま残るし、崩れた天井や屋根も落ちてきて瓦礫となる。波の威力の凄まじさだけは本物で、二階建ての建物の一部を完全に押し潰していた。

 つまり、建物の断面が見える状態。一階と二階の境目もよく見えて、建築士を志す者にとってはいい見本になりそうだ。


 アースは建物の入口がある場所を狙って潰した。正面入口ではないにしろ、小さな扉があったらしい。

 それもぺちゃんこに潰れ、その上に崩落した二階と屋根が落ちてきて、木材の残骸の山のどこかにあるはず。

 山はまるで斜面のようになっていて、建物の一階部分を半分覆っていた。


「入り辛いわねー」

「うん。アースのせいだねー」

「かんがえなしにやるから、こうなるのかな?」

「アースなりに考えてたのよ。ちょっと足りなかっただけ」

「えへへー。反省反省」

「本当に反省しているのでしょうか……」

「まあまあ。みんな行こう。二階から入って、どこかから下に降りよう」

「ハーピー、あなたは室内で戦えそう?」

「難しいと思う」


 テンペストとハーピーの会話が聞こえた。空を飛ぶ能力も屋内では使えない。


「テンペストとハーピーは外の警戒をして。森に逃げたヘテロヴィトが戻ってこないかと、窓から中を見て敵の捜索。倒せそうなら倒していいけど、無理そうなら大きな音を出して誰かを呼んで」

「うん。フローティアとかがいれば、ね。捕まった人も探してみる」


 そう言って、テンペストはハーピーに跨って舞い上がった。


 僕たちは瓦礫の斜面を苦労して登りながら建物の二階に向かう。

 斜面が二階の床に届いてないから、登るのも一苦労だ。一階の方に降りるにしては、斜面の頂点が高すぎるし。

 魔法少女の跳躍力なら、なんとかなるかな。斜面が崩れる危険もあるけど。


「ギル。一番最初に跳んで」

「いいけど。なんで?」

「ギルのスカートの中が見たい」

「よしルミナス、手を繋いで一緒に跳ぼうか」

「あー。それも嬉しい。ギルってばわたしの喜ばせかた、わかってるー」


 なんて馬鹿みたいな会話をしながら、全員が二階の床に立つことができた。

 その間、敵襲はなかった。これだけ大きな音を立てたのに、誰も駆けつけてこないということは。


「解き放たれたヘテロヴィトや怪物は、みんな逃げたのでしょうね。この施設の中に留まっていた者も、今の騒ぎで離れた。建物内のどこかに隠れている可能性もありますが」

「だったらいいね。残る敵はフローティアだけ。ほとんどヘテロヴィトみたいな状態になったけど、ひとりだけなら後は楽だ」

「逃げた怪物どもの後始末も必要ですけどね。それはまあ、各地の軍隊に放り投げてもいいですけど」


 話しながら廊下を歩く。先頭は僕とルミナスだ。


 細い廊下だけど、魔法少女で非魔法少女を囲むような隊列は組めた。それぞれ、周りを警戒して歩く。


 敵の姿はない。けど、あちこち血まみれで死体も多く転がっていた。

 血は既に乾いていて真っ黒になっている。死体も死後何日も経過していて、腐敗が進んで蝿がたかっていた。酷い臭いだ。


 ここは建物の二階。人間はともかく、狼がいることは普通じゃない。つまり、なにか特殊な出来事があったということ。

 フローティアがミーレスを大量に放って、建物中の人間を殺して制圧を試みたとかだ。


「周囲の街に被害が拡大してから何日も経っています。こうやって拠点が壊滅した際に出来た死体も、これだけ腐敗しているのは当然ですね」


 シャロは死体の様子を見ながら状況を読み取ろうとしていた。あまり有益なことはわからない様子だけど。


「腐敗しすぎて、死後の経過時間も推測できません。元がなんの動物だったかも、大まかにしかわからないです」

「人か人じゃないか、とか?」

「ええ。人じゃないのは、狼に見えますね。奇形のある無しが判別できないので、ミーレスなのかはなんとも」


 野生の狼がここまでやってきた可能性はある。死体食いとかの目的だ。すぐに、ここで飼育されていた巨大狼に追い散らされたことだろうけど。

 しかし、フローティアは狼のヘテロヴィトと融合させられミーレスを呼び出す力を得たという。それの可能性の方があると思えた。


「みんな、静かに。足音が聞こえる」


 不意に、アイアンが小声で警告。すかさずシャロが床に耳をつけて足跡を聞く。


「人間ですね。二本足で歩いています。ひとり。体重はそれなりにあるはずです。足取りはあまりしっかりとはしていません。ですけど急いでますね」

「なにかから逃げようとしてるとか? 負傷してるとかで」

「はい。必死で逃げた結果、二階に駆け上がった。退路がそこしかなかったのでしょう」

「場所はわかる?」

「あっちです」

「みんな、攻撃の用意を。僕が先頭を行く」


 負傷して逃げているとはいえ、相手がこちらに敵対しないとは限らない。むしろ手負いの獣は危険と言うし、生きるために凶暴性を増している可能性もある。

 魔剣を手にして、シャロの示した方向へ駆けた。

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