2-27 フレア・バレンシア
薄れゆく意識の中で、フレアは己を顧みることとなった。なぜ自分はこうなったのだろう。
バレンシア家の第三子にして次女。それがフレア・バレンシアという少女の立場。
バレンシア家は、このエラルドの街にいくつかある魔法家の名門の中でも一、ニを争う高位にある。
その当主は領主を補佐する仕事を代々していて、フレアの兄もいずれそうなると確実視されている。
第三子のフレアが、父や兄のような街の要職に就けるかはわからない。
もしかしたら他の有力な名門や貴族に嫁に出されるか、あるいは婿養子が入ってくるかも。
魔法使いの子供は魔法使いになるものだから、魔法家の娘は他所から婿を家に貰うことも多い。将来的に家を支える跡継ぎを作るだめだ。
いずれにせよ、フレアはお金持ちの娘として、この街この家で不自由のない一生を送るのがほぼ決まっていた。
フレアにとって、そんな生活を送るのは当然のことだった。
多くの金持ちと一緒で、家にお金も格もあるのが当然。下々の者より自分の方が立場が上。
力なき庶民を守り、導いていく指導者側の人間。その立場を受け入れていた。
お金持ち特有の気品というものだけは、どうも受け付けなかったけど。
小さい頃から男勝りというか、ガサツというか。いい加減な気質を持ってしまった。喋り方も随分強気な物になってしまった。
上流社会で生きるためには、見栄と虚栄心で飾り立てた態度が必要なのもまた事実。そういう意味では、フレアの性格も間違いではない。
金持ちに必要な気品は、相当な努力をして取り繕う術を身に着けた。
無理をしてるという自覚はあって、時々素が出てしまう。けど些細なこと。
名門の娘として生きるのに、大した問題にはならない。フレアの人生は、なお順風満帆だった。
けれどいつからだろう。両親やきょうだいと比べて、自分の魔法の才が劣っていると気づいたのは。
兄や姉が優れた魔法を見せつけるのはいい。自分も成長すれば、あれに追いつくだろうと思えるから。
けど、弟の方が良い才能を持っていると気づいた時には、さすがに辛かった。
それでも努力して、使える魔法の種類だけは多くできた。高度な魔法も、いくつか使えるようになりそうだ。
しかし努力ではどうにもできないことだってある。
自身が持っている魔力量が、他の家族よりも少ない。これは生まれつきの性質だから、努力でどうにかなるわけじゃない。
簡単な魔法なら問題なく使えるけど、一定以上の魔力量を消費する魔法は無理だ。
それでも相当高度な魔法以外はできるわけだし、家族の誰もフレアの性質を気にしていない。
名門の子女としては十分な能力を持っている。名門の次期当主とか歴史に名を残す大魔術師は目指せなくても、いい人生を送れるのは確実。
けど当のフレアは気にしていた。
家族より劣っている。一番下。その事実は、負けん気の強いフレアには堪えた。
見栄と虚栄心こそが大事な上流階級にあって、フレアには自分の性質が致命的な欠陥に思えた。
努力で克服できないことでも、なにか方法があるかもしれない。苦手な勉強をすれば、いい方法が見つかるかも。
それか、もっと別な新しい手段があれば。
役に立つものがないか屋敷の古い倉庫を探した。
見慣れない箱があれば、僅かな希望を託して開けてみた。
そのほとんどは、なんの役にも立たないガラクタ。
だけど見つけた。埃をかぶったボロボロの箱の中に、古いブレスレットが入っていた。それと、これがなんのかを書き記した紙片。
家に伝わる古い伝説。かつて魔法少女と呼ばれる力で、バレンシア家は領民を守ったという。
それが、バレンシア家が今の地位に就くきっかけでもあった。
その力は家の長い歴史のどこかで失われたらしい。なぜそれがここにあるのかは不明。けど、確かにここにある。
それを見つけた時のフレアの高揚感は計り知れないものがあった。
これさえあれば、自分はきょうだいを超えられる。それどころか、街の中で誰も敵わないような力を手に入れられた。
実のところフレアも、魔法少女がなんなのかは知らなかった。どういうものなのか。どんな起源があるのか。他にも魔法少女がいるのかなど、知る由もない。
そんなことは、フレアにはどうでもよかった。
見つけたことは誰にも伝えず、とりあえず自分だけで使うことにした。
完璧に使いこなせれば、このブレスレットは自分が持つにふさわしいと喧伝できる。家族の誰かに取り上げられることもない。
部屋の中でこっそり変身。夜中に屋敷を抜け出して、人気のない場所でできることを確認していく。
そんな日々の最中、謎の義賊の存在が世間を騒がせていた。
お金持ちから金品を盗んで、貧しい人々に配っているそうだ。
くだらない偽善者。フレアは即座にそう断じた。
金持ちが金持ちなのは、それにふさわしい立場と責任があるからだ。街を統治し、富を回し、人々を守る。その役目を負うからこそ、それに対する報酬を貰える。
世間から義賊と呼ばれているその小悪党のすることは、単に街の秩序を乱すだけに過ぎない。
それに、恵まれない者に金を配っているという噂も怪しいものだ。
配られたという者が出てこないのだから。
そんな奴がいれば、城の兵士が押しかけてその金を回収するだろう。当然だ。奪われた金なのだから。あるべき場所に返さなければ。
だけどそんなことがあったなんて話、フレアの耳には入らなかった。
理由は簡単だ。金を配られた貧乏人なんていない。
金持ちばかりから盗む泥棒は確かにいるのだろう。そこから、貧乏人に施しをするなんて風に噂が付け足されたに過ぎない。
どっちにしても許しがたい人物だ。盗みを働く悪党ならば成敗しなければいけない。
それが自分たち、人の上に立つ者の使命。
そしてこれは、魔法少女の力を使いこなせることを周囲に示す格好の機会でもあった。
だから毎晩、魔法少女ブレイズに変身して、例の泥棒が現れそうな富裕層の住宅街を見回った。




